今年3月、フジテレビは、男性育児休業取得率100%の実現を目指して、株式会社ワーク・ライフバランスが推進する「男性育休100%宣言」に賛同した。

アナウンス室では、2021年9月に榎並大二郎アナが育休を取得して以降、1年半の間に計5人の“男性育休”取得者が誕生している。対象者はほぼ全員取得している現状だ。

左から竹下陽平アナ(50)、榎並大二郎アナ(37)、立本信吾アナ(37)
左から竹下陽平アナ(50)、榎並大二郎アナ(37)、立本信吾アナ(37)
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今回、アナウンス室の“男性育休”先駆者の一人である榎並アナ(男児・1歳)に加え、アラフィフにして新米パパとなった竹下陽平アナ(女児・1歳)、第三子で初めて育休を取得した立本信吾アナ(6歳・1歳・0歳)の3人が、育休で得た体験・視点・知見を語った。そして、東京大学大学院・山口慎太郎教授に、経済学の視点から解説してもらった。

“名もなき家事”に気づけた育休期間

1歳の娘に読み聞かせ?竹下アナ
1歳の娘に読み聞かせ?竹下アナ

ーー率直に育休を取っていかがでしたか?

3人:間違いなく良かったです!

榎並:もし取っていなかったことを考えると怖いです。学校の授業の最初の数カ月間いなかったぐらい、育児に付いていけなかったと思います。育休中は育児だけでなく、家事もあるじゃないですか。“名もなき家事”に気付けたのも大きかったです。

竹下:洗濯物は、たたんでしまうところまでがワンセット、とかね。それに、妻が天気予報をすごく気にするのも分かるよね。実況する試合の天気予報しか気にしていなかったもんな…

立本:分かります。神宮球場周辺の天気だけですよね(笑)。僕も、洗濯物を干した瞬間に雨が降ってきたり。洗濯一つとっても、ものすごくパワーが必要ですよね。

【山口教授が解説!】

3人とも育休を取って良かったとのことですが、確かに、カナダの研究データでも育休を取る・取らないでは、その後の子育てに対する関わり方が違うことが分かりました。

5週間の育休を取得した男性は、3年後に育児時間・家事時間ともに2割ほど伸びています。日本では5週間は長い印象かもしれません。しかし、女性の平均的な育休期間からするとだいぶ短いにもかかわらず、ライフスタイルが変わるぐらいのインパクトがあるのです。

最初の約1カ月が3年後も効果を持つのは不思議に思われるかもしれませんが、実は脳科学では、「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンが分泌されると、子どもをかわいいと思い、子供と強い感情的なつながりが持てると言われています。 

女性は、出産や授乳の段階でオキシトシンが分泌され、自然に母子の強い繋がりが生まれます。一方、男性には生まれないと言われていました。 

しかし研究によると、男性も赤ちゃんとスキンシップを重ねることでオキシトシンが出て、かわいいと思うようになるのです。かわいいと思うと、自然とお世話をするようになり、さらにオキシトシンが分泌されます。結果的に育休から3年経っても、育児をするのが当たり前なライフスタイルに変化するのです。 

育休を伝染させる“勇気あるお父さん”

ヒゲを剃る暇もない!アナウンス室の“勇気あるお父さん”
ヒゲを剃る暇もない!アナウンス室の“勇気あるお父さん”

ーー”男性育休”が広く浸透していなかった当時、榎並アナが取得したきっかけは?

榎並:漠然と取りたいとは前から思っていて、そんな中、当時の上長に妻の妊娠を報告したら「育休取ったら?」と提案され、背中を押された形で取りました。

竹下:僕は、男性が育休を取るなんて考えられなかった世代なので、当たり前に取る感覚はなかったかな。ただ管理職の自分が率先して取れば、後輩たちも取りやすくなる思って。自分が取っているのに後輩たちには取らないで、とは今後言えないよね(笑)。あと後輩たちには「仕事はなんとか回るから大丈夫」と伝えたい!その代わり、誰かが育休を取った際はカバーする側になればいいわけで。

立本:持ちつ持たれつの空気感は大事ですね。一度仕事から離れても同じ形で復帰できる空気感があれば、さらに取りやすいですね。

【山口教授が解説!】

先駆者となった榎並アナのような“勇気あるお父さん”の存在はとても大切です!

実は、育休先進国と言われるノルウェーでも、男性育休取得率は1993年の育休改革前はわずか3%でした。改革直後に3割に増えましたが、現在の9割まで普及するには時間がかかりました。ノルウェーのお父さんたちも、最初は周りの目を気にしていたそうです。

ただ研究によると、先陣を切ってくれる“勇気あるお父さん”が同僚にいる場合、育休取得率が15ポイントUPしました。さらに、上司が育休を取得すると、同僚同士の場合よりも2.5倍の影響力があることも分かりました。 職場で影響力のある人が率先して育休を取り、復帰後も変わらず活躍できれることが示せれば、育休は「伝染」します

また竹下アナが「仕事は回る」と言っていましたが、まさにです。育休は急に取るものではないので、経営者や管理者が用意する期間はあります。仕事が回らないのであれば、マネージメントの問題と言わざるを得ません。

「1秒の価値が変わった」生産性向上でプラスしかない

3人の子どもたちに囲まれる立本アナ
3人の子どもたちに囲まれる立本アナ

ーー仕事に対する変化はありましたか?

榎並:優先順位が仕事から家庭第一にガラッと変わりました。いままでは休日の仕事も二つ返事で受けていたのが、今は「これは若手アナにもできるかもしれない、自分でなくても仕事が回っていくかもしれない」と立ち止まって考えるようになりました。仕事における自分の立場を俯瞰してみられるようになったと思います。

竹下:前よりも仕事が楽しい!と思えるようになったかな。なぜなら、育児に比べると仕事は楽だから。実況の準備などは自分のペースで進められるけれど、育児は子ども時間だから大変!

立本:僕は、1秒の価値が変わりました。子育ては、常に時間的に迫られているじゃないですか。職場復帰してからの方が集中力が上がって、効率を考えるようになりました。ダラダラなんて、できません(笑)。

あとは、仕事仕事!じゃなく、広い視野を持ったことで、他の世界も見えてきました。僕には第一子、第二子で築き上げた地域のネットワークがあって。そんなパパ友・ママ友の世界がとても楽しいんです。そして第三子の育休中も、彼らに本当に助けられました。キャリアももちろん大事ですけど、それだけではない別の価値観が生まれましたね。

【山口教授が解説!】

“1秒の価値が変わった”立本アナのように、育児をしているとダラダラと残業なんてしていられません。これは会社にとって不要な残業代を払わなくて済むうえに、時間当たりの生産性も上がるので、プラスでしかありません。

また、責任ある立場の男性が育休を取得すると穴が生まれ、部下に活躍の機会が与えられます。榎並アナが「若手アナでもできるかも、自分でなくても回るかも」と気付いたように、育休が若手育成のチャンスにもなります。

ちなみに、男性は従来から仕事オンリーの人が多く、社会的に孤立しがちでした。家族と良好な関係を築けない。職場以外の友人もいない。これだと世界が狭くなり、長い目で見るとかなりマイナスです。

仕事以外の充実した時間の持ち方を知らないと、心の安定やゆとりは生まれません。立本アナのように、子どもを通じた別の世界を築けたのは素晴らしいと思います。

ただ一方で、子どもは成長します。その時に、子ども以外のネットワークも持っておかないと、逆に子どもに依存してしまうことになります。そこは皆さんもぜひ気をつけて頂きたいです。

【取材後記】

今回のテーマは「男性育休」だが、二児の母である私自身も大きくうなずく話ばかりだった。私の生活も仕事から家庭中心に変わり、“1秒の価値”も以前と全く違う。

育休が人生観を変えるほどの大きなインパクトを与えるのは男女問わずだ。(たとえ5週間でも、3年後のライフスタイルにまで影響するのだから!)

そんな人生の幅を広げる機会にもなる育休をいままで男性たちは制度があっても利用できずにいたのだ。

これからは、男性も当たり前に、安心して育休を取得できる世の中になって欲しい。それと同時に、育休の主語が「女性/男性」と区別されなくなる日を願うばかりだ。

(執筆:フジテレビアナウンサー 遠藤玲子)

【ぶっちゃけ育休を取らなかったら○○だったかも…】直面した葛藤と変化【男性アナ育休座談会】

遠藤玲子
遠藤玲子

フジテレビアナウンサー。2005年入社
学生時代を、ベネズエラ、アメリカで計9年過ごす。
入社後、『めざましテレビ』のスポーツキャスターなどスポーツを中心に担当。
第2子出産後、2017年からドイツで5年間過ごし、2022年に復職。
幼少期、思春期、子育て期を海外で過ごしました。
日本を離れたからこそ、気づくこと。
そんな“気づき”を大切にできればと思います。