組織犯罪の“ボス”が近く出頭へ

2020年の大統領選挙で、ジョージア州での敗北した結果を覆そうとした罪で起訴されたトランプ前大統領が、24日、同州の拘置所に出頭する。

拘置所では、大統領経験者として特別扱いはされず、ほかの被告人同様、通常の逮捕手続きが行われることになる。これまで3度の起訴時にはなかった「mug shot」と呼ばれる「顔写真」も撮影され、公表される予定だ。さらに指紋の採取や住所確認も行われる見通し。

トランプ氏もこのような写真を撮影・公表される見通し(写真はトランプ氏の元顧問弁護士・ジュリアーニ元NY市長 23日ジョージア州)
トランプ氏もこのような写真を撮影・公表される見通し(写真はトランプ氏の元顧問弁護士・ジュリアーニ元NY市長 23日ジョージア州)
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大統領経験者として、さらに来年の大統領選に向け、共和党内で独走を続ける最有力補候補として待ち受ける、またしても前例のない事態は、今後どのような展開を繰り広げるのか、予測は難しい。

トランプ氏の保釈金は21日、20万ドル(約2920万円)に設定され、証人や18人の被告らを脅したりしないよう警告もされている。

トランプ氏は自身のSNSで早速、「木曜日にジョージア州アトランタに行き、逮捕される。選挙への干渉だ」と怒りをあらわにした。

トランプ氏が4度目の起訴の対象となった法律は、組織犯罪を取り締まる「RICO(Racketeer Influenced and Corrupt Organizations Act)」と呼ばれ、マフィアなどの組織犯罪にも適用されてきた。トランプ氏は、同じく起訴された側近ら18人の犯罪集団のボスとして、選挙結果を覆そうと脅迫や文書のねつ造などを指揮したなどとされている。

裁判でトランプ氏は、これまで同様、大統領選で不正があったと主張し、起訴内容を否認するとみられる。

たとえトランプ氏が有罪判決を受けたとしても、大統領に返り咲けば自身に恩赦を与えるとしているが、今回のような州法に関わる事件では、大統領に恩赦の権限はない。

ジョージア州の法律では、恩赦を与える権限は、独立した州の委員会に委ねられている。そうすると、大統領選前に有罪(RICO法は5年から20年の懲役刑)となれば、刑務所からの選挙戦も現実味を帯びてくることになる。

検察側は初公判の日程を3月上旬に想定している。初公判は中継もされる見通しだ。

強気の姿勢も裁判の影響を考慮か、ささかれる資金難

トランプ氏は、ジョージア州の大陪審での起訴を受けて、今月21日に記者会見を予定していたが、急きょ取りやめた。さらに、共和党内での圧倒的な支持率を自身のSNSで紹介し、候補者レースの幕開けとなる23日の共和党候補者討論会の欠席も表明した。

拘置所への出頭のタイミングに重なる候補者討論会だけに、裁判への影響を最小限に抑えるためだとの米メディアの分析もあるが、トランプ氏や陣営にとっては、悩ましい決断だったに違いない。

そんなトランプ氏は今後、資金難に陥るかもしれないという米メディアの報道もある。
機密文書の持ち出し(フロリダ州の連邦地裁大陪審が起訴)と、2020年の選挙を覆そうとした(ワシントンDCの連邦地裁大陪審が起訴)連邦事件の捜査を指揮するジャック・スミス特別検察官が、トランプ氏の2020年の大統領選以降の資金調達活動の調べを進め、状況によっては選挙後の寄付金が凍結される可能性もあるという。
さらに、これまで多額の選挙資金を裁判につぎ込んできたことから収入が支出を上回り、資金難に陥っているとの指摘もある。

フロリダ州の連邦地裁前 今年6月
フロリダ州の連邦地裁前 今年6月

試練続くも起訴を政治利用 支持基盤を一層強固に

トランプ氏は、3度目の起訴に合わせて「もう一度起訴されれば大統領選で勝てる」と自身のSNSに書き込み、起訴のたびに、資金集めと党内支持を固めてきたことを追い風に「4度の起訴が必要だ」との強気の構えを見せてきた。

実際に3度目の起訴を受けて、ワシントン市内でトランプ氏の裁判所入りを待ち受ける支持者からも「最高だ。ジャック・スミス(特別検察官)、トランプ陣営のための無料広告をありがとう」などと言う声も聞かれるなど、起訴による一連の動きを選挙活動と捉える支持者もいたほどだ。

4度目の起訴を受け、拘置所で撮影される「顔写真」についても、陣営や支持者が顔写真をTシャツなどにし、政治利用するのではないかとの見方もある。

政治サイト「リアルクリアポリティクス」のまとめでは、トランプ氏の共和党内の支持率は21日の時点で55.8%と、2番手のデサンティス・フロリダ州知事の4倍に迫る勢いだ。もはや独走状態のトランプ氏は共和党内で圧倒的な支持を集め、政治的地位は揺るがない状況となっている。

(FNNワシントン支局 千田淳一)

千田淳一
千田淳一

FNNワシントン支局長。
1974年岩手県生まれ。福島テレビ・報道番組キャスター、県政キャップ、編集長を務めた。東日本大震災の発災後には、福島第一原発事故の現地取材・報道を指揮する。
フジテレビ入社後には熊本地震を現地取材したほか、報道局政治部への配属以降は、菅官房長官担当を始め、首相官邸、自民党担当、野党キャップなどを担当する。
記者歴は25年。2022年からワシントン支局長。現在は2024年米国大統領選挙に向けた取材や、中国の影響力が強まる国際社会情勢の分析や、安全保障政策などをフィールドワークにしている。