絵本の『ぐりとぐら』。このベストセラーが誕生して2023年で60年になる。絵本を発行しているのは福音館書店という出版社だ。かこさとし作「だるまちゃん」シリーズやジブリ映画の原作『魔女の宅急便』なども福音館書店が発行している。福音館書店の佐藤潤一社長に絵本に込めた思いを聞いた。

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『ぐりとぐら』を生んだ絵本の出版社

『ぐりとぐら』に『おおきなかぶ』など、絵本のロングセラーを数多く出版する福音館書店。そのトップが佐藤潤一社長だ。「子どもがいかに喜ぶ本を作るか。子どもの目線になって本作りをできるかどうかに尽きる」と子ども本位のスタイルを貫いている。

佐藤潤一社長
佐藤潤一社長

東京都文京区に本社を構える福音館書店。生誕60周年を迎えた『ぐりとぐら』の看板が出迎えてくれる。佐藤社長は棚から絵本を手に取り「これは『エルマーのぼうけん』シリーズで、超ロングセラーです。この『めっきらもっきらどおんどん』っていう絵本はファンタジーなんですけど、子どもが妖怪のところに行くという話。この世界観がとても良くて」と一つ一つ紹介してくれた。

福音館書店
福音館書店

カナダの宣教師が始めた書店

発行部数560万部の『ぐりとぐら』を始め、子ども向けの絵本を中心に約1万点の作品を世に送り出してきた。福音館書店の原点について佐藤社長は「宣教師の方が金沢で小売りを始めた」と話す。福音館書店が誕生したのは1916年。カナダから渡ってきた宣教師が聖書などを扱う書店として、石川県金沢市の旧白銀町付近で開業した。

金沢で創業した福音館書店(写真右)提供:福音館書店
金沢で創業した福音館書店(写真右)提供:福音館書店

その後、本の流通関係の仕事をしていた佐藤社長の祖父、佐藤喜一さんが1940年に経営を譲り受けたという。

佐藤喜一さん 提供:福音館書店
佐藤喜一さん 提供:福音館書店

1952年には出版事業をスタートし、その後東京に本社を移したが、2012年までは金沢市の広坂通りに面した場所で店を続けた。東京で生まれ育った佐藤社長は大学を卒業後、サラリーマンを経て福音館書店に入社した。当時、会社の相談役だった叔父から「福音館というのは神様の創った会社だから、佐藤家個人の物ではないので心して経営をしなさい」と教えられた。「社会貢献のために福音館はある」という教えを受け継いだ佐藤社長は「子どもたちに喜んでもらうことで社会に貢献しようと。大人が子供に絵本を読んであげて、それが代々繋がっていくことが一番大事かなと思っている」と語る。

子ども心に寄り添う絵本づくりの現場

ある日のオフィス、社員の一人が佐藤社長に「これ見て下さいました?SNSがけっこうバズって、エルマーの持ち物を準備して35万リーチ」と声をかけた。佐藤社長は「そんなにいってるんだ。でも俺が出たSNSもかなりバズったよね」とおどけて答えた。コミュニケーションを取りやすい社内の雰囲気も絵本づくりには欠かせないという。「やっぱり子どもたちがワクワクするような本を作るためには社員が面白おかしく仕事をやっていないと。プロ意識を持ちながらですけど」。

社内では絵本の原画を並べたデスクを囲んで、編集部の社員が話し合っていた。最も重要なのは子供たちが絵を見てどう感じるかだという。絵と文章が合っているかや、色合いや文字のバランスが取れているかなど、細かい点まで確認していく。

編集部
編集部

キャラクターの心の動きを伝える

草稿段階から出版されるまでの過程で絵本は大きく変わっていく。その変化をラフ画と完成版を並べて教えてもらった。

関根里江編集長
関根里江編集長

参考にする絵本は、アイスクリームを買いたいのに恥ずかしがりやの性格で、中々買えないこぶたのお話。勇気が出せずくじけそうになる場面について、こどものとも第一編集部の関根里江編集長は「最初のラフ画ではこぶたは大きく描かれていますけど、出来上がった絵ではもっときゅうっと小さくなっている。『僕どうしよう』っていうこぶたの気持ちが子どもたちの目の前に現れる。気持ちと絵が合わさるように『小さく小さく描いて』と作家に相談していた」と絵本づくりの裏側を明かしてくれた。

ラフ画(上)と完成した絵本(下)
ラフ画(上)と完成した絵本(下)

絵本が完成するまでに平均でも2、3年の期間を費やすという。長いものだと10年かかる絵本もあるそうだ。佐藤社長は「たかだか28~32ページの絵本ですけど、それだけ丁寧に子どもたちに向けて作っているという自信がある。世代を超えて繋がっていくような本作りをしていくということしかない」と実直な絵本づくりを忘れない。いつの時代も子どもたちに良き絵本の訪れがありますように。そう願いながら佐藤社長は子どもたちのために絵本と向き合い続けている。

(石川テレビ)

石川テレビ
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