子どものことが大好きであるものの、育児や家事で「何をしたらいいかわからない…」と悩むパパもいるかもしれない。

そんなパパへ「ママと同じようなことをしなくてもいい」と背中を押すのは、東京富士大学の鬼木一直教授。過去に2回育休を取得し、現在3児のパパだ。

子育て歴16年だが、「子育てにはマニュアルはないと思います。試行錯誤を繰り返しながらですが、子どもと一緒に楽しく過ごしています」と笑う。

鬼木さんは「パパが育児や家事に主体的に取り組むことで、ママに“ゆとり”が生まれて笑顔が増える、その環境を作り出すのが、パパにできること」だと語る。

まず「2週間では全然足りなかった」と振り返る、鬼木さんの育児休業(育休)経験から。

1度目は仕事優先、2度目に意識の変化

現在16歳の長女、10歳の男女の双子のパパである鬼木さん。長女、双子誕生時、それぞれ2週間の育休を取得した。

2度の育休は当時勤務していたソニーで経験。「特に長女のとき、制度は存在しましたが、周りで取得している人はほとんどいなかったと記憶しています」と振り返る。

長女の誕生時は「仕事がある中で大変」といった意識が強く、育児より「仕事優先」という考えだった。

それでも産後の妻に配慮し、おむつ替えや哺乳、寝かしつけ、食事や掃除、洗濯などを主にこなしたが、育休が終わると妻に任せることが増え、家に帰ると「何をしたらいいのだろう」と思うこともあったそう。

東京富士大学・鬼木一直教授
東京富士大学・鬼木一直教授
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それから自身ががんに罹患(りかん)し闘病を経験。そして双子を授かったことが育児や家事の意識を変えるきっかけになった。

「双子の誕生時は1人目より比較にならないほど苦労しました。双子でありながら、一人は未熟児だったため継続入院、もう一人と妻が先に退院するという想定外のこともあり、2週間の育休を終えても病院・会社・家を行き来し、家では長女の面倒を見たり、妻のケアをしたりと、本当に大変でした」

過去2回の育休は、「2週間では全然足りなかった」と振り返るが、2度目の育休で家事や育児の重要性をさらに実感。

双子が1歳のときに、より時間のコントロールがしやすい現職に転職。

現在も育児や家事に積極的に関わり、子どもたちを朝起こしたり、食事の準備や片付け、保護者会の出席、宿題の確認や洗濯などを主体的に行っている。

その原動力は「妻のためでもありますが、子どもが好きで、一緒にいたいという気持ちが強いから」と語る。

ママと同じようなことをしようとしない

最近のパパは、育児や家事へ取り組む姿勢が前向きだと感じているという鬼木さん。

コロナ禍で在宅勤務なども経験し、育児や家事の大変さを知ったパパが多いというが、それでも「何をしたらいいかわからない…」となってしまうパパもいるとのこと。

そんなパパへ「“奥さんを手伝う”という意識を変えましょう」とアドバイス。

「手伝うという言葉は、奥さんが育児・家事を行うことが前提の表現です。『何をしたらいいかわからない…』のは指示がないからであって、自分でどうすればいいのかを考えましょう。自信を持てない人、余計なことをしてかえってママに迷惑をかけてしまうと思う人もいるでしょう。

初めは実際ママの方が早いし上手ですが、一時的だと思っているから手伝いでいいと考えるわけで、仕事のように長期にわたるという意識があれば、主体的に対応する必要があると気づくはずです。

例えると、成功例をいっぱい持つ先輩社員(ママ)に、新人(パパ)が『ボクに任せて!』と言うようなもの。入社時も必死に仕事を覚えたり、工夫しましたよね。大事なことは、育児や家事に積極的に関わろうとする姿勢と、ママと同じようにやろうとしないことです」

では、パパはどんなことができるのか。パパが育児に参加するメリットから。

パパ育児参加のメリット「お父さん効果」

パパが育児に参加することは、子どもの社会性を養う上でも大切だと鬼木さんは言う。

「『The Father Effect』(お父さん効果)という言葉も生まれ、世界中の研究機関による報告では、言語能力の発達や癇癪(かんしゃく)の減少、人見知りの低減、我慢強さの向上などの効果が検証されています。

また、夫婦の意見が異なるのはよくないと言われることもありますが、いろいろな観点で物事を捉えることができる力は、多様性の時代、重要です。けんかや、意見の違いで混乱させることはよくないですが、夫婦の考えが違うのは子どもにとって大きな意味を持ちます」

次に、「ママと同じことをしようとしなくていい」とはどういうことなのか。

それは「パパだからできることを探すこと」という意味でもあるという。

高い高いは子どもにとって楽しい遊びの一つ(画像:イメージ)
高い高いは子どもにとって楽しい遊びの一つ(画像:イメージ)

例えば、「遊び」。子どもと触れ合えるというメリットもある。

「育児の中でも、力を必要とする遊びはパパの力を発揮できるものです。特に『高い、高い』は子どもにとってはものすごく楽しい遊びです。また、戦いごっこのようなダイナミックな遊びはパパの得意分野ですよね」

このときも「遊んであげている」ではなく「一緒に遊ぶ」視点が大事。

「そしてもう一点、子どもが成功したときより、むしろ失敗したときに褒めてあげることが重要です。結果よりも過程を大切にすることで、やる気を養い、失敗を恐れない気持ちを培うことができます」

家事のやり方が違ってもゴールは共有しておく(画像:イメージ)
家事のやり方が違ってもゴールは共有しておく(画像:イメージ)

家事に関しては「洗濯物を畳む」でも、夫婦でやり方は違うだろう。

そんなとき、パパなりの良いアイデアがあれば、ママに提案してみる。このとき、「しわを伸ばして畳む」というゴールを共有しておけば、畳み方は個性があってもいいという。

「夫婦で考え方ややり方が違うことも多々あり、どちらが正しいということもない。それぞれが納得のいく方法を探ることで、主体性が向上します。

コミュニケーションを取り、任せるところは任せる信頼感が、お互いの気持ちを尊重することにつながるでしょう」

特に「分担」ではなく「協働」がポイントだと鬼木さんは言う。

「ママが家事に集中したいときに、パパは子どもを公園に連れて行く提案をしてみたり、お風呂やトイレの掃除なども積極的にこなしてみたり。

“協働”はなんでも一緒にやる、ということではなく、苦手なことを補うこと。一人ではうまくいかないことを乗り越える原動力にもなります。ママと同じようなことをするのではなく、パパなりの育児・家事を考えてみましょう」

パパの育児力がママや家族の笑顔を増やす

もう一つ、パパができることとして「ママの話を聞くこと」も挙げる。

「ママは子どもと一緒にいながら孤独や不安と闘っているケースが多いと聞きます。育児の大変さや一人で抱えている気持ちを共有して、話を聞くことでストレスが軽減します。ママの心のゆとりもでき、パパも当事者意識を持てます。ママや家族の笑顔を増やすことが、パパが育児に参加する最大の目的です」

そんなときママが「パパを否定しないこと」も大事になる。

つい、パパにキツく言ってしまうこともあるだろう。そのときのママの言動が、パパの育児・家事への意欲を低下させてしまうことも。

夫婦で互いを褒め合うことが大事(画像:イメージ)
夫婦で互いを褒め合うことが大事(画像:イメージ)

「人間は褒められるとうれしいもの。やる気も上がります。『ありがとう』とねぎらうことで、パパは主体的になり、最終的にはママの負担軽減にもつながっていきます。

もちろん、パパにも言えます。ママに『いつもありがとう』『一緒にがんばろう』と褒め返すことも大事です」

パパも「手伝ってあげている」「休んであげている」「忙しいのにやってあげている」「疲れた」という言葉は気をつけた方がいいとのこと。

「そうした言動は、やはり“ママのお手伝い”という意識が言葉になっているから。“一緒に”という意識があれば、そうはなりません。

育休は長い時間を子どもと過ごす貴重な経験です。1日2日であれば最悪寝ずにこなせますが、数週間となるとそうはいきません。

“ちょっと手伝う”という感覚だと言われたことしかできないため、長くは続きません。だからこそ、2人でやることが大事なのです」

子育ては「楽しむ」ことが大事

育休から明けると多忙な日々が戻ってくるだろう。「子どもと過ごす時間がない」と嘆くパパに、鬼木さんは「量(時間)より質」だとアドバイスする。

「男性はどのくらいやったのかを指標と捉えることが多いようですが、育児は時間や成果ではなく心のやりとりが大切。

朝5分だけでも子どもの話を聞いたり、ギュッとハグをしたりするとオキシトシンが分泌され、感情をコントロールすることができるようになります。短くても子どもと向き合うことで濃い時間を過ごせます」

これから子育てに関わろうとしているパパに向けては「楽しむことが大切」だと言う鬼木さん。

「ママ、子ども、いろいろな視点に立って気持ちを考えてください。例えば、積み木で遊んでいても、途中で壊すこともあります。それにイライラする親もいて、高く積む方法を教えてしまう。ですが、壊すのが楽しい子もいる。『なぜ、壊すのだろう?』と親も好奇心を持って、考えてほしいです」

続けて、鬼木さんはこう話す。

「親は親で自分のやりたいことに制限をかけないでください。私は病気を経験し、“いつ死ぬかわからないなら、今のうちにやろう”がベースにあります。

子どものせいにしては子どもも喜びません。子どもに献身的になることも必要なときはありますが、やりたいことを工夫して、やれる範囲でトライしてみると子どもも親も視野が広がると思います」

最後に子育ては「何歳まで続くのか?」と聞くと、「終わりはないと思っています。100歳まで続く」と返ってきた。

「子育てはもちろん大変ですが、子どものために犠牲になるのではなく、子どもの成長と同時に親も成長し、人生をより豊かにする力にできればと思います」

『パパだからできる子育て術〜元ソニー開発マネージャが教えるはじめてでも楽しい育児の秘訣71〜』(幻冬舎)
『パパだからできる子育て術〜元ソニー開発マネージャが教えるはじめてでも楽しい育児の秘訣71〜』(幻冬舎)

鬼木一直
東京富士大学経営学部教授、入試広報部入試部長・IR推進室長なども務める。ソニーで多くの開発に携わり、その間に出願した特許件数は43件に及ぶ。現在は16歳の長女と10歳の男女の双子を子育て中。著書に『デキる社会人になる子育て術〜元ソニー開発マネージャが教える社会へ踏み出す力の伸ばし方』『パパだからできる子育て術〜元ソニー開発マネージャが教えるはじめてでも楽しい育児の秘訣71〜』(ともに幻冬舎)

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。