16日に島根県の海岸で流された子供を助けようとした父親が亡くなるなど、全国で水難事故が相次いでいる。この夏、海や川に遊びに行く計画を立てている方も多いのではないか。水の事故からどうやって身を守るのか、知っておくべきポイントを解説する。

相次ぐ海の事故 “離岸流”が原因とみられる事故も

7月、全国で海の事故が相次いだ。

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16日夕方、島根県出雲市の海岸で、家族で海水浴に来ていた男性(45)が、子供を助けようとして溺れ、亡くなった。男性は小学生の長女(11)と長男(10)が海で流されているのを見つけ救助に向かったが姿が見えなくなった。

1時間後に海岸から35メートルほど沖で3人が見つかり、男性は病院に搬送されましたが死亡が確認された。子供2人は、仰向けで浮いていた男性の上に乗った状態で救助され、命に別条はなかった。海岸沿いには沖への強い流れ「離岸流」に注意を呼びかける看板があった。

「離岸流」に巻き込まれると1人で岸には戻れない

同じく16日、新潟県・柏崎市の海水浴場では、沖に流された父親(43)、長女(11)、次女(7)の親子3人が救助された。父親は「沖合の流れに乗ってしまった」と話していて、離岸流に巻き込まれ流された可能性がある

離岸流に巻き込まれると、1人で岸に戻ることは困難となる。

6月、沖縄県糸満市でシュノーケリングをしていた男性が沖に流され、海上保安庁がヘリコプターで救出した。男性は「大きな波にのまれた後に、離岸流で沖に流された」と話しているということだ。

一気に沖に向かう“強い流れ”

「離岸流」は、浜辺に打ち寄せてきた波が行き場を失い、ある一カ所でまとまって、一気に沖に戻ろうとする“強い流れ”のことだ。

離岸流の流れはどれだけ速いのか、環境に影響のない色の着いた液体を流した実験では、沖に向かってどんどん流れていくことが分かる。

記者が海上保安庁とともに、離岸流に流される実験に参加してみると、岸へ戻ろうと必死に泳いでも、沖へ沖へと流されるばかりでだった。

川では上流で降った雨水が突然押し寄せてくることも

夏は川でも水の事故が起きやすくなる。

新潟県魚沼市の佐梨川は、普段穏やかな川だが、上流を見ると茶色い濁流が迫ってくる様子が映像で確認できる。映像が撮られた日は晴れていたが、約11キロメートル上流の山間部で強い夕立があり、その雨水が時間差で押し寄せてくることがある。

水難学会理事・木村隆彦さんに“水のリスク”と対処法を聞く

海や川でレジャーを楽しむことが多くなる季節、そこにはリスクが潜んでいる。水難事故から命を守る方法について、水難事故の専門家、水難学会理事で明治国際医療大学教授の木村隆彦さんに聞いた。

まず、海のリスク「離岸流」だが、浜辺に打ち寄せてきた波が行き場を失い、ある一カ所でまとまって、沖に向かう強くて速い流れのことで、どこでも発生する可能性がある。幅は10~30メートル、長さは約100メートルあるということだ。

水難学会理事 木村隆彦さん:
流れの速さは場所や気象などでかなり変わってきます。例えばオリンピック選手が泳ぐぐらいの速さだなんて言われます。波の高さが大体2メートルぐらいあるとオリンピック選手ぐらいの速さになります。一般的に海水浴をする波の高さであればそこまでいかず、例えば20メートルを1分間で流れるくらいの速さになるかと思います

「離岸流」に巻き込まれてしまったら、どうすればいいのか?

水難学会理事 木村隆彦さん:
自分の体力というものもありますし、なかなか抜け出すことができないわけですから、浮いて呼吸を確保するということが一番です

「newsランナー」コメンテーターのはるな愛さんは、ビーチで浮き輪を使って泳いでいたら沖に流され、「逆らって泳いでも全然進まず、横に泳いで抜けた」というエピソードを話した。

水難学会理事 木村隆彦さん:
浮き輪に乗っていて流された場合、2つ考えられる原因があります。1つは離岸流で、もう1つは風です。特に浮き輪などで浮いている場合は風に流されやすいですから、風が強く吹けば、沖に流されることもあります。

水難学会理事 木村隆彦さん:
横に動くことは大切です。岸に向かう流れに入っていくためですが、ただ何メートル行けば安全なのかは分かりせん。そこで体力を使い果たせば沈んでしまうこともありますので、できれば呼吸を確保して流れに乗ったまま、そして助けを呼ぶことが大切です。沖に行ったとしても浮いて呼吸さえ確保しておけば 、助けてもらえるということです

子供が流された場合、保護者はどうすればいいのか?

水難学会理事 木村隆彦さん:
一般的にお父さん、お母さんが一緒にいれば、追いかけようとすると思います。だけどお父さん、お母さんも結果的に離岸流に流されることになります。自分の身の安全、例えば救命胴衣をきちんと着ているといった場合だったらいいんですけども、そうではなく流されている子供を追いかければ自分も要救助者になります

水難学会理事 木村隆彦さん:
海水浴場などではライフセーバーがいるところもありますから、すぐにライフセーバーに声を掛けてください。また119番通報して消防の救助を要請することが大切です

離岸流を見分けるポイントはあるか?

水難学会理事 木村隆彦さん:
例えば波が平行に打ち寄せてきているところは安全です。離岸流があると波が乱れます。波が重なるようになっているとか、右から左から波があるところは要注意です

海岸の形状でいつも離岸流が発生するところはあるのですか?日本海、太平洋、どこが発生しやすいといったこともありますか?

水難学会理事 木村隆彦さん:
地域・海岸の特徴というものがありますから、きっと地域の人たちは「ここで離岸流ができやすい」といったことを知っていると思います。

水難学会理事 木村隆彦さん:
基本的に波があるところでは離岸流が起きます。ただ例えば太平洋側でしたら、周期の長い波が来ますから、その分だけ強い離岸流ができます。ここ最近、日本海側で事故がよく起こっていますけれど、季節によって高気圧と低気圧のバランスによって、流れが強くなったりすることがあります。それで離岸流や、風が吹いて流されるというようなケースが出てくると思います

まず「離岸流」というものがあるということを知っておくことが大事だ。

海だけでなく川にも“水のリスク”はある

川でも水難事故のリスクがあります。新潟県魚沼市の例では、穏やかに見える川があっという間に増水する様子が映像で見られた。

木村さんは「川のリスク“増水は一瞬”」だと言う。すぐに川から離れなければならないポイントとなるのが、

・上流の天候悪化
・濁った水
・枝や葉っぱが流れてくる

だということだ。逃げるタイミングをどう判断したらいいのか?

水難学会理事 木村隆彦さん:
まず異変に気付いたらすぐ行動を起こせということです。例えばゴロゴロと聞こえてきて、空を見たら向こうの方が黒くなっていたということは、上流で雨が降っている可能性があります。皆さんスマートフォンを持っているでしょうから、雨雲レーダーとかを見れば、上流域ですごく雨が降っていると分かると思います。そうしたらすぐに川から離れろということになります。3つのポイントのどれが重要というものではないのですが、一番気が付きやすいのは雷や空の色です

水難学会理事 木村隆彦さん:
上流の空が見えないときには、川の色で、それまで透き通っていたものがカフェオレのような茶色い水になったらおかしいということです。あと枝や葉っぱが普段より多く流れてきたタイミングも注意するところです。川には堆積物があり増水によって流されてくるということです。濁った水や、枝とか葉っぱを意識しておくことが大切です

これらの予兆があってから、どれぐらい時間の猶予はあるのですか?

水難学会理事 木村隆彦さん:
川の長さとか勾配によって変わってきます。ただこれらのポイントがおかしいと思った時は、ゆっくりしている時間はないです。気付いたら即座に、荷物を片付けている時間はないと思った方がいいです

命を守るため「ライフジャケットを正しく着用」

水遊びで命を守るために必要なこととして、木村さんは次の2点をあげています。

・ライフジャケットは正確なサイズで着用する
・大人はスマホに夢中にならず、子供から目を離さない

ライフジャケットについて、木村先生が実験した映像がある。小さな子供が、サイズの合っていない大きなライフジャケットを着用した場合、腕を上げた時にすっぽり抜けてしまっている。

水難学会理事 木村隆彦さん:
かなり危険だということが分かると思います。例えばお兄ちゃんのおさがりとか、お父さんの物を借りるといった安易な救命胴衣の選び方をすれば、事故が起こるということなんです。あと自分の体にフィットしていたとしても、陸上でしっかりベルトを締めていないと同じようなことが起こります。そこまでやっても、水に入った瞬間に水圧で体が押されて細くなるので、陸上よりブカブカになってしまうことはあります。あと股ベルトがついている救命胴衣がありますから、それによって抜け落ちが防止されます

そして、もうひとつ気を付けないといけないポイントは、大人がスマホに夢中にならないこと。子供から目を離さないでということだ

水難学会理事 木村隆彦さん:
少し目を離した瞬間に、子供がどういう状況になるかというのは刻一刻と変わります。離岸流ですと、ちょっとスマホを見ている間にすぐに流れて行ってしまうということになりますから、やはり要注意です

1歳プールデビューで注意することは?

ここで関西テレビ「newsランナー」視聴者から質問が届いた。

Q.海や川に遊びに行く際の場所の選び方のポイントは?

水難学会理事 木村隆彦さん:
お父さんお母さんが「どこに行こうかな」と計画を立てると思います。その場所がどういう場所か理解するべきです。例えば川でしたら、どこの地域で大雨が降りやすいとかを事前に知っておけばいいと思います。あと海でしたら、やはりライフセービングの方がいらっしゃると安全になることは事実ですから、そういう情報をしっかり集めるのが大事なんじゃないかと思います。最近はいろんな情報がありますから、例えば海水浴場の情報を見ればいろんなことが分かると思います。例えば病院がどこにあるということも分かりますよね

Q.1歳の子供のプールデビュー、親が注意すべきことは?

水難学会理事 木村隆彦さん:
絶対に目を離さないということです。せっかく子供がデビューするわけですから、一緒に親子で水に入って楽しむということが大切です。子供さんだけ入れるんじゃなくて、一緒に入るのが大切かと思います

水難学会理事 木村隆彦さん:
ライフジャケットは水に入った瞬間浮き上がって流れ始めますから、水遊びをする時はいいんですけども、深いところに入ればもう要救助者と同じです。流れ始めます。そこだけは要注意です

この夏、海や川へのお出掛けの際は、くれぐれも気を付けてほしい。

(関西テレビ「newsランナー」2023年7月17日放送)

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