「ビッグモーター」が全国の工場で損害保険各社に対して保険金を水増し請求していた問題。売り上げを伸ばすために不正が常態化していた経緯が浮き彫りになってきている。テレビ西日本の単独取材で語られた不正横行の背景とは―。
故意に車体傷つけ…保険金を水増し請求
「なぜ不正が起きたのか?」記者の質問に対し、「まあ、やっぱり、一番上からの圧力ですよね。現場強要されるから、もう『やるか、やめるか、降格させられるか』の選択しかないので」と話すのは、中古車販売大手「ビッグモーター」の福岡県内などの店舗で、数年前まで工場長を務めていた男性だ。
この記事の画像(11枚)「ビッグモーター」は顧客の車の修理を行う際、故意に傷つけ、保険金を水増して請求していたことを認めている。
外部の弁護士がまとめた調査報告書によると、全国34カ所の工場の板金や塗装の案件から無作為に抽出した2,717件を検証したところ、1,198件の事案が不適切と疑われた。その中には福岡県内の事案も存在している。
「調査報告書」によると、福岡県内にある6店舗の事案も含まれていて、検証された548件のうち、半数に近い253件が不適切な事案の疑いがあるという。
福岡の「ビッグモーター」で何が起きていたのか?
無理無茶な目標 数字が悪いと殴ることも
元工場長によれば、発端は今から10年ほど前に「ビッグモーター」のトップ、兼重宏行社長が打ち出した売上目標にあるという。
九州内店舗の元工場長:
一番トップの方が「やっぱ数字は、これぐらい出して」と。売上至上主義と言いますか、無理な目標。無理無茶な目標ですよね。悪い工場があったとしたら「もうこの数字、どうなっとるんか。なめとんのか。ボケー!」と。目の前で殴られているのとか、見たことありますけどね。それも(殴ったのは)本部の方ですね
無理な売上目標を掲げられ、追いつめられていったという現場。利益を生む不正は公然と始まったという。
ーー不正に関わった?
九州内店舗の元工場長:
僕自身はないですね。私が直接見たことで話しますと、私がいたころの上司の本部の方が、ちょうど視察で回ってる時で、車両を預かって分解して見積もりしている最中で、「まあ、(エンジン等)中は大丈夫だね」っていう感じで、私は見てたんですけど、その横でちょうどその方がいらっしゃって、「気のせいじゃないか?中もいってるじゃないか?」って。「えっ、いってないですけど」っていう話になって、その直後に(車を)蹴飛ばした
九州内店舗の元工場長:
本当に「えっ」ていう言葉がないっていう状況ですよね。損傷させてしまっているので、もう修理せざるを得ない。保険会社さんには、「ここも損傷していました」と言って送るしかない状況。そこまでして数字を求めなきゃいけないのかなっていうのは思いましたね。(蹴飛ばした人は、まだ)現役ですね
不正は全国の店舗に広がった。
ネジを突き立て…わざとパンク
2021年6月に福岡県外の「ビッグモーター」で撮影された映像に映るのは、顧客から預かった車のタイヤにドライバーでネジを突き立てる「ビッグモーター」の当時の工場長だ。わざと顧客のタイヤをパンクさせることで、保険会社にタイヤ代を不正に請求したという。
九州内店舗の元工場長:
(売り上げを上げるように)どうしても上から詰められるので。今だったらパワハラですよね、それぐらいの勢いで言われるので、まあ耐えられない人は、もう(不正を)やっちゃう。基本的にやりたくないっていう人もやっぱりいるので、従わないことによって更迭されたり。で、まあ「危ないな」と思って辞めていく人っていうのがどんどん増えていって、今の体制になったっていうような感じですね。傷を増やして、見せかけの数字を作って、社長とかは、そういった内部まではわからないので、「頑張ってるんじゃないか」っていう評価になるんですよね
今回の保険金不正請求問題で「ビッグモーター」トップの兼重社長は、報酬全額を1年間返上とする方針を固めたという。国土交通省も行政処分を視野に調べを進めていて、「ビッグモーター」はこれに応じる意向だという。
信頼して車を預け、被害を受けている方もいると思われる中、早急な全容解明が求められる。
(テレビ西日本)