京都市内にある靴磨きの店。
そこでは障害があったり、引きこもりだったりした人たちが働いています。
ことし、店で働き始めた元警察官の男性は、仕事がうまくいかず、足元を見た時に汚れた靴に気付いてこの仕事につきました。
「同じ障害を持つ人が僕たちを見て、『もう一度頑張ろう』と思ってほしい。それが一番の夢です」ときょうも腕を磨きます。
■「朝起きれないので、昼からで良いですか?」 職人も一緒に成長する靴磨き店“革猫”
京都市中京区にあるちょっと変わったお店。その名も「革靴をはいた猫」、通称“革猫”。
お店のサービスは「靴磨き」です。
しわや傷、色あせが目立つこちらの靴も職人の手にかかれば、この通り、艶のある美しい靴に。
磨きは1足1650円から。
開店以来、多くの人に愛されてきた“革猫”には、他の店とちょっと違うコンセプトがあります。
【革靴を履いた猫 魚見航大代表】「障害のある方だとか、引きこもりの経験がある方が、お客さまの目の前で靴を磨いたり、修理したりして、お客さまに喜んでもらいながら、職人自身も成長していくというコンセプトで会社を立ち上げました」
【革靴を履いた猫 高田瑠希店長(28)】「前職であまり仕事があわなくて、無理をして働いていたこともあり、不眠症になってしまって、精神障害と判断されて、引きこもりながら仕事をしてはやめてを繰り返していた」
障害のあるなしにかかわらず、誰もがチャレンジできる場所。“革猫”はそんな優しいお店を目指しています。
【魚見航大代表】「うん、良いんじゃない」
【高田瑠希店長】「よかったです!ありがとうございます。」
【魚見航大代表】「(最初は)『僕、朝起きれないんで、昼からで良いですか?』みたいな。『良いよ。来たい時に来たら』って。そしたら、いつの間にか一番に来るようになって」
■37歳で靴磨きの世界に キャリアを積み重ねるごとに異変…
靴磨きを通して社会や人とつながっていく。そんな“革猫”には自然と人が集まってくるようです。
“革猫”に入った新メンバー。
【木村昇平さん】「ちょっと確認をさせていただきたいんですけれども。まず馬ブラシ、そのあとツーフェイス、」
【魚見航大代表】「これとハイシャインクリーナーとツーフェイスどっちが先のほうがよさそうですか?」
【木村昇平さん】「ハイシャインクリーナーですね、失礼しました」
【魚見航大代表】「いえいえ」
木村昇平さん、37歳。「ADHD」という発達障害を抱えていて、複数のことを同時にできなかったり、何かを覚えることが、ちょっと苦手だったりします。
なぜ37歳で「靴磨きの世界」にはいったのでしょうか?
【木村昇平さん】「約10年前になるんですけど、警察学校時代に撮影したものです」
実は木村さんの前職は警視庁の警察官。27歳から働きはじめ、特別な成果をあげた者に送られる警視総監賞を受賞したことも。
キャリアを積み重ねるごとに、業務量が増える中…異変が。
【木村昇平さん】「みんな普通にこなしているようなことが、自分にとっては難しい場面が増えてきまして。仕事も早く来て、遅くまで残って、何とか皆さんに追いつこうと色々、試行錯誤はしていたんですけど、ミスが一向に減らなかった。叱責される部分も増えていった」
■「発達障害」と診断 休職中に経験した達成感「靴磨きを仕事にしたい」
なんとかしたいと頼った病院で、「発達障害」と診断されました。それでも働き続けた木村さんは、ある朝、ベッドから動けなくなってしまいました。
【木村昇平さん】「そこまで追い込まれてるっていうのは、自分でも気づいていなかった部分だった。不安だらけでしたね。一度こうやって体調崩してしまって、元通りになれるのか、とか」
上司に勧められて休職。その時、ふと目についたのが、「汚れていた自分の革靴」でした。
【木村昇平さん】「警察官時代にずっと履いていた靴が、すごい傷だらけっていうんですかね、自分の足元もうまく見れてなかったんだなと気づいて、久しぶりに靴磨いてみようかなと思って、磨いて靴がきれいになっていくと達成感というんですかね、
ちょっと大げさかもしれないですけど、人生の大きな『ターニングポイント』というか。これに出会うために、お休みいただいていたのかもしれないって、自分で思えた瞬間だった」
「靴磨きを仕事にしたい」そんな些細な思い付きが、“革猫”を知ったことで現実になりました。
【木村昇平さん】「楽しいですね、一点に集中できるので。他の事一切考えずにやることができるので」
■大手総合商社「伊藤忠商事」の子会社から仕事の依頼 スタッフを「靴磨き職人」へ
“革猫”の一員となった木村さん。大きな仕事が舞い込んできました。
【伊藤忠ユニダス 畔上明社長】「今後、靴磨きの領域を拡大して、ビジネスを本格的に始めようということで、話進めさせていただいていますんで…」
東京での打ち合わせの相手は、大手総合商社「伊藤忠商事」の子会社。
靴磨きと修理を軸とした新ビジネスのパートナーとして“革猫”が選ばれたのです。
【木村昇平さん】「プロジェクトを絶対成功させたいという気持ちを、強く持っています」
木村さんに任されたのは、子会社で働くスタッフを「靴磨き職人」にすること。多くの人に、何らかの障害があります。
【伊藤忠ユニダス 畔上明社長】「これから色々ご指導いただくとことになると思いますけれども、ぜひよろしくお願いします」
■繰り返し、何度でも 靴の修理の技術を習得
新規ビジネスを成立させるために、靴の修理の技術も欠かせません。この道30年の、靴修理かわごしの川越一之さんに教えを請います。
【木村昇平さん】「のりづけってこちらで良いんですよね?」
【川越一之さん】「ちゃう」
【木村昇平さん】「こっちの…」
【川越一之さん】「ちゃう。だから内側の大分この辺、よく見てみ。どこに来るか、この縫い目が。いや、違うって、きむりん、内側やって言ったやん。ちがーう!」
【木村昇平さん】「川越さんに『観察力足りない』ってご指導いただいたんで、修理なさっている状況を撮影して自宅や通勤時間に見ているので」
すぐには覚えられなくても、繰り返し、何度でも。
【木村昇平さん】「内側から先に…」
【川越一之さん】「よお見てんな、えらいぞ!」
■障害があっても『僕も何かできるかもしれない』と思ってほしい
「お疲れ様です!乾杯!」
新たなステップへ進む木村さん。この日は店長の高田さんと息抜きへ。
息抜きのはずが、靴磨きの話に花を咲かせる2人…。
木村さん、つまづいた過去に苦しんできましたが、ある想いが芽生えていました。
【木村昇平さん】「少し辛い日々もあるかもしれないけど、それでも続ければ絶対良い流れが、追い風が吹いて、色んな人に、この会社とか、やっている仕事とか知ってもらって、色んな同じ障害持ってる人も、『僕も何かできるかもしれない』と。、もう一度…ごめん、涙が出そう。もう一度、頑張ろうという風に思ってほしいですね。僕たちを見て。それが一番の夢です」
様々な過去を抱えながらも、今を生きる。木村さんの新しい人生が始まります。
■「靴磨き」ワークショップ 「大きい夢の中の一つがかなった」と木村さん
この日は、伊藤忠の子会社のスタッフに、初めて靴磨きを教えます。
【木村昇平さん】「こんにちは。株式会社革靴を履いた猫の木村昇平と申します」
木村さんが一人一人丁寧に指導していきます。スタッフも真剣です。教えられた通り、必死に靴を磨きます。
【木村昇平さん】「私が靴磨きを教えて、皆さんが靴がきれいになっていく工程を見て、気分が上がっていくじゃないですけど、笑顔が増えていくっていうのは、実際この目で見たいとずっと思っていたので、このワークショップは、私の大きい夢の中の一つだったんで、それがきょうかなったんで、今まで頑張ってきてよかったなと」
【伊藤忠ユニダス スタッフ】「楽しかったですね。自分、足が悪いんですけど、自分でもできるかなと思って」
【伊藤忠ユニダス スタッフ】「難しいでしたが、初めてやって楽しかった。(Q.今後、靴磨きの仕事があったら?)一生懸命、覚えたいです」
【木村昇平さん】「どうでしたか?難しかったですかね?」
【伊藤忠ユニダス スタッフ】「はい」
【木村昇平さん】「難しいですよね。徐々に、徐々に、絶対覚えられますんで。私でもそうだったんで。じゃあ皆さんお疲れさまでした。ありがとうございました」
(関西テレビ「newsランナー」2025年8月7日放送)