ギャンブルで大当たりを経験した後、“次も当たりそうだ”と思ってしまうことはないだろうか?

実はこれ、人間だけでなくサルも同じような判断をしがちだという。筑波大学医学医療系の山田洋准教授らの研究チームが明らかにした。

実験で研究チームは、マカク属のサル2頭(ニホンザル1頭、アカゲザル1頭)にくじ引きを繰り返し経験させて仕組みを覚えさせた。モニターには2つの円形のくじが写し出され、くじの上半分の緑色の区画は報酬であるジュースの量を意味し、下半分の青色はジュースの量が当たる確率を意味する。

研究につかわれたくじ(画像提供:筑波大学 山田洋准教授)
研究につかわれたくじ(画像提供:筑波大学 山田洋准教授)
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サルは2つのくじのうちどちらかを選ぶと、そのくじの結果が与えられる。10カ月ほど訓練すると、サルはくじが意味する確率とジュースの量を理解し、できるだけ多くの報酬を得られるようにくじをひくようになったという。一方で、ヒトの場合は、72人に報酬にジュースの代わりにお金を用いて実験を行った。

これを分析した結果、サルでもヒトでも予想外に大きな利得が得られた次のギャンブルで、確率に関する判断が高まっていることがわかった。つまり、サルもヒトも予想外の大当たりを経験すると、なぜか「次のギャンブルも当たるのではないか?」と感じてしまい、論理的な判断力にゆがみが生じるというのだ。

人間らしい行動がサルでも同じように行われることには驚きだが、このユニークな研究が今後、どのように活かされるのか? 研究チームの一人である筑波大学医学医療系の山田洋准教授に詳しく話を聞いてみた。

マカク属のサルはヒトに近い脳構造

――そもそも脳の仕組みとして、なぜ人間はギャンブルをしたくなる?そして依存症が起こるの?

大当たりに対する感受性は人それぞれですが、個人の中には「大当たり」が凄く強い快楽を引き起こし、癖になってしまうような個人の方もおられるというのが、一つの答えになるかと思います。個人個人の遺伝的な生物学的な違いによります。この「快楽」「クセになる」というのは、薬物によって大きく影響を受けることが分かっているため、薬物も含め、依存症が起こると説明する事ができます。


――サルの中でもマカク属のサルを選んだ理由は?

実験動物としてのヒトへの類似性が挙げられます。もう一つ最近良く使われる実験動物のマーモセット(新世界ザル)に比べて、ヒトに近い脳構造を持っています。ヒトを理解したくてサルを用いて研究しているのが大きな理由です。


――人間とサルの脳はどれくらい近い?

ブロードマンの領野と呼ばれる脳を解剖学的に分類した内容からすると、マカクザルとヒトはげっ歯類とヒトより遥かに近く、ほぼ同じような構造を備えています。ただし、大きさがずっと小さいです。実験動物の中では、マカクザルはヒトにとても近い動物です。

サル ※イメージ
サル ※イメージ

――実験ではサルは2頭だけとのことだが、サンプル数としては十分だった?

科学的には、ヒトと同じ程度の個体数を測定するのが理想と思います。ただし、ギャンブルをサルに教えるのにだいたい10カ月程度かかりましたので、現実的に数頭で行うというのが限界です。

このような場合に、サルを用いた室内実験では、一頭で見られた効果がもう一頭でも再現してみる事ができた、として科学的な証拠として採用する文化があります。ですから、サルを1頭ずつ丁寧に比較して検証したのに対し、ヒトは72人の平均的な特徴を抽出して比較しています。

大外れの後、悔しがって怒るサルも

――サルは大当たりを認識することはできる?

できると思います。大当たりで興奮するような個体もいました。また、大外れの後、悔しがって怒ったりする個体もいます。サルはヒトに近いため、サルの表情の変化をヒトも認知することができるのが、こう感じる理由です。


――研究結果は社会的にどう活かされる?

研究成果が、社会的に活かされる方向性としては、次の2点があります。

〈その1〉
サルを用いるとその脳の仕組みを詳細に調べる事ができます。ヒトがどのような価値観を持つかを、類似の価値観を持つサルの脳を調べることで理解することができます。

〈その2〉
ギャンブル依存症の判別やその治療法の開発に、この知見を活かす事ができます。ギャンブル依存症を引き起こしやすいヒトとそうでないヒトが居ますが、今回の行動の強さと、その個体の脳を調べることで依存症の発症メカニズムと治療法の開発を検討できる可能性があります。


――この先はどんな研究をする予定?

脳がどうやってこのような判断を生み出すのか、その計算の仕組みを理解したいと考えています。ひいては「心とは何か?」を実証科学として研究していきたいと思っています。



山田准教授によると、研究はギャンブル依存症の治療法などに役立てられそうということだ。研究を続けて、ぜひとも脳の解明につなげてほしい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。