JR松江駅前の一畑百貨店が、2024年1月に閉店する方針を明らかにしてから、7月13日で1カ月を迎えた。雇用や地域経済への影響が心配される中、すでにデパートがなくなった「空白県」ではどのような変化があったのか。3年前に全国で初めて「デパート空白県」になった山形県で取材した。
全国初の「デパート空白県」を取材
山形県の県庁所在地・山形市は、東北地方の中心都市・仙台に隣接する人口約24万人の城下町だ。
安部大地記者：
山形市の玄関口、JR山形駅です。この駅から約2km先に、かつて百貨店を中心ににぎわったエリアがあります。デパートが消えたまちは、今どうなっているのでしょうか
その中心街が七日町。2020年1月、ここで長年営業してきた百貨店が閉店した。
安部大地記者：
経営破綻した百貨店「大沼」です。閉店から約3年がたっていますが、まだそのまま残っています
山形県内唯一の百貨店だった「大沼」。ルーツをたどると、320年の歴史を持つ国内有数の老舗で、1950年に七日町で百貨店の営業を始めた。
しかし、郊外型ショッピングセンターの進出など激しい競争の波にのまれて経営破綻し、2020年1月に閉店した。これで山形県は、全国で初めての「デパート空白県」となった。
県内唯一のデパートの閉店について、まちの人に聞いてみた。
まちの人（女性）：
かつてはにぎわっていた。閉店でにぎわいかたが変わりますよね
まちの人（母親）：
デパートコスメを買いに行っていたが、今は仙台に1時間かけて行くしかない
まちの人（子ども）：
寂しい。遊べる施設がほしい
住民の生活支える商業施設もオープン
「大沼」周辺の1日あたりの人通りは1万9,000人余り。閉店前に比べ約1割減少した。一方、中心市街地の人口は約9,800人と、「大沼」閉店後にわずかながら増加した。その理由が…。
安部大地記者：
「大沼」の交差点をはさんで、すぐそばにマンションがあります。その隣には、さらに高いマンションがあります
山形市では「都市型居住」のまちづくりを進めていて、中心市街地にもマンションを誘致。「大沼」閉店後、周辺には4棟の高層マンションが完成。さらに2棟が建設中で、再開発が進んでいる。
近くのマンション住民：
将来的に開発されると言われているから買った
再開発によって居住者が増加に転じる中、「大沼」閉店から1年後の2021年、マンション近くに青果店や学習塾などが入る商業施設「七日町ルルタス」がオープンした。
佐藤牛肉店・佐藤和則社長：
米沢牛のヒレステーキとサーロインステーキがおすすめ。専門店なので
地元ブランド牛などを扱う精肉店に、新鮮な魚を揃える鮮魚店が出店。いずれも「大沼」でテナントとして営業していた店だ。
吉野屋・大場匡浩社長：
「大沼」で営業していた時のお客さんが来て、支えてもらっている感じ
施設はコンパクトな地上2階建て。テナントも生活必需の商品やサービスを提供する店に絞られた。
“長期的で明確なビジョン”が必要
「大沼」跡地周辺の再開発を手掛けるのは、民間のまちづくり会社。「暮らせるまちなか」を目指し、山形市とタッグを組んで、再開発を進めてきた。
山形まちづくり株式会社・下田孝志常務：
マンションができてくると、必要なのは八百屋さん、肉屋さん、日用品の店。ちゃんと暮らしていける、子どもを育てていける環境をつくっていかなければ、まちの魅力は高くなっていかない
山形まちづくり株式会社・下田孝志常務：
2023年10月に竣工オープン予定で、新しくお菓子屋さんとレストランが入った建物が建設中です
再開発が進むことで、周辺の商業地の地価も1平方メートルあたり21万8,000円と、2022年から1.4％上昇した。地方の商業地としては高い伸びをみせている。
ただ、こうした地価の動きは「大沼」が閉店する10年以上前からの取り組みが実を結んだもので、下田さんは、まちづくりにも長期的で明確なビジョンが必要だと指摘する。
山形まちづくり株式会社・下田孝志常務：
人口減少が起こっていますから、今のにぎわいをキープするのも難しい。自分たちの“ありたい姿”を考えた時に、どのくらいの居住者、来街者がベストかを議論すべき。そうしないと、いつまでたっても夢を追いかける、かなえられない夢を追いかけるまちになって、満足感が得られず、次のステップを踏めないのでは
一畑百貨店「閉店」というタイムリミットまで約半年。デパート閉店というピンチをまちづくりの転換点に変えることができるのか。松江市にも、限られた時間の中で住民のニーズを的確につかみ、まちの新たな青写真を描くという難しい課題が突きつけられている。
（TSKさんいん中央テレビ）
