今はSNSを企業が活用することも珍しくない。若手社員が運営を任せられ、商品のアピール、フォロワーの獲得を命じられることもあるだろう。

こうした状況に、一石を投じるメッセージがTwitterで見られた。発信したのは、シャープ株式会社(@SHARP_JP)。運営する“中の人”の「ゆるい」ツイートが人気のアカウントだ。

フォロワーは約83万人(シャープの公式アカウントより)
フォロワーは約83万人(シャープの公式アカウントより)
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2023年5月下旬、まとめメディアの記事をリツイートしたのだが、そこには数年前に“中の人”がつぶやいた、このような内容が含まれていた。

今年もまたどこかの会社で「若い」という理由だけで公式SNSをさせられた人へ。もし仕事でどうしようもなく困ったら、この一連のツイートを見せるか、あるいはこのマンガを詰めてくる社内の人に読ませてください。

この漫画では、公式アカウントを運営する中の人たちの座談会が描かれ、“SNSは売るための道具ではない”“企業はSNSをやることをマーケティングと勘違いしている”といったことも述べられている。

そして、改めてリツイートした理由についてもコメント。

なんか社内で立て続けにSNSアカウント開設の相談を受け、「ああ、そういう季節だな」と思ったので過去ツイートをRTしておきます。

シャープの公式アカウントより
シャープの公式アカウントより

SNSの運営を任せられる若手社員にエールをおくりつつ、周囲の人たちへのメッセージとなっている内容だが、若いというだけで「SNSに精通してそうだから」と担当にされ、成果を求められるケースもあるだろう。
今回の行動にはどんな真意があったのか。シャープの中の人に聞いた。

新年度は「SNSをやらねば」となってしまう

――「公式SNSをさせられた人へ」のメッセージを改めて伝えたのはどうして?

社内で公式SNS開設の相談を立て続けに受けるうちに、ふと、過去にも似たことがあったなと感じ、3年前のツイートを思い出した次第です。奇しくも同じ5月下旬のことでした。新年度がはじまり、新人も入り、何か新しい企画をという風にして、各所でSNSをやらねばの気運が発生しているんだろうなと予想しています。
 

――若手というだけでSNS担当になることはある?仕事はどんなことをするの?

あると思います。企業によってさまざまかと思いますが、少なくとも自社の製品やサービス、あるいは企業の活動を世の中に発信するという、広告や広報に該当する仕事を行うはずです。

コミュニケーションや信頼を積み上げる、タイムスパンが理解されにくいという(画像はイメージ)
コミュニケーションや信頼を積み上げる、タイムスパンが理解されにくいという(画像はイメージ)

――若手がSNSを任されると、苦労はあるの?

言いたいことを言えば伝わる、聞いてもらえると、楽観的に考える人が企業には多くいます。だれも企業の言うことなんか聞く義理がないSNSですから、わが社の発信をだれも見ない、フォローしないという事態は必ず起こります。そこからコツコツとコミュニケーションや信頼を積み上げるのが必須なのですが、そのタイムスパンを理解できない人はいまだに多く、そしてそういう人は「若くない」立場にあります。

若い社員ひとりに押し付けるにはあまりに重い責務

――SNS担当となった場合はどうすればいい?

企業で異なりますので一概に言えるものではありません。自分たちが何をしたいかを決めるべきです。ただ、担当者を守る、サポートするという意味で、活用は「所属する場所や組織の意志であるべき」だと考えます。

会社の看板を背負ったままSNSの担当者は、世間やお客さんと1対1で向き合います。それが従来なかった企業コミュニケーションの醍醐味であり、スピード感であるのですが、反対から見ると、社員ひとり、とりわけ若い社員ひとりに押し付けるにはあまりに重い責務でもあります。

若い社員ひとりに責務を押し付けていないか(画像はイメージ)
若い社員ひとりに責務を押し付けていないか(画像はイメージ)

――商品宣伝をしなければ、フォロワーを増やさなければと考える人もいるかもしれない。

宣伝の規模や効率を求めるなら、SNS以外にずっと適した手段が世の中にはたくさんあります。広告やマーケティングという名のつく世界は、そういう手段を開発し、培ってきたとも言えます。おそらくSNSは瞬間的には規模や効率を達成することはあっても、継続することはほぼ不可能だと思います。

企業は短期的な結果を求めないでほしい

――企業のSNSの扱いについて伝えたいことは?

短期的な視野で結果を求めないこと。広告やマーケティングの目線による、数字だけの評価をしないこと。公式SNSの活動を、広告や広報という範囲でとらえるのではなく、社会との関係作りとしてとらえることです。
 

――シャープの中の人として心がけていることは?

だれも見ない、聞いてくれないという前提から、何ができるかを考えることです。「こいつの言っていることは聞いてやろう」と思ってもらえるような、信用を築くことを心がけています。
 

――SNS担当となった若手社員にメッセージを。

がんばってください。そして、がんばりすぎないでください。

SNSの運営は、若手社員にとっては負担が大きな業務でもあるという。企業側からすると、バズることを期待してしまうかもしれないが、長い目で重圧をかけずに見守ってほしい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。