宮城県八木山動物公園の飼育員を30年以上務め、定年後も若手の育成に力を入れている男性がいる。彼は、山形県の動物園でもアドバイザーを務め、「楽しい動物園を作りたい」と奮闘を続けている。
この記事の画像(10枚)「尾も白い」学芸員の動物園ガイド
河北町児童動物園 阿部敏計さん:
キツネとアライグマ見に行くからおじさんと一緒に来てくれる?
山形県唯一の動物園「河北町児童動物園」。6月25日、初めて学芸員によるガイドツアーが開かれた。ガイドを務めるのは、白いシャツ、白い長靴に白いしっぽ=「尾」をつけた、その名も「尾も白い学芸員」こと、阿部敏計さん(67)だ。
阿部さんは、仙台市の八木山動物公園で32年間勤め、2015年に迎えた開園50周年の時には「尾も白い副園長」としてガイドツアーを行った。長年の飼育経験から培った、動物の意外なエピソードを披露しながら園内を回るそのツアーは「おもしろい」と評判になり、毎回、満員となる人気を博した。
5年前に八木山動物公園を退職した阿部さん。いまもアドバイザーとして働く一方で、片道1時間以上かけて週2回、河北町に通いながら飼育員を指導しているのだという。
河北町児童動物園 阿部敏計さん:
ここでは、ガイドツアーや飼育員の話は今までやってこなかったので、実際に私が行って、将来的には他の飼育員もやれるようにと考えています。
楽しい動物園にするために
この日、ガイドツアーに参加したのは13組の親子。阿部さんの話に興味深そうに耳を傾けていた。参加者は「ただ見ているよりも楽しかった」「いろいろ学べてうれしい」などと話す。
「河北町児童動物園」は2025年4月にリニューアルオープンを予定している。阿部さんがかかわるのは飼育員の指導だけでない。町の職員とともに「楽しい動物園」にするための計画づくりにも携わっている。
河北町商工観光課 稲毛新志 主事:
阿部さんにはリノベーションにも携わっていただいて、よりよい動物園を作っていくということもあるが、県内・県外問わずお客さんを呼び込めるようなイベントを考えていただいて、すごく頼りにしています。
河北町児童動物園 阿部敏計さん:
大きさや動物の種類は八木山動物公園にはかなわないが、小さいなりのお客さんへの見せ方やイベントをすれば、八木山動物公園とは違った魅力が出せると考えています。
「動物をよく知ること」の大切さ
阿部さんは、飼育員を指導するうえで大事にしていることがある。
河北町児童動物園 阿部敏計さん:
八木山動物公園には、ゾウが二ついるんですよ。何ゾウと何ゾウと思います?
仙台市内の専門学校の講師も務める阿部さん。この日は慣れ親しんだ八木山動物公園でガイドをしながら、飼育員を目指す学生たちに動物に関する法律や条約について指導していた。クイズの答えとは…。
河北町児童動物園 阿部敏計さん:
アフリカゾウと「ベーブ・ルース“像”」がいます。
学生たち:
………………………
八木山動物公園内に設置された野球の神様・ベーブルースの像とゾウをかけた、阿部さんのガイドツアーでは鉄板のつかみのジョークも、学生たちには不発の様子…。
一方で、豊かな経験を交えて語る授業を受けた学生たちからは、「30年以上働いていた人からしか聞けないような動物園の裏側などを聞けるのは貴重」「経験談は実際にあったこと、自分も経験するかもしれないこと。知っておくことが阿部先生の授業で大事と思う」などと話す。
阿部さんが伝えたいのは「動物をよく知ること」の大切さ。観察して気持ちを通じ合ったときの喜びを、将来の飼育員たちにも感じてほしいと考えている。
河北町児童動物園 阿部敏計さん:
野生の動物もよく観察してコミュニケーションを一生懸命とると飼育員と仲良くなってくれる。そこが一番はまった。しっかり大事なことを学んでもらって、全国の動物園で楽しい動物の飼育員になってほしいと思う。
退職後も変わらない「動物園」で多くの人を楽しませたいという思い。阿部さんの後ろ姿はずっと「尾も白い」ままだ。
(仙台放送)