2025年8月9日から11日にかけて、九州北部を襲った記録的な大雨。前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込んだ影響で、大気の状態が非常に不安定となり、福岡県内でも線状降水帯が複数回発生した。
男女が流され行方不明 遺体で発見
新宮町付近で1時間に約120ミリ、福津市や宗像市付近などで1時間に約110ミリの雨が降ったとみられ記録的短時間大雨情報が発表された。

宗像市では、1日の降水量が308ミリと観測史上1位の記録を更新。道路の冠水や住宅の浸水などが相次ぎ、福岡県災害対策本部によると8月15日午後4時時点で、土砂災害が80件、住宅の浸水被害が床上、床下あわせて161件が確認されている。

福津市では10日、市内を流れる西郷川で高齢の男女2人が流され行方不明になった。2人は後日、宗像市などの沖合で、遺体で見つかった。

記録的な豪雨に見舞われた3連休(9~11日)が明けた13日。福津市の内殿地区では、川の橋のたもとに大量の流木と電柱が倒れてしまっていた。

勢いが大きかったのか、橋の一部は崩落しているような状況だった。
早場米 見通せない新米の収穫
「流木やごみ、コンテナなどが流れ込んでいるので、先に片づけなければコンバイン(農業機械)も入れられない。それくらいひどい状況」と話すのは、福津市でコメを生産している桒野由美さんだ。

桒野さんの田んぼは、大雨で増水した用水路から濁流や大量の土砂が流れ込み、稲がなぎ倒されるなどの被害が出た。

桒野さんは、一連の米不足問題が続いていて、取引先からの期待の声もあり、2025年は早場米の作付け面積を拡大。その早場米の田んぼが、大雨で甚大な被害を受けたのだ。盆明けに予定していた新米の収穫はどうなるのか、先は見通せていない。

連日の猛暑に加えこの地域に多い害獣被害。さらに追い打ちとなった今回の記録的大雨。農業を続ける気力も失せるほど深刻な状況となっている。「本当にこういう状況が続いたら農家辞めようかなと思うくらい心が折れそうになります」と桒野さんは肩を落とした。

作物への被害は代表的な夏野菜にも及んでいる。
キュウリ 被害は350万円以上に
「7月末に植えて8月末から収穫が始まる予定でした」と話すのは、宗像市のキュウリ生産農家の蓑尾沙亜さん。春から秋にかけて作ったキュウリを地域の『道の駅』などに出荷している。

10日の夕方、蓑尾さんが農業用ハウスのようすを見に来たときには、既にハウスのなかが茶色い水でいっぱいになっていて、7月末に植えたばかりの苗は頭まで全て水に浸かっていた。水は、水没から3日が経ってもひかないまま。苗を植え直すにも、水が乾いた後に畑を作り直す必要があるため、かなりの時間がかかる見込みだという。

「植え替える苗があったので、まだよかったんですけど、それがなければ、本当に丸々350万と苗代とかが全部なくなって、400万弱ぐらいは総額被害があったのかなという感じですね」と話す蓑尾さん。

宗像で農業を始め2025年で2年目という若手生産者を襲った大雨。自然を相手にする難しさを改めて感じたという。
道の駅 棚には空きスペースも
今回の記録的な大雨で人気の直売所でも品揃えに影響が出ていた。『道の駅・むなかた』では、お盆のかき入れどきにもかかわらず、棚には空きスペースが目立っていた。

猛暑の影響で元々野菜の数は少なめだったというが、出荷している生産者にも大雨で被災した人が少なくないため、今後の入荷も不安定になるという。

「日照り続きだったので、恵の雨かなと思っていたら…、こういうことで非常に残念」と話す『道の駅・むなかた』営業部主任の石渡誠さん。

「地元のものを地産地消で道の駅むなかたは揃えたいと思っているので、出荷の時期が遅れることは、あると思いますし、全然、入荷がなくなることも考えられる」と深刻な状況を口にする。
川から溢れた水 一気に住宅街へ
大雨のあと、福岡県には熱中症警戒アラートが発表され、被災した地域の周辺では真夏日が続いた。多くの住宅が浸水した福津市畦町では炎天下のなか、敷地内に残った大量の泥をかき出すなどの作業が続く。

民間のボランティア団体が支援に入っているが、猛暑のなか、体調に考慮しながらの作業に加え、大雨の被害は福岡に限らず九州各地に及んでいるため時間がかかる。資金や人手はいくらあっても足りない状態だ。

『NPO法人日本九援隊』理事長の肥後孝さんは「2年前の久留米や8年前の朝倉のような状況が広がっていますので、被災地の現状を見て少しでもお手伝い頂ければ幸いです」とボランティアの必要性を強く訴える。

被害の全容が徐々に明らかになるなか、被災した人たちは何が必要なのか。実態を早期に把握し、支援につなげられるかが課題となっている。
(テレビ西日本)