災害級の大雨は、人々の生活を一変させてしまう。2022年8月の大雨の被災地、山形・飯豊町で暮らす男性2人の今を取材した。

大雨により作業小屋と田んぼに被害

2022年8月3日、飯豊町小白川に住む舩山文利さんは自宅敷地内にある作業小屋を、氾濫した川からあふれ出た土砂に襲われた。

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舩山文利さん:
これ(機械)も水害にあって水をかぶったが、何とか機械屋さんに直してもらった。壁に残っている線、分かりますか?

ーー腰より上ですね

舩山文利さん:
ここに乾燥機があったんですが、廃棄したんです

小白川(右)のそばにある舩山さんの自宅(左の黒い家屋)
小白川(右)のそばにある舩山さんの自宅(左の黒い家屋)

舩山さんの自宅は小白川のすぐそば。県道の橋を崩落させるほどの濁流が小屋にも流れ込み、中にあった機械のほとんどが使えなくなった。

被害は小屋だけではない。川岸にあった田んぼは…。

土砂と流木に荒らされた田んぼ
土砂と流木に荒らされた田んぼ

舩山文利さん:
ここが田んぼだった。この通りの土砂と流木で…、見るも無残でがっかりして、どうしたら良いか言葉がなかった

15代続くコメ農家も“無念の離農”

舩山さんは、江戸時代から代々続くコメ農家の15代目。再建も考えたが、小白川の護岸工事が完了するまでの数年間は田んぼの再整備ができない。加えて、壊れた農機具の修理費用が重くのしかかった。

舩山文利さん:
何百万円とそろえて借金しても、あと何年できるか分からない。離農した方が得策だと思ってやめた。私で農業・農家はやめるということをご先祖様・仏様に「申し訳ない」と報告した

飯豊町によると、2022年8月の大雨で水田やアスパラ畑などが大きな被害を受けた。計1,194カ所が水に漬かったり土砂が流れ込んだりし、被害総額は126億円。
被害を受けた農家の中には、高齢や跡継ぎがいないことも相まって、農業を諦めた人も複数いるという。

舩山さんにとっても離農はやむを得ない決断。自ら区切りをつけたかったとしながらも、無念さをにじませる。

舩山文利さん:
天災はどこを恨んで良いか分からない。こういう運命。仕方ないと思って、何とか今後生きていかなきゃならないと思っている

舩山さんは田んぼの再整備をした後、この土地を別の農家に貸し出すことを決めている。静かに願うのは、この地に再び豊かな実りが生まれることだ。

床上浸水しても「やっぱりここにいたい」

自宅が水に漬かりながら、再び同じ家に住む決断をした町民もいる。

2022年8月に被災した直後の中村さんの自宅
2022年8月に被災した直後の中村さんの自宅

添川集落の中村喜重さんは周辺よりも低いところに自宅があり、あの大雨の日は床上まで一気に水が押し寄せた。2022年8月に被災した直後、中村さんは取材に対し「自宅の再建を諦めざるを得ない」と話していた。

中村喜重さん(2022年8月当時):
飯豊町にいたいけど、どうしようもない。やっぱり娘のところが良いんじゃないかな。行くことになるでしょうね

飯豊町内で確認された住宅被害は全壊2軒、半壊47軒、床下浸水142軒の計191軒に上った。今も壊れた自宅の修復を待ちながら避難生活を送る世帯がある一方、自宅の再建を諦め、町内に転居したという世帯もある。

そうした中で中村さんは、町や国からの助成金を活用することで、改修の見込みが立つことが分かった。自宅の再建を終え、仮住まいしていた町営住宅から戻ってきたのは2023年4月のことだった。

中村喜重さん:
役場に行って罹災(りさい)証明を出して補助について聞いたら、これだったら不足分を出して残ろうと。やっぱりここにいたい

今、中村さんのもとには、福島市に暮らす娘や親族が頻繁に訪れている。娘の重美さんは、残る決断をした父への率直な思いを口にする。

長女・重美さん:
住み慣れたところが良いというから連れては行けない状況。多分、また起こらないということはない。また水は上がってくるかなと思う。次に起こったら、もう住めないと思った方が良いかな…

もしあの日、判断がわずかでも遅れたら、今こうして家族と共に過ごす時間も失われていたかもしれない。

中村喜重さん:
床上まで水が来た時は、怖いとは思っていなかった。床上で止まると思った。そうしたら水が一気に来た。やっぱり危険を察したら、すぐ行動を起こさないとダメだと思う

日常を否応なしに一変させる大災害。被災者からは、災害に対する心構えや普段からの備えの大切さを訴える切実な声が聞こえてくる。

「浸水マップ」で災害に対する備えを

2022年の大雨の際、飯豊町では規模の小さい川や用水路から水があふれ、被害が拡大した。町のハザードマップでは、大きな河川の周辺だけを浸水区域と想定していて、2022年は「想定外の事態」が起きたことになる。

町はこの教訓を踏まえ、2022年に浸水被害が発生した箇所を住民から丹念に聞き取り、7月に新たな「浸水マップ」を作成し、すべての世帯に配布したという。

(さくらんぼテレビ)

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