7月20日からオーストラリアとニュージーランドで開催する、サッカーFIFA女子ワールドカップ2023。

開幕が迫るなかで、直前まで中継局が決まらず、WEリーグの高田春奈チェアがクラウドファンディングで資金を募ると明かしたことも話題になった。

2011年にW杯で初優勝し、なでしこジャパンフィーバーに列島が沸き、その後2大会はテレビ中継をしたが、今大会なぜ、このような事態となってしまっていたのか。

2011年のW杯優勝メンバー・岩清水梓さんとサッカージャーナリストの後藤健生さんが、女子W杯の放映権問題、そして見どころを語った。

(※2人は中継局が決まる前の、7月8日時点での状況を語っている。『週刊フジテレビ批評』7月8日放送より)

サッカーW杯、なぜ放送・配信決定しない?

――7月20日、いよいよ女子W杯が開幕ということで楽しみなのですが、日本での放送が決まっていないと…。

(※7月8日時点。その後7月13日にテレビでの放送局が決まった)

後藤健生さん:
ビックリですよね。放映権料を、FIFAは高いお金を要求して「そんなお金を払えないよ」とテレビ局は言う。テレビ局も営利企業ですから。

サッカージャーナリスト・後藤健生さん
サッカージャーナリスト・後藤健生さん
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――これまでにこういうことは?

後藤さん:

去年のカタール男子W杯、あれも最後に「ABEMA」が出てきて、何とかなりましたけど、「一時は放映できないかもしれない」と言っていましたし、次の2026年の男子W杯はどうなるか分からないです。

2011年W杯優勝メンバー・岩清水梓さん
2011年W杯優勝メンバー・岩清水梓さん

――岩清水さんは放送についてはどんな感想をもっていますか?

岩清水梓さん:

(日本)代表選手たちが活躍する姿が見られないって、どうしたらいいの?と。

女子サッカーは男子サッカーと比べたらまだ人数が少ないという状況で、どうやって増やしていくのかという話じゃないですか。

見るところがないと裾野は広がらないですし、私たちも「応援してください」と言いたいですけど「じゃあどこで見られるの?」という話になっちゃう。「応援お願いします」と言いづらい状況ではあります。

「男子W杯の放映権料は極端に高い」

――理由のひとつとしてあげられる「放映権料」、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長がこのように言っています。「放送局が男子のW杯では1億から2億ドルを払うのに女子では100万から1000万ドルの提示しかしてこない」ということで、円に換算すると約1億4000万円から14億円の提示ということです。

後藤さん:

そもそも男子のW杯の放映権料は極端に高いんです。

例えば1998年、日本が初めて出場したフランス大会、日本は6億円(推定金額)を払ったと言われている。

それが去年のW杯では340億円とか350億円(推定金額)とか言われています。

例えば350億円の10%を日本の放送局が払ったとしたら、これはもう1998年のフランスW杯や2002年の日韓W杯より高いお金を払いなさいと言っている訳です。これはちょっと無理な要求じゃないかなと思いますけどね。

――それだけ魅力的でみんなが見たいからこそ、それを払ったというのもあるとは思いますが、とは言え、女子と男子の差は激しいですよね。

後藤さん:

プロスポーツとして女子サッカーを確立するという目標としては当然ですが、今はまだこれからもっと普及していかないといけない時期。

だからFIFAとしてはもっと放映権料は抑えて「どんどん放送してください」と言うべき時期にあると思うんです。

賞金が上がるということは「進歩している」ということ

――放映権料につながってくるかと思うんですが、今大会の賞金の金額も変わってきています。岩清水さんが出場して見事優勝した2011年の優勝金額が100万ドル、今大会の優勝金額は429万ドル。

岩清水さん:
えー!そんな上がったんですか!?

――しかも出場すると選手1人に3万ドル。

岩清水さん:

出場だけでですか!?

――出場だけでです。優勝選手にはチームの賞金とは別に27万ドル。

岩清水さん:

え!?えっと、優勝したんですけど、そんなにもらってないです(笑)。

後藤さん:
また出たくなったんじゃないですか?

岩清水さん:
あわよくば出たいです(笑)。

――もちろん「名誉のためにみなさん戦っている」、これは大前提ですが、この賞金というのも重要になってくると思います。この差については何か感じることはありますか。

岩清水さん:

女子サッカーがどんどん進歩しているところなんだなっていう実感。

私たちの時はこうだったからと言って別にひがむわけではないですし、進歩していくことは大事だと思うので、(賞金が)増えていってくれることはうれしい。

ですが、(テレビなどで)放送されないということは一番ネガティブなことだと思います。

Jリーグの成功は“好循環”があったから

――お金を集める方法はさまざまありますが、例えば地上波がダメならということで、プロリーグであるWEリーグの高田チェアが「女子W杯の国内テレビ中継を目指してクラウドファンディングで資金を募る」と表明したそうですが、億単位は集まらないとしてもその言葉が出てしまうという気持ちは。

岩清水さん:

クラウドファンディングにいかなきゃいけないんだ…、募らないといけないんだ…と、ちょっとショックというか、それだけ大きいお金が必要。

かといって今まだ進んでもいない状況をあと数週間でそんな巨額が集まるわけもない。言ったはいいけど、絶対達成できないんじゃないの?と思ってしまうところはあります。

後藤さん:
(クラウドファンディングを)やるということは言ったんだけど、正式に始まってないはずなんです、まだ。

今、我々は何十億という話をしをしている。それを短期間で集めるなんて、そんなに人気があったらそもそも問題ないわけですよ。でもそうじゃない。半年前からやったって、なかなか集まらないですよ。

Jリーグが30年前にできて、なぜ成功したかというと、Jリーグのプロリーグができました。男子の(日本)代表チームが強くなりました。2002年に(日韓共催)W杯がありました。これが一つになって好循環があってJリーグが成功したわけです。

だからWEリーグ(2021年9月開幕)というプロリーグができました。本当は今年の大会(W杯)、日本も(招致レースに)立候補していたんですよね。

日本で大会が開催されて、それで盛り上がれば良かったんだけれども、ダメになっちゃって、しかもテレビ放映がない。女子サッカーの回転がなくなっちゃいますからね。

――選手としてもお金の話というのは、気になりますよね。

岩清水さん:

放映権は非常に気になっているところですね。WEリーグというプロリーグができてから、今回が初めてのW杯なんです。

WEリーグも一緒に周知してもらう大会のはずなのに、見てもらえないとなると、WEリーグも知ってもらえなくなっちゃうのではないか、という危機感はあります。

WEリーグをより知ってもらう機会がW杯だった

――後藤さんはWEリーグについてはどう現状ご覧になっていますか。

後藤さん:

この間終わった2シーズン目はかなりレベルアップしましたよね。特に上位3チーム(1位:三菱重工浦和レッズレディース、2位:INAC神戸レオネッサ、3位:日テレ・東京ヴェルディベレーザ)の試合は本当に面白かったです。

あれならもう5000人とか7000人とかお客さん来ても当然だと思うし、お金を払って見るに値するプロスポーツだと思います。

だから本当にもったいないんですよ。もっと多くの人に知ってもらって、女子サッカーは男子と違う魅力があると知ってもらいたい。

そういう意味で、そのきっかけとなるW杯を無駄にしてしまうのはもったいないこと。

――岩清水さんはサポーターの雰囲気や人数はどう感じますか。

岩清水さん:

一番観客が多かったのは2011年の優勝の後なんですが、そこからは少し落ち着いてしまいました。それでも昔、なでしこジャパンが優勝する前までは(観客数は)下がってないんですよ。

平均値は上がっているのでこの平均値を保ちながら、もっと多くの人が見に来てほしいなと思うので、本当にそのきっかけなんですよ、この大会(W杯)が。

後藤さん:
2011年の時、人気が高まって、それが定着しないで終わった感じがある。それはプロリーグという受け皿がなかったんです。

でも今はプロリーグがあり、お客さんが増えたらそれなりのやり方もできるし、リーグ戦のレベルも当時よりずいぶん高くなっている。

今回、W杯をきっかけに女子サッカーに目を向けるようになったら、2011年の時よりも、もっと定着していくと思います。

――環境面も変わってきていると思いますが、プロ選手、女性の環境はどうでしょうか。

岩清水さん:

前はプロとしてお金を頂いている人は、ほぼいなかった。

みんな働きながらサッカーをやるというのが当たり前だったんですよね。それが今、WEリーグ、プロ化になって働きながらの方が少なくなってきたというのは、本当に女子サッカー進歩したなと思います。

開幕!日本は「グループC」

――初戦は7月22日にザンビア戦、26日にコスタリカ戦、31日にスペイン戦となっていますが、岩清水さんがご覧になってどうですか。

岩清水さん:
(グループリーグ)突破はしてくれると思います。

ただ同じリーグにスペインがいるので、スペインの方がFIFAランキングは上ですし(スペイン6位、日本11位)、1位抜けできるのか、2位抜けできるのかというところだと思います。

後藤さん:
グループリーグは1位か2位か分かりませんが、最後のスペイン戦は1位2位を決める試合になるだろうと思っています。

重要なのはその後、ラウンド16でどことあたるかということ。日本は1位でも2位でもグループAとあたるんです。

ニュージーランドがいるグループなのですが、ノルウェーもスイスも日本よりランキングが下なんです。

例えばアメリカ、フランス、ドイツなどの強豪とあたらないのはラッキーなんじゃないかなと。だからベス8はいってほしいし、いけるんじゃないかなと期待している。

――今大会からチーム数が増えましたが、これについては。

岩清水さん:
厳しい戦いになるというか、ベスト4に入るのにも厳しいなというところがありますし、やはり予選リーグ通過した後、そこからが本当の戦いかな。

チーム数が増えたイコール、もしかしたら力の差がある試合にもなり得る。なので、決勝トーナメントに進んだチームが本当に力のあるチームだと思います。

――プレーをぜひ見てほしい注目の選手は。

岩清水さん:

FWの植木理子選手。

今回WEリーグの得点王にもなりましたし、昨シーズンの皇后杯など全部得点王だったんです。その得点能力を持って世界で戦ってほしいので、期待も込めて注目しています。

世界の強豪のDF相手にどれだけゴールに向かえるのかというのは応援したいです。

後藤さん:
僕はMF長谷川唯選手。

彼女は今イングランドでマンチェスター・シティでもバリバリ中心選手でやっているじゃないですか。彼女の遠くを見る目とか、すごく期待します。

――今大会はチャーター機が用意されていて、男子W杯の時に帯同されていた西芳照シェフも一緒に行くということですが。

岩清水さん:

うらやましい!

――後藤さん、これはとてもいいことですよね。

後藤さん:

もちろん。選手たちも「これだけ期待されているんだ」「国を背負って戦っているんだ」という気持ちになりますので。

これがプロスポーツなんだとみんなに認識させること、それが一番大事ですよ。

岩清水さん:
チャーター機出してくれること、シェフを連れて来てくれたり、期待値としても上がっているので、JFA(日本サッカー協会)も頑張ってくれているところだと思います。

――時代と共に環境も改善されているということですね。放映権の問題はありますが、今大会に期待したいところは。

後藤さん:

勝っても負けても本当に一生懸命やっているんだという、そういう姿を見せてほしいです。

――なでしこジャパンの魅力ってそこにありますよね?

岩清水さん:

そうですね、ひたむきに本当に一生懸命頑張るというところを見てほしいです。

(「週刊フジテレビ批評」7月8日放送より 聞き手:渡辺和洋アナウンサー、新美有加アナウンサー)