6月20日、佐賀・唐津市の「虹の松原」で起きた倒木と車の接触事故。4年前、同じ虹の松原の倒木事故で当時11歳の長男を亡くした母親は、「やっぱり起きたか」と心境を語った。

国の特別名勝で繰り返された事故

長男を亡くした内山明日香さん:
遅かれ早かれ、いつかはまた同じような事故が起きるかなと思っていたんですけど、「やっぱり起きたかな」って

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やりきれない思いを口にするのは、2019年7月、佐賀・唐津市の虹の松原の倒木事故で当時11歳の長男を亡くした内山明日香さん(40)だ。

痛ましい事故から4年。2023年6月20日未明、同じ虹の松原で、50代の男性が運転する車が倒れていた松に接触する事故が起きた。

男性にけがはなかったが、車のバンパーやボンネットなどを損傷した。

なぜ、同じような事故は繰り返されたのか―。

唐津湾沿いに、虹型に連なる松原。約400年の歴史を持つ国の特別名勝「虹の松原」だ。全長4.5キロ、幅500メートルに100万本にも及ぶの松が群生している。市民や観光客の憩いの松原でもある。

しかし、2019年7月、この景勝地で痛ましい死亡事故が起きた。
県道を走行していた内山明日香さんの車と折れた松の木が衝突。助手席に乗っていた小学5年の長男・辿皇(てんこう)君が木の直撃を受け、亡くなったのだ。

本山順子ディレクター:
4年前に死亡事故が起きた現場です。今でもお花など多くのお供え物が手向けられています

今も手を合わせる人が絶えない事故現場。背後には、「倒木注意」と書かれた看板が立てられている。

現場には「倒木注意」の看板も見える
現場には「倒木注意」の看板も見える

事故を受け、県道沿いの松を管理する佐賀県唐津土木事務所は、樹木医に松の調査を依頼。道路沿いだけで、倒木の危険性が最も高い「E」評価の松が228本あることが判明した。

「虹の松原」の松を診断した樹木医・三宮洋さん:
樹の“傷口”から、腐朽菌というんですけども、その菌が入り込んで腐朽病害を起こして空洞化になるというのが大体のところなんですが、空洞になっていると、どうしても幹折れしやすい。幹が折れる確率的に高くなる。危険な樹木に関しては、安全を考えて撤去すべきだと思う

佐賀県は、これまでに「E」評価の松のうち、空洞化が確認されたものなど60本余りを伐採した。しかし、道路に大きくせり出しているものなど、倒れる危険性がある166本の松がまだ残されたままで(2023年6月23日現在)、目視の点検などにとどめられている。

なぜ、すぐに全て伐採しないのか―。そこには文化財ならではの複雑な事情があった。

“調査対象外”の松が…危険性認識されず

国指定の特別名勝「虹の松原」は、佐賀県が県道沿いの松の管理を担当し、唐津市が文化財として松原の保護をしている。松を伐採する際は、県が市に申請し、市が文化財保護法上、問題ないと判断すれば、ようやく切ることが可能となるのだ。

さらに、今週接触事故を引き起こした松は幹が空洞化していたが、調査の対象区域外にあったため、危険性を認識されていなかった。

「虹の松原」の松を診断した樹木医・三宮洋さん:
びっくりしました。診断範囲外だったので。今、道路の沿線しか診断していない。やはり道路の10メートルから15メートルの範囲もしなければ事故の危険を抽出できない

今回の事故では、けが人はいなかったが、少しタイミングがずれていたら、また命が失われるなどの重大事故が発生していたかもしれない。

伐採など求め署名活動も 「息子の死を無駄にしたくない」

最愛の息子の命を1本の松に奪われた明日香さんは、あの日のことを忘れることはないと語る。

長男を亡くした内山明日香さん:
ずっと時間が止まったままみたいな感じだし、節目節目とか、誕生日とかあれば、どんな感じで成長してるかなとかは、ずっと考えたりしてしまう

明日香さんは2022年、県道や松原の管理責任をめぐり、県や市などに損害賠償の支払いを求める訴えを起こし、松の伐採などを求める署名活動も続けている。

長男を亡くした内山明日香さん:
息子の死を無駄にしたくないし、今、自分ができることは限られていると思うんですが、できることはやっぱりしていきたい

願いはただひとつ、もう二度と同じ事故が繰り返されないことだ。

長男を亡くした内山明日香さん:
やっぱり人が1人亡くなるというのは、年齢とか身内とか、身内じゃないとかも関係なく、やっぱり悔しいし悲しいことなので、危険っていうことを伝えていって、そういう思いをする人が1人でも減っていけばいいかなって思います

(テレビ西日本)

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