第2の人生に医師の道を選んだ男性がいる。サラリーマンを早期退職したのは57歳の時。そこから受験勉強をして大学に入り、医師国家試験に合格、晴れて研修医となったときには70歳になっていた。いったいどうしてそこまでして医師になろうと思ったのか。取材した。

70歳の研修医 第2の人生に医師の道を選んだ理由

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伊藤さんの孫:
おじいちゃん、いつもありがとう

可愛い孫を膝に乗せる男性。伊藤昌広(いとう・まさひろ)さん、出身は大阪だ。2023年4月、金沢で新たな一歩を踏み出した。

伊藤昌広さん:
若くない初期研修医の伊藤です。阪神タイガースの試合結果に一喜一憂している毎日です。

新米医師、研修医だ。

年齢は…

伊藤さん:
5月が誕生日なんですが、70歳になりました。元々は大阪の機械メーカーでディーゼルエンジンの研究開発を一筋に35年間やってきました。

東大工学部から機械メーカーに入社した伊藤さん。第2の人生に医師を選んだ。

機械メーカーに勤めていた頃の伊藤さん
機械メーカーに勤めていた頃の伊藤さん

伊藤さん:
お世話になっていた鍼灸師の先生がいて、人助けになっていると言うことで、これはもう第二の人生は鍼灸で生きようかなと思ったんですけども、そこから10年色々考えている内に鍼灸師よりもより侵襲的な治療(医療行為)が出来る医師の方が良いかなと思いまして方針転換しました。

57歳で早期退職し、医学部に入るための勉強を始めた伊藤さん。3年間の勉強を経て、60歳でみごと金沢大学医学類(医学部)に合格。しかし、そこからが大変だったという。

医学生時代の伊藤さん
医学生時代の伊藤さん

57歳で早期退職 医師国家試験に受かるまでに12年

伊藤さん:
自分自身もすぐに(国家試験に)受かって医師になれるもんだと思っていたんですが、そうは問屋が卸してくれなくて、恥ずかしい話ですが4回目でようやく受かりましたね。

医学生時代の伊藤さん
医学生時代の伊藤さん

医師になるためには医師国家試験に合格しなければならない。新卒だと毎年90%以上の合格率だが、既卒では50%~60%程度。受験回数が多い人ほど合格率は更に低くなると言われている。

そんな伊藤さんは4回目にしてようやく合格。医師としての第一歩を踏み出した時には早期退職から12年、69歳になっていた。

城北病院 大野健次院長:
2023年4月1日をもって職員として採用し、城北病院医局での勤務を命じます。

伊藤さんを採用したのは金沢市の城北病院。実は、国家試験に落ちた年も内定を出し続けていたそうだ。

伊藤さんを採用した金沢市の城北病院
伊藤さんを採用した金沢市の城北病院

大野院長:
病院に来てくれたんです、去年。「ここまで来たら来年も頑張ります」と言って帰られたんで、大したもんだなと思いましたよ。(国家試験に)落ちてすぐですからね。多職種連携ってすごく言われているんです病院では。医者はチームリーダーなんだけれども多職種をしっかり理解した上でしかも多職種にも理解されなきゃいけないっていうかなり特殊な立場。たぶん、伊藤さんの場合はそういう所は既に出来ているんじゃないかと思っていて、人の考えに思いをはせることができる人じゃないかなと思っています。そういう意味で言うと伊藤さんの人生経験はすごく役に立つと思います。

伊藤さんは今、内科を中心に回っている。

伊藤さん:
おはようございます。いかがですか?いつものように体、診察させてもらって良いですか?すみません、目からいきますね。

自分の担当する患者さんも少しずつ持ち始めた伊藤さん。

伊藤さん:
はい、呼吸音もキレイですよ。

伊藤さん:
充実感はありますけれども、毎日毎日が一生懸命で
記者:
一歩ずつ歩みを進められるメンタリティってどういう所から出ているんですか?
伊藤さん:
メンタリティ僕無いですよ。むしろ周りの研修生とどうしても比べてしまって、焦りみたいなものも自分の中にあって、それをこれからどうしていくかが自分の課題だと思っていますね。

過酷な労働環境にも耐えられる70歳の体づくりとは

当直もある過酷な労働環境の医師の仕事。70歳にして早足で動き回る伊藤さんの元気の秘訣は…

スイミングコーチ:
行きまーす、よ~いはい。

若い頃から続けているという水泳だ。週に2、3回通っているそうで、この日も仕事終わりに1時間足らずで1キロ以上を泳いでいた。

伊藤さん:
ジムだと持久力があんまり付かないので。(持久力は)大事だと思いますね。外科医なんかは特にそうですし、ずっと立っていなきゃいけないし。何も考えないでずっと泳いでいるのが1番楽しい。

そんな伊藤さんに、水泳仲間は…。

医学生時代からの水泳仲間:
僕たちも現れた時にビックリしました。大学言っているって現れて歳聞いた時。何をするにしても年齢は関係無いなと。

別の水泳仲間:
何でも挑戦するのはすごい。伊藤さんに診て頂くことが出来るかもしれない。

妻を大阪に残し、金沢で1人暮らしをしている伊藤さん。しかし、長女・悠紀子(ゆきこ)さんが結婚して金沢にいることから、気軽に孫に会えるのが楽しみの一つだと言う。

伊藤さんの孫:
おじいちゃんいつもありがとう。

伊藤さんの長女 悠紀子さん:
素直にすごいし、金沢大学しか受かっていないので、すごい縁だなって。北は青森から?
伊藤さん:
青森・弘前大学。
悠紀子さん:
南は?
伊藤さん:
沖縄・琉球大学。
悠紀子さん:
1年中編入試験を受けまくって、金沢だけご縁があるっていうのはすごい(縁)だなって。優しいお父さん。あんまり喋らないし怒らないし、否定されたことは無いかな。

伊藤さん:
その分、お母さんに怒られている(笑)

夢叶い、第2の人生を医師として生きる事に決めた伊藤さん。堅実に着実に目標へと向かっている。

伊藤さん:
最終的には独り立ちしたいので、石にかじりついてでもやり遂げなきゃいかんなと思っております。やれば出来るというのがモットーですので、小さい子どもからご高齢の方まで幅広く接して信頼される医者になりたいです。

伊藤さん、今は、総合診療科(特定の臓器・疾患に限定せず多角的に診療を行う部門)に進むことを考えているそうだ。人生100年時代、伊藤さんの独り立ちの日が楽しみだ。

(石川テレビ)

石川テレビ
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