2023年は九州や四国で線状降水帯が発生している。甚大な被害をもたらした西日本豪雨から6日で5年を迎えるが、線状降水帯の予報は発生の危険性が高い時間帯の半日ほど前に出るようになり、避難に繋がりやすくなった。その予報のシステムについて取材した。

積乱雲が同じ場所で線のように列をなすと線状降水帯に

梅雨の季節。九州、四国地方で線状降水帯が発生している。5年前の西日本豪雨では、広い範囲で土砂災害や河川の氾濫が相次ぎ多くの犠牲者が出た。これは大雨が強さを維持したまま数日間に渡って降り続いたからだ。

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広島地方気象台・吉田康夫 統括予報官:
大雨の中でも非常に危険度は高い現象と考えております

気象台の予報官がこう表現するように、被害が拡大する引き金となったのが「線状降水帯」。

青坂匠記者(気象予報士):
線状降水帯のメカニズムを模式的に表すと次のようになります

青坂記者:
海から水蒸気を多く含んだ暖かく湿った空気が流れ込んできたときに、たとえば同じような湿った空気が違う方向から流れ込んできたとすると、2つの流れが合流する地点で上昇気流が発生しやすくなります

青坂記者:
この上昇気流によって上空に持ち上げられた水蒸気は冷やされながら、背の高い縦に伸びる雲を形成します。この雲が積乱雲です。積乱雲は単体では一般的には寿命が30分から1時間ほどと言われていまして、上空の風に流されながら発達し、短時間で強い雨をもたらします

青坂記者:
さらに問題となるのはここからで、もしも水蒸気の流れ込みが同じ場所で持続するとなると、積乱雲が発達する一連の流れが、同じ場所で繰り返されることになります。上空の風に流されながら積乱雲は列をなし、強い雨が短時間ではなく長時間続くことになります。これが線状降水帯の構造です

5年前は、梅雨前線が停滞し広い範囲で長引く雨という予想はされていたものの、線状降水帯自体はまだ事前の予測が難しく、あくまで災害発生後の検証結果として出されるものだった。
災害を教訓に「線状降水帯」という言葉が社会に浸透し、気象予報も進化しつつある。

青坂記者:
降水量や気温といったデータはこちらの設備で観測されています。

青坂匠記者
青坂匠記者

中でも目の前にある銀色の筒、中を見ることはできないんですが、あの中に気温計、そして湿度計が設置されています

気象庁は2年前から湿度計の設置を全国に広げるなど、線状降水帯の発生源といえる水蒸気の観測の強化に乗り出した。

吉田 統括予報官:
線状降水帯の予測というのは非常に難しくて、その予測精度を高めるためには水蒸気の分布を細かく観測する必要がありまして、そのためにアメダスの湿度計を導入しております

そして2年前、線状降水帯の確認を知らせる「発生情報」が発表されるようになり、さらに2022年からは半日ほど前に発生の危険性を呼びかける「予測情報」の発表が始まった。

予測情報は、中国地方や九州北部などといった地方予報区ごと。予測精度は25%程度を想定して運用を開始。

初年度となった2022年は13回の発表に対し、実際に線状降水帯が確認されたのは3回で、適中率としては想定通りの約23%だった。

予測は難しいが、情報が出れば大雨の確率は高い

この「2割5分の確率」の予測をどのように受け止めるべきなのか…。6月1日には台風2号の接近と梅雨前線によって、全国で2023年初めての予測情報が中国・四国地方に出された。

吉田 統括予報官:
前線に向かう暖かく湿った空気も中国地方には入らず、結果的には中国地方では、線状降水帯は発生しませんでした

梅雨前線は台風からの暖かく湿った空気の流れ込みが前日の予想ほど強くはなかったため、当日の朝は四国付近までしか北上せず、実際に線状降水帯は大量の水蒸気が流れ込む梅雨前線の南側、高知県で発生。

川の氾濫による大規模な冠水、さらには大量の土砂が線路に流れ込み列車が脱線する事態となった。

吉田 統括予報官:
本当に紙一重だったと思っています

中国地方は周辺で吹く風のわずかな違いで降水量自体も予想より少なかったものの、予測情報はいわば「ハズレ」ではなく、ほんのわずかな「ズレ」だったといえる。

吉田 統括予報官:
暗くなってから発表しても、避難が困難な方もおられますので、半日程度前の極力早めの発表が効果的だと考えております

実態解明には及んでいない道半ばの「線状降水帯」予測。私たちは、この予測と自治体が出す避難に関する警戒レベルなどをつき合わせて、命を守る準備が求められている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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