2022年10月から男性向けの新たな制度「産後パパ育休」制度が始まった。
また、男女問わず育休を一定期間取得すると所属部署に支援金を支給する制度を整える企業が出てくるなど、政府や企業が男性の育休取得を推奨する動きが増えている。

ただ、厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、女性の育休の取得率は80%台で推移しているものの、男性は過去最高の2021年度で13.97%。まだまだ取得率は2割にも満たないのが現状だ。

このように男性の育休を推奨する動きがある中で、問題となっているのがパタハラ(パタニティハラスメント=育児休業などを理由にした男性への嫌がらせ)だ。厚労省が2021年に発表した調査では、男性の26.2%が職場で受けていることも分かっている。

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男性が育児休業をとりやすくする内容を盛り込んだ22年の改正育児・介護休業法の施行前の調査ではあるが、約4人に1人が受けていたとなると、男性も育休取得に積極的になれないことだろう。

では、そもそもなぜパタハラは起きるのだろうか? そして改正育児・介護休業法が施行された現在、パタハラは減っているのだろうか?

NPO法人全日本育児普及協会の代表理事で、パタハラのない職場づくりを目指す「パタハラ対策プロジェクト」の共同代表を務める佐藤士文さんに現状や対策を聞いた。

より深刻になる?マタハラとの違い

――そもそもとして、マタハラとの違い教えて。

大きな違いは、パタハラの方が周囲に気付かれにくい点にあります。女性の育休取得率が8割以上なのに対し、男性は増えてきているとはいっても2割未満。まだまだ育児は母親任せで、主体的に育児をする男性が社内に少ないという現状があります。また、1カ月以上の育休を取得する男性はごくわずかであり、取得した人の3割は2週間未満という短い期間です。

実際にパタハラを受ける方は、育休をポーズやアピールではなく、1カ月以上の期間を本気で取得する(した)人であり、そのような方は非常に少ないのです。被害を受けた人が勇気を持って声を上げなければ、社内でパタハラが起きたことを知らない同僚も多いことでしょう。またそもそも、実感として「パタハラ」という言葉がまったく浸透していない印象もあります。


――パタハラの方が、より深刻だったりする?

はい、そのようなケースもありえます。いわゆる「24時間、働けますか?」のようなバリバリに働いてきた上司世代は「育児は母親がするもの」と考え、男性の育休取得にあまり理解を示さない傾向があります。そんな上司には「育休取得する男は、仕事へのやる気がない」などと見られてしまい、出世コースから外れてしまうこともあります。

そうなると生涯年収にも影響する可能性があり、収入が減ることは大きな問題となりえます。また、まだまだ男性の育休取得者自体が少ないことから、周囲に状況を理解してくれる人がいなく、誰にも相談できずに一人で抱えてしまうこともあります。

「制度はあるけど取得しづらい」現状

――改正育児・介護休業法の施行で、「男性育休を歓迎する雰囲気」は感じている?

法改正があり、男性の育休取得を推奨する企業は少しづつですが増えてきていると感じます。実は世界の中でも日本は育児休業給付金などが制度として以前から整っていて、男性にも優しい育休制度なのですが、一方で、いまだに「男性が稼いで、女性が育児」というような文化が残っている企業も多く、「制度はあるけど、実際は取得しづらい」という現状があります。

以前に比べて男性の取得率が増えたとはいえ、まだ社内での理解度が深まっていないのだと思います。そして、男性取得者の先輩が少ないと、「育休明け後の自分に仕事はあるのか?」「出世に響かないか?」などと将来が不安に思う方もいるかと思います。社会、そして企業の意識を変えていかないといけないので、政府や社長がリーダーシップを発揮し思い切った抜本的な改革を行わないと難しいと思います。


――パタハラ対策プロジェクトにはどんな相談が寄せられているの?件数は多いの?

立ち上げた当初(2015年)が一番注目されたこともあり、問い合わせも多かったです。一方で現在も、定期的に相談は寄せられています。

具体的に伺ったパタハラとしては、「育休明け後に、数年間の地方への転勤の打診」というものもありました。このケースでは奥様も同じ会社で働いていたのですが、同じタイミングで別の地方への転勤となったそうです。このような懲罰人事のようなパタハラの他に、上司による「育休とるなら出世はさせない」などの日常的な言葉によるパタハラも多いです。

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 ――ではパタハラをされた際は、どうしたらいいの?

同僚や信頼のおける上司、社内のハラスメント対応の窓口、または私たちのような外部の団体にまずは相談してください。一人で抱え込まずに、まずは相談することで気持ちを吐き出してほしいです。

そしてお話ししていく中で、解決策がすぐに見つかる可能性もあります。まずは打ち明けて、その後の対応を一緒に考えていただけたらと思います。

パタハラのない職場にするには?

――自分が無意識にパタハラをしないためにはどうしたらいい?

ジェンダー平等や人権についての本を読む、諸外国での育休事情を調べるなど、まずは基礎知識を得ること。なにがハラスメントなのかを知らなければ、無意識に加害者となってしまうこともあるのです。そして、男性の育休を当たり前の社会にするためには、企業としてルール化を進めていくことが被害を生まない近道だと思います。

育休を取得した社員がでたら、その社員の所属するチーム全員が特別な報酬をもらえる、といった思い切ったルールを設ける企業なども出てきました。このように、男性が育休を取得することに同僚らからも歓迎される仕組みを作ることも効果的な手法だと思います。


――社員研修なども効果的?

はい、パタハラが問題であることを理解してもらうために、マネージャー以上の役職者には研修を受けさせることも重要です。長らく性別役割分担を是としてきた日本社会を変えるには、トップダウンでないと難しいように感じています。パタハラで苦しむ父親がいて、その裏には、ワンオペで苦しんでいる母親がいるわけですから、企業のトップが旗振りとなって改善を進めてほしいですね。

若い世代はワークライフバランスを重視する人も多いです。少子化で人材難でもありますので、このような視点から男性社員の高い育休取得率やワークライフバランスを企業は積極的にアピールし、良い人材の長期採用につなげてみてはどうでしょうか。歴史を変えてくれる経営者を、男性だけでなく、女性も待ち望んでいると思いますよ。

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法改正などもあり、より男性が育児休業を取りやすい仕組みが整いつつあるが、まだまだ取得しにくいと感じる現状があるようだ。仕組みも大事だが、「取得しやすい雰囲気」を醸成する努力が今、企業に求められているのかもしれない。

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。