京王線無差別刺傷事件で、東京地裁立川支部は服部恭太被告(26)に懲役23年の判決を言い渡した。この事件について、裁判を取材してきた社会部の高沢一輝記者が解説する。
ハロウィーンの夜の悪夢
走行中の電車内で起きた今回の事件、東京地裁立川支部は服部被告に懲役23年の判決を言い渡した。この事件では、犯行当時の電車内の様子が多く撮影されていた。

2021年10月、事件当時の車内映像では、乗客が慌てて逃げ出す様子や奥の車両には激しい炎も見える。電車のドアが開かず、窓から脱出する乗客もいた。そして犯行後に服部被告が、堂々と席に座ったままタバコを吸っている様子も撮影されていた。

事件が起きたのは2021年10月31日、ハロウィーンの夜。ちょうど、衆議院議員選挙の投開票と同じ日だったことを覚えている人も多いだろう。
場所は京王線の調布駅から国領駅を走っていた電車の中、乗客は逃げ場のない状況だ。服部被告は男性の胸をナイフで刺した上、車両に火をつけ、別の乗客12人と合わせて13人を殺害しようとした罪などに問われた。
今回の裁判の争点は「刺した男性以外の12人に対して殺意はあったかどうか」などだ。服部被告側は「殺意はなかった」と主張した。

また、逮捕時は金髪で派手な印象があった服部被告だったが、法廷では黒髪で大人しい印象で、別人のようになっていた。そして、うつむき気味にぽつりぽつりと自身の人生について語る場面もあった。

服部被告は小学校と中学校の時にいじめを受けていたという。そんな中、中学3年生の時に彼女ができた。「自分はゴキブリのような存在だと思っていたが、そんな自分と付き合ってくれたのがうれしかった」と当時の心境について述べた。
そこからは人生が変わり、高校に進学後は空手部に入部して部長も務めていた。
「彼女との別れ」と「部署異動」
服部被告は法廷で、事件を起こした2つの契機を語っている。

その1つが「心の支えになっていた彼女との別れ」。
中学生時代から交際し、結婚も視野に同棲をしていたが、交際から約9年後の2020年11月8日、自身の誕生日に突然別れを告げられた。
さらに、別れてから半年後の2021年6月、元交際相手が別の男性と結婚したことを知ってショックを受けたという。

そして、2つ目の契機が「勤務先での部署異動」。
服部被告は職を転々としていたが、2018年から働き始めたコールセンターが「初めて周りから認めてもらえる職場」だと感じ、この部署でずっと働きたいと思っていた。
しかし、客への対応ミスを起こしたことをきっかけに、2021年6月に部署の異動を告げられた。

この2つの出来事が同じ時期に重なってしまったことで「自分に存在価値がない。死にたい」と考えるようになったという。
それでは、「死にたい」という気持ちが、どうして多くの人の命を奪おうとした事件につながったのだろうか。

服部被告はいじめや職場での人間関係の悩みから、過去に2度自殺を図ったものの失敗していた。そこで、確実に死ぬためにどうすればいいかと考えたところ「大量殺人をして死刑になりたい」と考え始めたという。

そこで、死刑になるためには「2人以上を殺害しないといけない」と考えた服部被告は、人が密集しているハロウィーンの渋谷で無差別殺人を起こすことを思い立った。
しかし、2021年8月に起きた小田急線の事件を知って「走行中の特急電車であれば逃げる場もないので、より多くの人を殺せるだろう」と考え、電車内での犯行に変更したという。
ジョーカーになりきるために借金
この事件では、映画「バットマン」の悪役であるジョーカー姿で犯行に及んだことも話題になったが、裁判ではそのことについても語られた。
裁判でジョーカーの格好について質問された服部被告はこう話している。

服部被告:
ジョーカーが目標だった、なりきろうと思った。ジョーカーは人の命を軽く見ている。人を傷つけることに対して何とも思っていない。自分もそのくらいの感覚を持たないと殺人を犯せないと思った。
そのジョーカーになりきるために借金をして、スーツやコートなどを24万円かけて購入していたことが明らかになった。

東京地裁立川支部は、争点となっていた殺人未遂について、12人のうち10人に対して成立を認定し、懲役23年という判決を出した。
さらに「落ち度のない被害者の精神的苦痛。焼き殺されるのではないかという恐怖や不安は計り知れない」と指摘した。
服部被告は判決をじっと前を見据えて聞いていた。また、裁判長は最後に「苦しくても生きて、償いをすることを忘れないでください」と服部被告に語りかけた。
裁判の最後には、服部被告から初めて謝罪の言葉が出たことは、被告の気持ちが反省に向かっている兆しなのかもしれない。
(「イット!」 7月31日放送より)