いま世界的に「食のサステナビリティ」が注目されている。ではサステナブルな食とは何なのか?食品、食材の宅配事業の中で、安心安全な食品やミールキットのサブスク販売を行うオイシックス・ラ・大地株式会社の代表取締役社長高島宏平氏に聞いた。

オイシックス・ラ・大地の高島宏平社長
オイシックス・ラ・大地の高島宏平社長
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アメリカのシン・食ビジネスの最前線は

――先日訪米した際に西海岸の食品展示会「Natural Product Expo West」や「SXSW(South by Southwest)」で、アメリカの“食の最前線”を体験したと聞きました。

高島氏:食の展示会は日本にもあるのですが、新しい食べ物へのお金のかけかたが全然違うのに驚きました。日本人は『日本は食文化が優れている』と思っていますが、アメリカでは『新しい食ビジネスを作ってやろう』という迫力を感じましたね。

アメリカの食の展示会には「新しい食ビジネスへの迫力を感じた」(高島氏)
アメリカの食の展示会には「新しい食ビジネスへの迫力を感じた」(高島氏)

――「新しい食ビジネス」とは具体的にどんなものですか?

高島氏:プラントベースが非常に多いのですが、とにかくコンセプトを作るのが上手ですね。コンセプトを作ってプロダクトを作る。例えばノンアルコールというテーマで、ノンアルコールバーとかノンアルコールカクテルといったプロダクトが増えている。他にも発酵食品が大きなテーマになっていて、健康と環境を考えながらカテゴリーのコンセプトを作り、ブランドを作っていますね。

きのこの菌種からつくられたプラントミート
きのこの菌種からつくられたプラントミート

――なぜアメリカでは「新しい食ビジネス」が発展しているのでしょうか?

高島氏:東西の沿岸部などテック系の人たちが多い地域では、味覚で食べるというより“左脳で食べている”感じがします。かつてアメリカで肥満が問題視された際に、コーラを止めるのではなくダイエットコーラをつくりましたね。アメリカでは課題に対して左脳で解決をするのが基本動作としてあって、右脳、つまり味覚など感性的なことを重視する日本とは違いますね。

またカリフォルニアでは、飲料はビンと缶ばかりで、ペットボトルは日本のお茶しか見ませんでした。ペットボトルが環境に悪いと決めたら徹底的に排除するという感じでしたね。

カリフォルニアでは缶とビンばかりでペットボトルがほとんど見られなかった
カリフォルニアでは缶とビンばかりでペットボトルがほとんど見られなかった

サブスクモデルでフードロスを減らす

――御社は食品、食材の宅配を行っているのですが、輸送は温室効果ガス排出が多いイメージがありますね。

高島氏:宅配と実店舗のどちらの方が温室効果ガスを排出するのか調査したところ、電気をつけ冷蔵庫を使用し続ける実店舗に比べて宅配の弊社が半分程度でした。当社がシンプルな流通経路なのもその理由の1つです。さらに弊社は注文を受けたものを届ける「サブスクリプションモデル」を活用した需要と供給の情報のマッチングにより、フードロスは売り上げの約0.2%。スーパーの5%程度と比べると極めて少ない方だと思います。

――流通の川上になる生産者側とのサステナビリティに対する取り組みはいかがですか。

高島氏:いま世界では食品の生産量の2/3程度しか消費されず、1/3がどこかで捨てられています。まず生産者側でいうと、昨年フードロス削減に特化した「フードレスキューセンター」(※)を作りました。生産者には「不揃いであっても活用できるので、すべて紹介してください」とお願いしています。

(※)神奈川県海老名市。今後3年間で年間1000トンのフードロス削減を目指す

マイタケの茎をバイヤーが見学する
マイタケの茎をバイヤーが見学する

日本では「規格外品なので安いんでしょ」

――捨てられてしまう規格外の野菜や果物をレスキューすると。

高島氏:アップサイクルでは最近、梅酒製造の過程で使用した梅の実をドライフルーツに加工したり、コーヒーの豆カスをあられにしたりしています。企業からの問い合わせも増えていて、意識が変わってきたのを感じます。

――流通の川下にあたる消費者側はいかがですか?

高島氏:アップサイクルについて日本の消費者は、アメリカほどまだ意識が高くないです。たとえばアメリカのアップサイクルの商品は、普通の生産工程ではないため通常より1.3倍ぐらい価格が高いです。それをアメリカの消費者は当たり前と受け止めるのですが、日本では「規格外品なので安いんでしょ」と価格が高くなることに理解が得られにくいです。

オイシックスでは若い世代とサステナブルな食について考える
オイシックスでは若い世代とサステナブルな食について考える

若い世代のサステナビリティへの意識は

――消費者のサステナビリティに対する意識は、まだこれからということですか。

高島氏:一方で去年から都内の中学校の授業で中学生たちと一緒に、環境によって穴が開いて販売できないわかめを使ったふりかけやこんぶの根元を使ったそうめんを開発して、中学生たちがパッケージもデザインして商品化しました。また小学校ともコラボして、小学生たちが学校給食のフードロスを改善するための提案をしました。

中学生が開発した「地球よろこーんぶそうめん」
中学生が開発した「地球よろこーんぶそうめん」

――若い世代はサステナビリティに対する意識が、我々の世代と違いますよね。

高島氏:若い世代は「地球の未来がどうなるか」がまさに死活問題なので、当事者意識がとても高いです。ですから日本の食はこうした子どもたちが変えていくんじゃないかと思いますね。アメリカでもファストフードのお店でプラスチックのスプーンを出すと、子どもたちがとても嫌がるそうです。子どもに言われたら大人は弱いですから、子どもが大人の意識を変えていく感じですね。

若い世代が大人のサステナビリティへの遅れた意識を変えていく
若い世代が大人のサステナビリティへの遅れた意識を変えていく

いま流行っていない未来につながるものを

――我々の世代の意識もどんどん変わっていくでしょうね。

高島氏:僕ら世代が煙草のポイ捨てをしなくなったのに近いと思うんですよ。いまポイ捨てをみたらぎょっとしますよね。たとえば「プラスチック新法」ですが、やってよかったと思います。明らかに「プラスチックをできるだけ減らそう」という意識に変わりましたから。弊社でも製品のパッケージはプラスチック使用量を50%くらい減らしました。

――では最後に学生時代に起業した高島さんから、これから社会に出る若い世代に対してアドバイスを一言ください。

高島氏:たぶん今流行っているものは将来流行らなくなる。例えば大学生に人気企業ナンバーワンといっても、自分がその企業で偉くなる頃には人気がなくなるわけです。だから今流行っていない未来につながるものの中で、自分が人生を投下できる、情熱を燃やせるものを考える。またはオイシックスに入社する。迷ったらオイシックスです(笑)。

高島氏「いま流行っていない未来につながるものの中で、情熱を燃やせるものを考える」
高島氏「いま流行っていない未来につながるものの中で、情熱を燃やせるものを考える」

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。