育児休業を考えてはいるが「どう過ごせばいいの?」と悩んでいる男性はいないだろうか。普段の生活は妻に頼ってしまっている人もいるはずだ。

今回は育休をきっかけに“主夫”の道を選んだ、鈴木祐之さん(44)に取材。主夫の視点から、男性の育休で求められることを探った。

仕事中心の生活から“主夫”となる

鈴木さんは妻(48)、長男(16)、長女(12)の4人家族。約15年前に約1年間(長男が7カ月~1歳半まで)の育休を取得した。当時はシステムエンジニアで、終電で帰ることもある仕事中心の生活だった。

鈴木さん一家 ※この画像は10年ほど前のもの
鈴木さん一家 ※この画像は10年ほど前のもの
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育休を取ったきっかけは、大学教員の妻が男性の育休を研究しようとしていたこと。身近なモデルになることから「取ってみない?」と言われ、当時は「仕事が休める」と軽い気持ちで首を縦に振ったという。

実際の育休生活はむしろ“休”とは程遠く、特に最初の3カ月はかなりの苦労もあったとのこと。その反面、育児に専念している分、子どもの成長を間近で見られることに喜びを感じたともいう。

子どもの成長に喜びを感じたという
子どもの成長に喜びを感じたという

そしてここから、鈴木さんの人生が大きく変わる。

鈴木さんは育休を終えて職場復帰したものの、長男はまだ幼く、妻は仕事が忙しい。そこで家族の理解を得て、柔軟な働き方ができるというNPO業界に転職。週の半分程度を働きつつ育児や家事を支える“主夫”として生きることを決めたのだ。

現在の鈴木さん。“兼業主夫”として、さまざまな活動をしている
現在の鈴木さん。“兼業主夫”として、さまざまな活動をしている

父親の育児参加を支援するNPO活動に参加したり、放課後児童クラブの支援員などとしても活躍。大学院にも通い、赤ちゃんとの接し方や夫婦関係のコミュニケーションなども学んだという。

そんな鈴木さんは、男性の育休についてどんなことを思うのだろうか。アドバイスを聞いた。

育休で子育ての大変さ、楽しさを経験

――初めて、育休を経験した時はどう思った?

育休は育児のため、子どものためのものですが、自分はそこの考えや見通しが甘かったですね。夜中の授乳から始まり、朝ごはんを食べさせる、散歩をさせる、お昼寝をさせる、その間に離乳食を作る、そしてオムツ替えやお風呂に入れる…1日中やることだらけです。家事をして、買い出しもしなければなりません。本当に大変だと思いましたね。


――主夫の道に進んだのはなぜ?妻の反応は?

自分に向いていると思いました。家事をすることに抵抗がなく、子どもが好きで好かれるタイプなので、こうした男性が家庭を支える生き方もあると示せるのではと思いました。妻の理解があったことも大きいです。将来性や経済面を考え、自分が支える側に回った方がいいと思いました。(妻の反応は)育休が妻の提案だったこともありますが、気付けば当たり前になっていたという感じです。

育児をする鈴木さん。授乳には苦労したという
育児をする鈴木さん。授乳には苦労したという

――育休期間で特につらかったことを教えて。

最初は大変でした。授乳しなければならないのに夜中に起きられない、寝ない子どもに悩みました。妻と衝突したこともあります。孤独にも悩みました。子どもと公園に行ってもママたちの輪に入れず「あの人はなんだ?」という目で見られます。妻にも言い出せない、つらさや孤独を感じましたね。


――楽しさや喜びを感じたところはある?

子どもの成長を見届けられたのは、何物にも代えがたい喜びでした。初めての寝返り、初めて歩いたこと、初めての発話(ご飯を“まんま”といいました)を独り占めできました。なついてくれたのもうれしかったです。笑顔で苦労が報われましたね。

育休前の「意識のすり合わせ」が大切

――主夫として、男性にはどんな心構えで育休に臨んでほしい?

ワンオペで育児・家事をこなすことを“世のお母さんたち”は当たり前にやっていますが、当たり前のようにやらなければならず、できない人もいるのではないでしょうか。産後うつや児童虐待が発生するのも理解できると思いましたし、(育休を取ることにも)覚悟が必要だと思います。男性には育児・家事のための休みであると肝に銘じて、長い時間を子どもと過ごしてほしいです。


――経験から、男性に向けたアドバイスはある?

まずは育休の取得前に、育児・家事をどこまでどちらが担当するのか、お互いが得意・不得意なことは何か、子どもをどう育てたいか。これらの方向性を夫婦で話し合い、意識のすり合わせをすることを勧めます。実際の育休生活は余裕がなくなり、冷静に話し合うことも難しくなりがちです。


――育児面で意識してほしい、ポイントを教えて。

奥さんが育児・家事を「もうちょっとやってほしい」と感じる、“理想の育休”とのギャップが出てくると思います。特に第一子だと、初めての育児でこだわりもあるでしょう。そこで衝突してもいいことはないので、男性は奥さんの気持ちを汲み取りつつ、できる範囲で歩み寄ってほしいですね。できないことがあるなら「今はそこまではできないけど、ここまではできる」と伝えてもいいと思います。

言い出せない孤独に注意してほしい

――育休中の男性に注意してほしいことは?

気持ちの落ち込みです。育児・家事に追われると孤独になりがちで、妻にも心配をかけまいと言い出しにくいので、悩みを共有できる環境があるといいでしょう。頼れる方は両親や祖父母の力を借りていいと思います。孫の成長を見せられる親孝行になりますし、自分のリフレッシュにもつながります。近くにそんな人がいない方は、育児支援団体や育児サークルに参加してみてください。

時代もあるが、当時の育休生活では孤独を感じたという
時代もあるが、当時の育休生活では孤独を感じたという

――育児・家事での実践的なポイントを教えて。

育児も家事も効率性ですね。子どもがよく寝てくれる子かそうでないかでも変わるのですが、寝ている時にこなせるように「同時並行できるもの」「時間が取れたらやること」を決めておくのも良いです。

料理は手作りにこだわるのではなく、電気調理器などの時短家電を使ってもいいです。固定観念にとらわれることなく、いい意味で楽できるところは遠慮なく楽をしてしまいましょう。週末に作り置きをして冷凍しておくなど、夫婦でアイデアを出し合い、楽しく協力してほしいですね。

育休の経験はその後の子育てにも生きる

――育休で学んだことが、子育てに役立ったところはある?

育休は取得して終わりではありません。育児・家事の大変さが分かるからこそ、妻や子どもが手伝ってくれた時は「忙しい中、ありがとう」などと感謝を伝えています。また、子どもには誰からも愛される人になってほしいといろいろな場所に連れて行き、その人たちと交流するようにしました。街のおばあちゃんからは非常にかわいがられましたね。おかげで、優しい人間に成長したと思っています。

育休の経験が穏やかな家庭につながったという
育休の経験が穏やかな家庭につながったという

――育休の取得を迷っている人にメッセージを。

育休は家族だけではなく、周囲のパパやこれからパパになる後輩のためにもなります。大変なこともありますが、育児の楽しみを知ってほしいですね。ただ、短期間の休みだと結局は妻に動いてもらうことになるので、3カ月以上は取得してほしいです。一人の人間を育てるための準備期間といえるので、覚悟を決めて取り組んでほしいです。



育休をきっかけに“主夫”を選択した鈴木さんが教えてくれた、夫婦での意識のすり合わせが大切なこと、気持ちの落ち込みに注意することは、育休取得を考えている男性も参考になるはずだ。育休中は多忙だというので、できる準備は事前にしておくのが良いかもしれない。

(提供:鈴木祐之さん)

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。