存続の危機にあった福岡市中央区長浜地区の屋台街が、新しく生まれ変わる。「“長浜屋台”復活へ」新しく店を出す店主たちの思いを取材した。
にぎわいを取り戻しつつある屋台街
週末、にぎわいをみせる福岡市天神地区の屋台。

新型コロナウイルスの法的位置付けが5類に引き下げられたこともあり、週末になると開店後、すぐに満席になるほどの人気ぶりだ。コロナ禍前の活気を取り戻しつつある。

屋台の観光客:
神奈川から来ました。今回、福岡に来るのが初めてで、それで「屋台グルメ」を楽しみたいと思ってて。昨日も実は中洲の「屋台グルメ」を楽しみまして、きょう2日目なんですけど

イギリスから来た観光客:
イギリスから来ました。福岡に住んでいる友だちが「福岡に来れば、焼きラーメン、絶対、食べてください」と言われて

水際対策は緩和され、外国人観光客も多く訪れる福岡の観光資源、屋台。現在、福岡市内には、天神、中洲、長浜エリアを中心に95軒の屋台が軒を連ねる。ただ、その知名度にはエリアによって格差があるのも事実だ。
記者:
天神で屋台を探そうと思っていましたか?
東京からの観光客:
中洲にもあると知っていたけど、天神と中洲、旅して、取りあえず、天神に

記者:
長浜の屋台は、知っていますか?
東京からの観光客:
えー、分かんない。長浜?聞いたことあるけど、そっちに屋台があるというイメージがない
天神、中洲の屋台は観光客に人気だが、長浜は、そもそも屋台の存在を知らない人が多いのが現状だ。かつては多くの屋台が軒を連ねていた長浜だが、現在は…。
飯山健太郎ディレクター(5月31日取材):
あれ、屋台が1軒も見当たりませんね

長浜の屋台街がある中央区の鮮魚市場前の歩道には、この日、屋台の姿は1軒もなかった。

近くに住む人:
(普段は)ここに1軒だけ、いま、ありますね。不定期なのか、定期なのか分からない
存続の危機の中…新たに6軒オープン
現在、長浜で営業している屋台はわずか1軒。そんな長浜屋台街が存続の危機にある中、6月5日、新しく6軒の屋台がオープンした。

日高真実ディレクター:
長浜の屋台街まで徒歩10分ほどの福岡市の地下鉄「赤坂駅」の階段は、大きな赤ちょうちんで彩られています

長浜ラーメン発祥の地・長浜。もともとは鮮魚市場で働く人たちの腹ごしらえの場として誕生した。

最盛期には15軒の屋台が並んでいたが、天神や中洲と比べると交通アクセスが不便なため次第に客足は遠のき、移転や店主の高齢化などで廃業も相次いだ。

福岡市は観光資源である屋台を存続させようと2016年から新規出店する人を公募。しかし、これまで3回の公募を通じて長浜地区での希望者はいたものの、出店までに至らず、現在は1店舗のみの営業となっていた。
福岡市まつり振興課・濱田洋輔課長:
この7年間で新規出店がなかったのは、比較すると天神や中洲の方が人通りも多いし、おそらく天神や中洲の方が、屋台営業のイメージがしやすかった

人通りが少なく、経営が成り立たないと敬遠する店主が多かった長浜地区。そこで福岡市は、飲食店の集まりなどに参加し、今回の公募を積極的に発信した。すると…。

福岡市まつり振興課・濱田洋輔課長:
屋台街として、できあがっている天神や中洲じゃなくて「長浜で1から作っていく」という熱い思いを持った方がたくさんいらっしゃって

4回目となる今回の公募には65人が応募。5倍という過去最高の倍率になった。そして選ばれた店主が、屋台初のめんたいこ専門店やスタジアム気分が味わえる店など、個性的な屋台をオープンさせたのだ。

「長浜の屋台にかつてのにぎわいを」。長浜屋台「どげん家」の店主・竹本一幸さん(38)もそんな思いで出店する1人だ。竹本さんはこれまで、全国のイベントなどに出店する唐揚げ店を経営していた。
「長浜屋台・どげん家」・竹本一幸さん:
コロナ禍の唐揚げ店は、4~500万円は赤字になりましたね。仕入れた物を全部捨ててとか。食べてもらったら分かるものが、食べてももらえないので、すごくしんどい状況にありましたね

竹本さんの唐揚げ店は、試食販売で売り上げを伸ばしていたが、コロナ禍でイベントでの試食が禁止。そのため売り上げも激減し、厳しい経営を強いられていた。
そんな苦境にあえぐときに今回の屋台の公募を知った竹本さん。どん底になった自分と危機的な長浜屋台を重ね合わせ、ともに1から歩もうと屋台に応募した。

「長浜屋台・どげん家」・竹本一幸さん:
長浜屋台のいちファンとして、寂しい思いはありましたね。「長浜屋台街を盛り上げるぞ」と言う気持ちがあるので
こだわりの1杯に思いを込めて…
長浜屋台の復活へ。竹本さんはこれまでの経験を生かし、串カツや揚げ物をメインとした屋台を出店する。

さらに、今回の出店で新たなに挑戦しているメニューが、長浜ラーメン発祥の地で屋台を出すということで独自に改良した長浜ラーメン。豚骨ベースに独自で研究を重ねたスープが特徴で、長浜屋台復活への思いを込めた1杯に仕上げた。
「長浜屋台・どげん家」・竹本一幸さん:
原料を言うと豚の皮が入っているんですね。まろやかな感じになっているんですね

そして、6月2日金曜日の夜。長浜屋台街、プレオープンの日。そのなかには、長浜で初めて営業する竹本さんの姿もあった。午後7時からのオープン予定にもかかわらず、想定より準備に時間がかかり、約1時間半遅れのスタートとなった。
「長浜屋台・どげん家」・竹本一幸さん:
想定の3倍ぐらい大変ですね
ーーどの辺りが?
「長浜屋台・どげん家」・竹本一幸さん:
お酒を提供するのは初めてですね。大体テイクアウトだったんで、中に入れ込んでっていうのは初めてですね
これまでの唐揚げ店では、店内でお酒を扱ったことがなく、酒やグラスを陳列などの作業に時間がかかってしまったのだ。
「長浜屋台・どげん家」・竹本一幸さん:
きょうが、プレオープンでよかったかなって思っています

プレオープンして初めての客。早速、竹本さんがこだわったラーメンを注文した。
客:
(味は)ばっちりです。これからいっぱいお客さん、来てくれたらいいですね
「長浜屋台・どげん家」・竹本一幸さん:
そうですね
訪れた客も長浜屋台街の復活を待ち望んでいる。

訪れた客:
前の、屋台がたくさんあった頃を知っていると、ちょっとさみしかったですね。でもまた、こういうふうに形があってやっているのはうれしい
ーーこれから長浜でどんな営業を?
「長浜屋台・どげん家」・竹本一幸さん:
おいしいものを当たり前に出して、来てもらえる人に快適といいますか、心地よくなってほしいですね

そして迎えた6月5日の営業初日。早速、大勢の人が訪れ、長浜に活気が戻った。竹本さんの屋台でも「乾杯!」の声が上がる。

訪れた客:
屋台発祥の地みたいなところだから、復活はうれしい

訪れた客:
一回、火が消えて、悲しいこともあったし、復活して、「きょうは来ないといけない」って思って来た

「長浜屋台・どげん家」・竹本一幸さん:
福岡の観光資源として長浜屋台街と言われる、盛り上がってると言われるような屋台街になるんじゃないかなと僕は思ってます。不慣れなことが多くて苦労すると思うんですけど、楽しいです。すごく
コロナの波も去り、人の動きが活発になる中、長浜がかつてのにぎわいを取り戻し、新たな観光地へとなることに期待が寄せられている。
(テレビ西日本)