2022年8月の大雨で大きな被害を受けたJR米坂線は、7月21日現在も一部運休しており、復旧のめどは全く立っていない。米坂線は今後どうなるのか? 被災した鉄道を抱える他県の実例も踏まえ考える。

JR米坂線 復旧へ5年と86億円

2022年8月の豪雨で崩落したJR米坂線の「小白川橋梁」。米坂線の被災箇所は、ほかにも飯豊町・小国町を中心に、山形・新潟両県あわせて112カ所に及んだ。

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このため山形・長井市の今泉駅と新潟・坂町駅の間では運行再開の見通しが立たず、2022年8月以降、バスによる代行輸送を余儀なくされている。

JR東日本は、米坂線を元通りに復旧した場合にかかる費用を「86億円」、復旧にかかる期間を「工事開始から5年」と試算した。

記者:
去年の豪雨で米坂線の鉄橋が崩落した現場に来ています。崩れ落ちた橋は撤去されたままで、復旧の見通しなどは立っていません

崩落した「小白川橋梁」では、落ちた橋はすでに撤去され、土台だけが残されている。

さらに、あの豪雨から間もなく1年たつが、線路も当時のままの曲がったままの状態で取り残され、いまも害の爪痕が残っている。

米坂線の沿線自治体の1つ、飯豊町の後藤幸平町長は「1つの交通機関がいま、我々の手元にないということの喪失感は非常に大きい」、「米坂線の復旧は、JRをはじめ、国と県の力で成し遂げてほしい」と訴える。

飯豊町・後藤幸平町長:
米坂線は何とかしなければいけない。しかし、財政が厳しい災害後の基礎自治体(飯豊町など)が負担をするのは、やはり賛成できない

東北3県のローカル鉄道の実例

復活を望む声が強い一方で、費用負担が難しいとされるローカル鉄道の復旧…。過去の災害で被災したローカル鉄道に対し、これまでJRはどのような対応をとってきたのか。岩手・宮城・福島、3県の例をみてみる。

岩手県の「JR岩泉線」は、2010年7月、大雨の中走行していた列車が、線路をふさいでいた土砂に乗り上げる脱線事故を起こした。

乗客:
警笛が鳴って、「ガシャ!」といった感じですかね。前の座席にぶつかって頭をけがしました

事故後、JRは「復旧する場合、落石対策に130億円かかる」として、鉄道での復旧を断念し、「バスへの転換」を提案。沿線の自治体は、当初JRに反発したが、最終的には受け入れた。

JR東日本は国交省に廃止届を提出。同一線区が全線で廃線となるのは、1987年のJR東日本発足以来「岩泉線」が初めてだ。

続いて、東日本大震災の津波で被災した宮城県の「JR気仙沼線」と「大船渡線」だ。

JRは、復旧費用1,100億円について「全額負担は難しい」との考えを示した。沿線の自治体は「鉄道での復活」を強く求めたが、震災前から利用者数が低迷していたことから、震災の1年半後に暫定運行が始まった「BRT(バス高速輸送システム)」を存続させることで決着した。

BRTは、元の線路の一部をバス専用道として整備したもので、専用の道路を走るため、鉄道のように時間通りの運行ができることが特長だ。気仙沼線のBRTは、運行開始からすでに10年がたった。

2011年7月の新潟・福島豪雨
2011年7月の新潟・福島豪雨

福島県の「JR只見線」は、2011年7月の新潟・福島豪雨で大きな被害を受けた。沿線の自治体は、只見線が観光客に人気が高いことから、「地域振興に不可欠」として復活を強く訴えた。

福島県・内堀雅雄知事:
只見線は、地域の将来像を描き、地方創生を成し遂げる上で大変重要な存在であります

豪雨災害から6年後、JRが只見線の復旧費用に81億円かかると発表。このうち3分の1に当たる27億円をJRが負担し、残る54億円は福島県と会津地方17市町村が負担することで決着した。

さらに県とJRは、「車両の運行」はJRが担当し、「鉄道施設の維持・管理」は県と沿線自治体が担う、いわゆる「上下分離方式」を採用した。こうして2022年10月、只見線は11年ぶりに全線で運転を再開した。

しかし一方で、「上下分離方式」による年間の費用負担は、県と17市町村あわせて3億円にも上り、鉄道の復活は地元にとって大きな負担にもなっている。

交通ネットワーク・国として議論必要

米坂線が向かうべき道は、「鉄道での復活」か、「廃線」か、それとも「バスへの転換」か。地方交通に詳しい専門家は、被災したローカル鉄道をどうするかは「費用負担」や「採算性」だけで決めるべきではないと指摘する。

宮城大学事業構想学群・徳永幸之教授:
本当に道路(自動車交通)だけでいいのか?現状は物流においてトラックが主力になっているので、国は道路整備を重視しているが、自動運転など技術のことを考えて鉄道を続ける選択肢もあると考えている。将来に向けて、どういう交通ネットワークを構築していくのか、改めて国全体で議論をしていくべきことだと思う

米坂線を今後どうしていくのか。その方向性をJRだけに任せるのではなく、広く国全体で議論することが求められているといえそうだ。

(さくらんぼテレビ)

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