かつて所属していた陸上自衛隊郡山駐屯地で、同僚からの性被害を訴えている五ノ井里奈さん。6月29日に開かれる刑事裁判の初公判を前に、胸の内を明かした。

癒えない心の傷

「時が止まっている状態なので、しっかり前に、本当の意味で前に進むために戦っているということですね」

福島テレビのインタビューに応える五ノ井里奈さん
福島テレビのインタビューに応える五ノ井里奈さん
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カメラの前で現在の心境を語ってくれた五ノ井里奈さん(23)には、癒えることのない心の傷がある。宮城県出身の五ノ井さんは震災を経験し、当時被災地で活動する自衛官の姿に憧れ、進むべき道を決めた。しかし2年前、配属された郡山駐屯地で同僚の男性隊員から卑劣な性被害を受けたという。

被災地で活動する自衛官の姿に憧れ
被災地で活動する自衛官の姿に憧れ

嫌疑不十分で不起訴

複数の男性隊員が五ノ井さんに覆いかぶさり、下半身を押し付けるなどのわいせつな行為をしたとされている。(※起訴内容より2021年8月)

「絶望というか、こんなことがあっていいのかという思いでしたね。悲しかったし辛かったというのと、本当に言葉に言い表せない感情でしたね」

配属された陸上自衛隊郡山駐屯地
配属された陸上自衛隊郡山駐屯地

上司に被害を報告したものの調査は行われず、五ノ井さんは自衛隊で犯罪の捜査を担う警務隊に被害届を提出。(※2021年9月)隊員3人が強制わいせつの容疑で書類送検されたが、検察は「嫌疑不十分」として不起訴とした。(※2022年5月)

隊員3人が強制わいせつの容疑で書類送検も検察は「嫌疑不十分」として不起訴
隊員3人が強制わいせつの容疑で書類送検も検察は「嫌疑不十分」として不起訴

防衛省が加害行為を認定

自衛隊を退職した五ノ井さんは、隊員の処分と謝罪や調査などを求めて活動を開始。顔と名前を出し、SNSなどで被害を訴えた。

顔と名前を出しSNSなどで被害を訴えた
顔と名前を出しSNSなどで被害を訴えた

2022年9月、防衛省は調査の結果 五ノ井さんの性被害を認め、陸上自衛隊のトップである陸上幕僚長が謝罪。そして隊員4人が五ノ井さんに直接謝罪した。防衛省は最終的に隊員5人の加害行為を認定。全員を懲戒免職とした。

防衛省は調査の結果 五ノ井さんの性被害を認める
防衛省は調査の結果 五ノ井さんの性被害を認める

検察審査会「不起訴不当」の議決

さらに郡山検察審査会が、五ノ井さんからの不起訴に対する不服申し立てを受けて、審査を行い「不起訴不当」と議決。(※2022年9月)検察が再捜査し、2023年3月に強制わいせつの罪で男性元隊員3人を在宅起訴した。

郡山検察審査会「不起訴不当」と議決
郡山検察審査会「不起訴不当」と議決

ここまでしないと向き合ってくれないというか。そこに、うれしさよりも悲しい気持ちが大きかった」

「ここまでしないと向き合ってくれない…」
「ここまでしないと向き合ってくれない…」

あの謝罪は一体…

五ノ井さんは、検察が在宅起訴をする前にわいせつ行為を行ったとされる元隊員5人と国を相手取り、損害賠償を求め提訴。2023年6月14日に開かれた第一回口頭弁論では、元隊員4人が性的な接触や暴行などを認めず、争う姿勢を示した。

第一回口頭弁論 元隊員4人が争う姿勢を示す
第一回口頭弁論 元隊員4人が争う姿勢を示す

この日の会見で五ノ井さんは「答弁書を読んだときは、本当に言葉に言い表せないくらい悲しい気持ちというか、悔しさとか怒りとか色んな気持ちがあった。あの謝罪っていうのは、形だけだったんだな」と語っていた。

「あの謝罪は、形だけだったのか」
「あの謝罪は、形だけだったのか」

心無い声に傷つく日々

さらに五ノ井さんを苦しめているのが「誹謗中傷」
「明日生きれるかなくらいの精神で生きている。だから頑張れる日もあれば、頑張れない日もあって。その繰り返し。だから私もいつ心が折れちゃうのか分からないですけど、でも命ある限り頑張ろうかなと」

誹謗中傷に「いつ心が折れてしまうか…」
誹謗中傷に「いつ心が折れてしまうか…」

求めるのは反省と罪に向き合う事

五ノ井さんが求めていのは、一貫して被告の反省と犯した罪に向き合ってもらうこと。

「事実を認めていなかったりとか、そういう姿を見てやっぱり反省していない。なら刑事としての責任をとってほしいなと思っています」

最後に五ノ井さんは「泣き寝入りされている方が、たくさんいらっしゃると思っている。この戦いを見て、私も声をあげようとか戦ってみようとか。あきらめないで戦えるんだというのを証明させたい」と語った。

性被害を受け苦しんでいる人を支えにも
性被害を受け苦しんでいる人を支えにも

五ノ井さんの強い思い

取材を担当した福島テレビの本山優紀記者は「強い信念を感じた。裁判を通して被告の元隊員に性被害への謝罪・反省を求めていることはもちろん、自分と同じような被害者が出てほしくない。そして「自分が声をあげる」ことで性被害を受け苦しんでいる人を支えにという強い思いを感じた」と言う。

福島テレビ・本山優紀記者「強い信念を感じた」
福島テレビ・本山優紀記者「強い信念を感じた」

刑事裁判のポイント

起訴された被告の元隊員3人は、6月14日から始まった民事裁判で性的な接触や暴行を認めず争う姿勢を示した。刑事裁判でも同じく起訴内容を否認するとみられている。

刑事裁判でも起訴内容を否認するとみられる
刑事裁判でも起訴内容を否認するとみられる

「強制わいせつ罪」は法定刑が6カ月以上10年以下の懲役と重く、検察側がどう立証するかがカギとなる。

強制わいせつ罪は法定刑が6カ月以上10年以下の懲役
強制わいせつ罪は法定刑が6カ月以上10年以下の懲役

陸上自衛隊の警察組織である警務隊は、五ノ井さんの立ち合いのもと、被告などに見立てた人や人形を使い当時の状況を再現し、わいせつ行為の状況などを捜査していて、この記録などを検察側が資料の一つにするとみられる。
一方で客観的な物証などはなく、関係者の証言が判決の行方に大きく関わるとみられている。裁判では五ノ井さんも当時の状況などを、法廷で証言する予定。

裁判では五ノ井さんも法廷で証言する予定
裁判では五ノ井さんも法廷で証言する予定

五ノ井さんに対する強制わいせつ事件の初公判は、6月29日午後1時半に福島地方裁判所で開廷する。

(福島テレビ)

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