大雨による災害を食い止めるために必要な「ハード面」の整備について。最上川がはんらんした2020年7月豪雨から3年、被害に遭った川沿いの地域では「堤防」の整備が進んでいる。

“待望”の新堤防の整備

全国で大雨による災害が頻発する中、山形県内でも過去に水害に見舞われた地域では、川のはんらんなどを防ぐためのハード面の整備が進んでいる。

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2020年7月の豪雨で浸水被害にあった村山市長島地区。自治会長の小野松悦さんは「この家もあの家も床上浸水…」と、当時の様子を語った。

U字カーブする最上川に囲まれたこの地区では、水位が上昇した最上川の水が住宅地に押し寄せ、29世帯のうち7世帯が床上浸水した。

この被害を受けて2023年6月に完成したのが、住宅地一帯を囲む新しい「輪中提(わじゅうてい)」だ。

延長1,360メートル・高さは約5メートルで、河道掘削で出た土砂を盛り土に活用するなどし、もともとあった堤防を約2.5メートルかさ上げして造られた。

1967年の羽越豪雨や2013年の豪雨でも水害に悩まされてきた住民たちにとって、新堤防の整備は“待望”だったという。

長島自治会長・小野松悦さん:
令和2年(2020年)の洪水のあとに結構短い期間で完成したと思う。地区の人は堤防ができて安心した。だいぶ高くなったので、住宅はもうほとんど洪水で被害を受けるということはないと思う

景観が重視されてきた百目木地区

同じく、2020年7月豪雨で被害に遭った大江町左沢の百目木地区。

2020年のリポート:
一帯が冠水して一夜明けました。濁流によって流れた泥が、私の長靴が半分埋まるほどまでたまってきています

近くを流れる最上川の水が流れ込み、25棟のうち21棟が床上・床下浸水した。そして、2022年8月の豪雨でも、左沢付近で最上川の水があふれる「溢水(いっすい)」が発生。再び浸水被害が相次いだ。

百目木地区堤防整備推進委員会・若月孝会長:
100年に一回と言われることが、この3年で2回も起きてしまうということが、みなさんの危機感を一層強めた。「半年でも1年でも早く堤防を作ってほしい」「早めてくれ」という意見が多かった

国の重要文化財にも指定されている百目木地区の最上川沿いは、その美しい景観を重視しこれまで堤防がなかった。

しかし、度重なる水害を受け堤防の整備計画が進み、2022年8月、住民は国が示した堤防の計画案に合意した。

完成イメージに住民は…

堤防の建設に伴い、川沿いの住宅は移転が必要になってくるが、堤防は町道を覆うようにして造られるため、町道をはさんだ反対側の住宅も移転しなければならない。

当初の合意案では、堤防は全長約350メートル・高さ最大5メートル。堤防の建設に伴って住宅など約20軒が移転の対象となる。

移転対象となっている場所で温泉旅館を営む柏倉京子さんは、二度も大雨で浸水し、旅館は休業に追い込まれたが、それを乗り越えリフォームした館内でおもてなしを続けている。

あてらざわ温泉湯元旅館・柏倉京子女将:
家屋調査もほぼ終わったような状態でそろそろ移転の気持ち。「あーそうなんだな、移転しなきゃいけないんだな」と感じているのではないかな。私もそうだけど。私は本当に移転する前の日まで、ここで現役で頑張りたいと今すごく思っている

現在、町は百目木地区内の近い場所に移転先を設定し測量設計を行っているが、柏倉さんはこの地区から離れ、左沢の別の場所に移ることを決めた。

あてらざわ温泉湯元旅館・柏倉京子女将:
やっぱり水害の心配がないところが一番。左沢の空気も吸って暮らしていきたい

大きな決断をした柏倉さんには、いま心配していることがあった。

あてらざわ温泉湯元旅館・柏倉京子女将:
一番最初の設計がちょっと遅れているような状態で、一番重要なところが遅れているのではちょっと心配。雨が降るとやっぱり心配というか、いつも心配がつきない

当初の計画では2023年3月までに完了するはずだった堤防の詳細設計が、半年ほど遅れているというのだ。住民の合意案では、景観を保つためと内水氾濫を防ぐため、堤防を川から最大で約50メートル離し、山側に寄せる予定だったが…。

石山剛さん:
堤防の位置ももっとそっち(川側)に行ったらいいという人もいれば、こっち(山側)がいいという人もいれば、なかなかいろいろあって

移転エリアから外れ、今の場所に残れることになった石山剛さんは、7月7日に国土交通省から堤防の完成イメージについて説明を受けたという。

石山剛さん:
スロープ状になってけっこう家に近いのではないかという話になった。高さは結局この高さだから。上を歩く人からその足で見られるのではないかという話が出てきて、近ければ近いほど嫌だという意見があった

町が5月に開いた説明会でも国が示した堤防案について、住民から「圧迫感があると、今後住んでいく中で生活しづらい」という意見があがったという。

大江町建設水道課・櫻井洋志課長:
5月に住民説明会を行ったのは「文化的景観」ということの重要性を説明するという意味合いもあった。やっぱり個別・細かいところではなかなか折り合わないところも多少あると思うが、そこは町としても生活に不便のない形で落としどころを見つける。そういった調整は、国交省も含めてしていく必要があると感じている

専門家などからは「周辺の景観に溶け込むようにしてほしい」という意見も出ていて、「生活」と「景観」両方を尊重した堤防が求められているが、住民は1日でも早い完成を望んでいる。

石山剛さん:
景観うんぬんと言われれば仕方ないが、それがネックなのもある。そんなことを言っている場合じゃないというのが大きく輪を書いてとなったら一番いいと思う

大江町建設水道課・櫻井洋志課長:
生命財産をないがしろにして景観を守るということではない。1日でも早く堤防を作るということが住民の生命財産を守るということになるので、リミットは遅らせない

予定通り2027年度の完成を目指し、町はこの夏の間に詳細設計を固め、できるだけ早く住民に説明できるようにしたいとしている。

(さくらんぼテレビ)

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