少子化ニッポンの行方について考える。異次元の少子化対策の「柱」、児童手当の拡充について、高校生にも月1万円支給という案が検討されている。しかし、この案をじっくりみてみると得をするのか、実は損なのか、個人によって状況が変わってくる。

中学卒業までと思ったら…高校卒業まで「支給」方針に

この記事の画像(18枚)

高校1年の息子さんがいる小田和さん。中学を卒業した時点で、児童手当の支給がなくなったと思ったら…岸田首相が掲げる「異次元の少子化対策」で、高校卒業まで支給される方針が示され実現すると月1万円・年12万円を受け取ることが出来そうだ。

高1の息子がいる 小田和香織さん:
(児童手当が)あることに対しては、すごくありがたいと思うんですけど

使い道は公立高校に通う息子さんが今後、塾や予備校に通い始めた場合の費用になりそうだ。

高1の息子がいる 小田和香織さん:
私立って結局学費もそれなりにかかるけれど、その分きちんと面倒を見てくれる「塾要らず」という話も聞くので、それが公立で行くと塾代・予備校代を考えておかないといけないのかなと思っています

私学に通う娘「塾に行きたい」…驚きの修学旅行費用

仲松みつえさん:
私学に行っていても塾代はかかってます

大阪市内に住む仲松さん。高校2年生の長女は、大学受験を見据えて自ら「塾に行きたい」と通い始めた。

娘が高校生になってからの支出は、これまでとは桁違いだと話す。

仲松みつえさん:
高校に入った時のビックリは結構ビックリだったんですよ。ほんまにこんなに(お金が)かかるんや!って

小中学校に比べて制服や教科書の値段が高くなったほか、修学旅行の代金にも驚いたと話す。

仲松みつえさん:
ほら(修学旅行代が)25万円!ほら!パスポートと保険は別です、みたいな

学校指定のタブレット端末は10万円以上した。

仲松みつえさん:
(出費が)異次元ですよ

そんな仲松さんをさらに驚かせたのが…

鈴木俊一財務相:
扶養控除の見直しということ、これは歳出と税制の在り方ということを考える中でそういう整理が必要になるのではないかと

児童手当を高校生まで拡充した場合について、鈴木財務大臣が高校生の扶養控除を、見直す可能性に言及した。

現状だと、高校生の子どもが1人いると所得から38万円が差し引かれる。つまり課税の対象となる金額が抑えられるが…扶養控除がなくなると課税の対象となる額が増えるので、税金が今より多く取られる。

ファイナンシャルプランナーの栗本大介さんに共働きの夫婦で高校生のこどもが1人いる想定で、試算をしてもらった。

どちらか片方の年収が600万円の場合、所得税が約3万8000円、住民税が3万3000円増えるため、児童手当を年に12万円支給されても実質受け取れるのは年4万9000円となる。

仲松みつえさん:
違うところから持ってきて「やったよ」って言ってるだけのような気がするんで

岸田政権に対して野党は批判しました。

立憲民主党 泉健太代表:
異次元の少子化対策だと、子育て支援と言いながら、結局温かくないのね

異次元の少子化対策に異次元の効果は期待できるのか?

政府が進める「異次元の少子化対策」…専門家はどうみる?

政府が進める「異次元の少子化対策」は本当に異次元なのか?その恩恵や財源などお金の目線で専門家の関東学院大学経済学部・島澤諭教授にお話を伺う。

まず今、検討されている、児童手当の対象年齢を高校生にまで広げようという案について見ていく。

政府は児童手当について、新たに高校生が居る世帯にも年間12万円を支給する方向で調整してている。ただ、その代わり、扶養控除を廃止することも合わせて検討。年収から控除された分を含めて税金額が決まるので、所得税や住民税などの負担が増えてしまう。

ファイナンシャルプランナーの栗本さんの試算によれば、例えば共働きの夫婦で夫の年収が600万円、高校生の子どものみが扶養に入っている世帯の場合、児童手当を年間12万円もらえたとしても、扶養控除が廃止されることによって、所得税、住民税が差し引きされ、実質もらえるのが約4万9000円という計算になる。

収入によっては、むしろ今よりも負担が増えてしまうという恐れもあるということで、年収ごとの“実質手当額”を見ていくと、年収が増えれば増えるほど、実質の手当額というのは減っていき、 年収800万円ぐらいだと、実質の手当て額1万1000円それを超えるとマイナスになってしまう。(※今回の試算は、社会保険料・生命保険料の控除は含む。復興特別所得税は含めない)

Q.「12万円もらえると思っていたのに」…ということになるが、本当に少子化対策と言えるのでしょうか?

関東学院大学 島澤諭教授:
12万円という給付が、アクセルを吹かす一方で、増税というブレーキをかけるわけですから、異次元の少子化対策というよりは、なんとなく異次元の少子化加速政策のような気がしてなりません

Q.児童手当を支給するのであれば、扶養控除は廃止するという方向にならないものなのか?

関東学院大学 島澤諭教授:
国は、なぜか子育てに関しては控除と手当の二重補助は良くないと考えているみたいです。扶養控除に関しては、旧民主党政権時代に子供手当というのができた時に年少扶養控除が廃止されたという“前科”があります。その時もやっぱり実質的な負担増の世帯が出てきましたので、今回もやはりかなりの世帯でその負担増が多くなって完全な逆効果だとは思います

関西テレビ 加藤さゆり報道デスク:
年収が高くなればなるほど、実際に損をするみたいな、これ実際高所得者にとってはいわゆる増税みたいな形になっているんです。12万円渡す…でも裏で実はこっそり増税みたいなことをするんじゃなくって、もうこれ国が「少子化対策のためなんで、ご理解ください」という形で正面切ってちゃんと説明するべきだと思います

財源確保に社会保険料引き上げ案も…

国が目指す「異次元の少子化対策」の3つの柱は、児童手当の拡充、育休の取得を促進するための働き方改革、保育サービスの拡充だが…政府関係者によると、財源として必要となる3兆円半ばのうち、約1兆円は歳出改革では賄えないということだ。そのため、社会保険料を引き上げる案が浮上している。個々人の負担が増える恐れがあることについて街の人に聞いてみた。

街の人:
働くほど(社会保険料が)取られていく。この子を保育園に入れて働かないといけないから、保育費もとられるし、ほんとつらい。なんで働いてるんだろって思っちゃう

社会保険料の上乗せ以外に方法はないのか?

政府は異次元の少子化対策を「児童手当拡充」「保育サービス拡充」「育休など働き方改革」この3本柱を中心に進めている。そのために必要な財源が、政府は不足している1兆円分を社会保険料の増額で確保しようとしている。このため子育てをしている現役世代の負担が増えてしまうということが懸念されている。

専門家「社会保険料上乗せすると少子化はいっそう進む」

財源確保のため社会保険料を増やすという案については島澤教授は…

関東学院大学 島澤諭教授:
そもそも少子化が進んでいるのは、手取り所得が低くて結婚できないですとか、結婚できても子どもが持てない、子育てにお金がかかるという若い世代が増えていることに原因があると思います。現役世代が全体の9割を負担する社会保険料にさらに上乗せすると結婚・出産予備軍ですとか、 現在子育て中の世帯の負担を増やすわけですから、そうすると、少子化はいっそう進むのではないのかなと思います

Q.社会保険料というのは、少子化対策のために集めているお金ではないということになるわけだが、それを少子化対策の財源に充てても問題はないのか?

関東学院大学 島澤諭教授:
社会保険料とひとくくりに言っても、医療・介護・年金 といったそもそもの用途がもう決まっているものなんです。それを少子化対策に使うっていうのは、取りやすいところから取るっていう感じでおかしい気がします。そこに上乗せされるわけですから、手取りが減って現役世代の負担を増やすというのは少子化を進めてしまうわけですから、少子化対策としては一番やってはいけない政策なのではないかと思います

少子化対策の財源はどうしたら

では、少子化対策の財源として、どういったものが適しているのか?島澤教授によると…

例えば、高齢者医療の自己負担を原則1割から3割にするという案。

関東学院大学 島澤諭教授:
将来子どもが増えれば社会や経済を支える人が増えますので、子どもの明るい未来を優先して考えた方がいいでしょうということです。おじいちゃん、おばあちゃんら高齢者も可愛い孫や若い世代のためですから、自己負担増えたとしても我慢できるのではないかなと思います 

島澤教授のもう一つの案は、200兆円ある公的年金の積立金を取り崩すというもの…これは、取り崩しても大丈夫なのか。

関東学院大学 島澤諭教授:
今、1年当たりの年金給付額が60兆円ですので、200兆円というのは、1年分予備を持っていたとしても140兆円ぐらい余分にありますので、それを切り崩しても40年ぐらいは持つと思います、その間に(少子化対策の)効果が出れば御の字だと思います

関西テレビ 加藤さゆり報道デスク:
高齢者医療なんですけども、その原則1割から3割っていうところなんですが、そもそも高齢者の方の医療がなぜ1割に抑えられているかっていうと、やっぱりその医療機関を使う頻度が高いこととか、収入が減るというところ見据えて抑えてるわけなんです。やっぱり年金だけで生活している人とかにすると「これをお願いします」「上げます」っていうのはなかなか理解するのは難しいことかもしれないです。一方で与党の中にも医療・介護分野での歳出削減・改革はすべきだという声はあるんですが、 与党の中には、それにもやっぱり根強い反対があるとも聞きます。本当に選挙を前にしているので痛みを伴うものというような印象付けをしたくないというところがあるかもしれないですけど、本腰を入れる姿勢を見せてほしいなと思います

少子化対策…どう進めるべきか

関東学院大学 島澤諭教授:
厳しい言い方かもしれませんが、今の日本で少子化対策にできることっていうのは、少子化を遅らせることだけだと思います。異次元の少子化対策の効果が出ている間に社会の構造を転換していくっていうことしかないんだろうなと思います 。今も少子化が止まっていない現状で、ちょっとお金を増やす、ただ、その一方で増税で取り上げていくわけですから、少子化が止まるとは思いません。“アリバイつくり”のためにお金を突っ込んでいるだけのように見えているというのが正直なところです

ここで視聴者からLINE質問。「国会議員の給与や夏季手当なども削減して財源に充てるべきではないか」。

関東学院大学 島澤諭教授:
国会議員にかかる予算は衆参合わせて1000億円ほどですので、その異次元の対策の予算としては、桁が1つ足りないかなと思います。ただ国民に痛みを強いるわけですから、自ら率先して歳費の削減などを行ってほしいと思います 

続いては「保険料上乗せしてまでする政策なのでしょうか?子育てには全く足りませんし… 」というご意見も含めたLINE質問。

関東学院大学 島澤諭教授:
おっしゃる通り、何のための誰のための少子化対策なのか、その少子化対策に効果があるのか、私たちは全然分かりませんから政府はしっかり説明して国民の理解を得る必要があると思います

少子化対策に何が必要なのか…みていかなくてはいけないし、財源のあり方も含めて今後も注目していくべき問題となっている。

(関西テレビ「newsランナー」5月30日放送)

関西テレビ
関西テレビ

滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・徳島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。