2022年8月の大雨で、住宅の浸水被害が最も多かった山形・川西町。度重なる被害を受け、各地で復旧や整備が追いつかず不安が続く中、住民の間には「自分の命は自分で守る」という避難への意識が高まっている。

被害から1年 災害への対策は…

記者(2022年):
大きな被害があった川西町の上空です。川西ダリヤ園周辺で沼が決壊したことは確認していますが、あらゆるところに水がたまっていて、土砂もたまっています。どういった水の流れで浸水被害が起きたのか、わからない状況です

2022年 被災時の川西町
2022年 被災時の川西町
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2022年8月の大雨で、377棟の住宅が被害を受けた川西町。その数は、県全体の住宅被害の約半数を占め、床上浸水では8割を超える。なぜ川西町で被害が大きくなったのか。

決壊した農業用ため池
決壊した農業用ため池

記者(2022年):
堤防でしょうか、陥没しています。かなり規模が大きいです

川西ダリヤ園のすぐそばにある農業用ため池・鏡沼。大雨の際に雨水をためるダムとしての役割も担っていたが、2022年の大雨では、あふれた沼の水が堤防を削り決壊した。

川西町の住民の声
川西町の住民の声

住民:
えぐれている所が壁だった。信じられない。あり得ない

被災から1年も堤防は決壊当時のままに…
被災から1年も堤防は決壊当時のままに…

記者(2023年):
川西町の鏡沼。大雨から間もなく1年がたとうとしているが、今も決壊した堤防は当時のままで、ブルーシートがかけられただけの状態です

本来、水があった場所には雑草が生い茂り、いまだ手つかずといった状態。しかし町は今、2022年以上の大雨の際にも対応できるよう、鏡沼だけでなく周辺の治水力も高めるための整備に着手している。

鏡沼が決壊した要因の一つが「排水力が足りなかった」ことだ。大雨で沼の水位が上がった時に水を逃がす「水路」は元々あったが、24時間降水量が400mmに迫った2022年の雨量には対応できなかった。排水が追いつかず沼の水が越水、鏡沼の決壊につながった。決壊した沼から流れ出た水と、さらにこの水路からあふれた水が周辺の住宅を襲った。

復旧にあたる作業員
復旧にあたる作業員

復旧にあたる​作業員:
大きい水路を造って、鏡沼の許容以上の水を排出する。水路が小さければ飲みきれない。大きければ排出できる

町は鏡沼の復旧作業に先駆け、水路の拡幅工事を実施。幅を広げることで排水の機能が4倍に。さらに水路からの越水も防げると期待されている。

川西ダリヤ園の周辺で復旧作業をする住民
川西ダリヤ園の周辺で復旧作業をする住民

記者(2022年):
川西ダリヤ園の周辺では、住宅への浸水も起きています。住民の皆さんが復旧作業を進めています

工事は着々と進んでいるが、「復旧後にまた鏡沼が決壊するのでは」と、複雑な思いを抱いている人が多いのもまた事実だ。

2022年に床上浸水した家の住民
2022年に床上浸水した家の住民

2022年に床上浸水した家の住民:
鏡沼が直ってもどこまで管理してもらえるか不安。修繕していないから、これ以上は決壊しないという安心感がある。鏡沼が直ったら、こういう大雨が降る気候だから、また決壊したら大変、不安。雨が降ると不安

排水路の拡幅は2023年中に完成予定で、鏡沼の復旧工事は2024年度中に完了する見通しだ。

氾濫した堤防 対策は「調査中」

記者(2022年):
田んぼが湖のようになっています。さらに向こうの住宅にも水が入って行っています

川西町吉田の浸水時の様子
川西町吉田の浸水時の様子

川西町吉田では、町内を流れる誕生川とその支流・万福寺川に囲まれたエリアで、1メートル以上水につかった。

この地区で印刷業を営み、自宅と工場が浸水した五十嵐栄市さんは、浸水した理由について「誕生川と万福寺川の合流点がある。万福寺川が小さい川なので、そこから逆流したのだろう。3年前にも同じ現象で氾濫した」と話した。

浸水被害を受けた五十嵐栄市さん
浸水被害を受けた五十嵐栄市さん

繰り返される氾濫。何度も同じような被害が起こる理由は…。

氾濫が起きた万福寺川
氾濫が起きた万福寺川

記者(2022年):
氾濫が起きた万福寺川です。下流側は堤防が高いが、上流側は堤防がかなり低いのが確認できます

橋を境に上流側の堤防が低い
橋を境に上流側の堤防が低い

2つの川の合流地点に近いところには高い堤防が作られているが、この橋を境に上流側の堤防は低くなっている。今回も堤防が低くなった部分から水が溢れたとみられていて、地元の人は「より高い堤防」の整備を強く求めている。

五十嵐栄市さん
五十嵐栄市さん

五十嵐栄市さん:
このくらいの高さの堤防が続いていれば、水はあふれなかったと思う。高い堤防の方は越えていないから

あれから1年。低い堤防は再整備されることなく、低いまま。管理している町の地域整備課は「万福寺川は特に対応が必要な箇所で、治水対策の優先度は高い」としている。しかし現在も「対策を講じるための調査を行っている段階」で、対策の内容や完了時期については「未定」としている。

住民の「避難への意識」高まる

五十嵐栄市さん:
自分で何とか命を守っていく手段しかないと痛感した

度重なる被害を受け、高まる避難への意識。

隣の米沢市全域に「避難指示」が出された6月28日の大雨の際、この地区では自主的に避難した人が多かったという。五十嵐さんも、もしもの時の行動を前もって「具体的」に考えるようになった。

五十嵐栄市さん
五十嵐栄市さん

五十嵐栄市さん:
大雨警報が出た時点で、仕事はストップして運べるものは全部運ぶ。父と母は避難所ではなく、妹の所に避難すると決めている

こうした住民の避難や安全の確保に役立てようと、「新たな取り組み」も始まった。町が吉田地区をはじめ、町内の27カ所に設置を進めているのが浸水センサー。

浸水センサー設置担当者の声
浸水センサー設置担当者の声

設置担当者:
下の方が水深5cmでセンサーが反応する。上の方が10cm

道路が冠水すると、その情報が送信され、町役場など離れた場所でも確認することができる。安全な避難ルートを決めたり、避難所の開設など、町民の安全を確保するための情報として活用できると期待されている。

川西町安全安心課 危機管理グループ・鷲尾優さん
川西町安全安心課 危機管理グループ・鷲尾優さん

川西町安全安心課 危機管理グループ・鷲尾優さん:
現場に行かず、浸水の状況を確認することが期待できる。住民の避難情報に効果的に結びつけていけると期待している

五十嵐栄市さん
五十嵐栄市さん

五十嵐栄市さん:
1回被害にあったことがある人でないとわからない。相当精神的にくる。防災の意識はみんなが持った方がいいし、自分の所は大丈夫だって高をくくっていると、被害を受ける可能性はゼロではない。自分自身も意識をもっと持っていきたい

7月に入り、九州や秋田など各地で頻発する豪雨災害。いざという時に、どうやって自分の命を守るのか考えておかなければならない。

(さくらんぼテレビ)

さくらんぼテレビ
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