4年前、難病「ALS」の患者に、本人から依頼を受け、薬物を投与し殺害した罪などに問われている元医師の男。これまで犯行の認否すら明らかになっていないが、5月29日に裁判が開かれた。男は何を語ったのか。

ALS患者から依頼を受けて殺害した「嘱託殺人」の罪を問う注目の裁判開かれる

記者リポート:
京都地裁では、注目の裁判の傍聴券を求め、長蛇の列ができています

29日、京都地裁で開かれた注目の裁判。法廷に立ったのは、被害者から依頼を受けて殺害する、「嘱託殺人」の罪で起訴された、元医師の山本直樹被告(45)。

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事件が起きたのは4年前。山本被告は、医師の大久保愉一被告(45)と共謀し、林優里さん(当時51)から依頼を受け薬物を投与し、林さんを殺害した罪に問われている。

自らの殺害を依頼したとされる被害者の林さんは、「ALS=筋萎縮性側索硬化症」を患っていた。ALSは全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病で、いまだに根本的な治療方法は見つかっていない。

病状が悪化していく中、林さんは自身のSNSに、こんな投稿をしていた。

林さんのSNS:
医師は「気持ちは分かる」と言うけれど、現状を理解していると思わない。常に身体的苦痛・不快を抱え、手間のかかる面倒くさいもの扱いされ、「してあげる」「してもらってる」から感謝しなさい。屈辱的で惨めな毎日がずっと続く。ひとときも耐えられない。安楽死させてください

こうした投稿が、林さんと面識がなかった2人の被告を結びつけることになった。山本被告と共謀したとされる大久保被告は、「安楽死」を肯定するような投稿を繰り返すSNSアカウントを持っていて、林さんとやり取りをしていた。

大久保被告のSNS:
確かに作業はシンプルです。訴追されないならお手伝いしたいのですが

林さんのSNS:
「お手伝いしたいのですが」という言葉がうれしくて泣けてきました

捜査関係者によると、事件直前には林さんから山本被告の口座に現金130万円が振り込まれている。そして山本被告と大久保被告は、京都市内の林さんの自宅マンションに行き、胃ろうから薬物を投与し、殺害したとみられている。

ただ、犯行の詳しい経緯は一切明らかになっておらず、29日の裁判では、動機や犯行の経緯について、山本被告が何を語るかが注目されていた。

「正義感をふりかざすことは理解できない。“頼まれたからした”だったらほんまに腹が立つ」

事件の真相を知るために、傍聴に訪れた林さんのヘルパーだった女性が、裁判を前に関西テレビの取材に応じた。

林さんのヘルパー:
周りに支えられていたし、お友達もたくさんいて。優里さんの誕生日の時は、友達みんなお祝いでお花贈ってくれたりとか、本人はベッド周りに置いてくれと、見えるようにしてほしい言って、すごくかわいらしい一面を持っていた

山本被告への思いを聞くと…

林さんのヘルパー:
死を選ぶ人たちに、正義感をふりかざすみたいな、それが理解できない。「頼まれたからした」だったら、ほんまに腹が立つ。どういうふうな思いでそういうことをしたのか。あった出来事を全部聞きたいなと

29日午後2時すぎから始まった裁判。山本被告は冒頭、「私が林さんの自宅に大久保さんといたことは間違いありませんが、共謀していませんし、実行もしていません」と起訴内容を否認。弁護側は「仮に何らかの形で犯罪が成立したとしても、ほう助にとどまる」と述べた。

一方、検察側は、「山本被告は、安楽死に多大な関心がある大久保被告が作成した“殺人マニュアル”の電子データをもらうなど、大久保被告の関心を認識していた」と指的。

その上で、「山本被告は犯行当日、大久保被告と林さんの自宅に入り、ヘルパーが自宅に入ってこようとしても、メモを預かり、ドアの前に立ちはだかった」と指摘した。

裁判を傍聴した林さんのヘルパーだった女性は…

林さんのヘルパー:
安楽死をすることに対して、何も知らなかったわけではないと思うから、全力でやめさせてほしかったというのはある。反省の色がないのかなと感じた

また林さんの父親も取材に応じ、胸の内を語った。

林さんの父親:
(山本被告は)あんなことするような人間には見えなかった。大久保が陰で糸引いたのかなと感じた

次回の裁判は6月8日に開かれる予定となっている。今後の裁判で事件の真相はどこまで明らかになるのか。

山本被告の裁判 争点は「殺人計画を分かっていたのか」

京都地裁前から、裁判を傍聴した関西テレビ・犬伏記者がリポート。

記者リポート:
29日午後2時に始まった裁判は、1時間あまりで終了しました。傍聴券を求め200人以上が並び、傍聴席にはALS患者も駆け付け、注目度の高さがうかがえました。その中で、山本被告はまっすぐ前を見つめ、淡々と受け答えをしていました

Q.被告の2人は、どんな関係・役割分担だったのか?

記者リポート:
まず山本被告と大久保被告は共謀して、山本被告の父・靖さんを殺害した罪で起訴されていて、山本被告は今年2月に懲役13年の判決を受けています。その裁判で明らかになったのが、2人の“秘密を共有しなければならないいびつな関係”でした。というのも、山本被告は、実は医大を中退していて、医師国家試験を受ける資格がないにもかかわらず、当時厚労省で働いていた大久保被告の知恵を借りて、不正に医師免許を取得していました。山本被告は弱みを握られているような状況にあり、この関係性が役割分担などに影響を与えていると考えられます

Q.罪を否認した山本被告だが、今後の裁判の争点はどんなところになってくるのか?

記者リポート:
争点は“共謀が認められるかどうか”です。検察は、殺害のやり取りをツイッター上でしたのも、胃ろうから薬物を注入したのも大久保被告であると主張しました。一方で、ヘルパーが殺害現場に入ってこないように、山本被告が監視役を担っていたと主張しました。殺人計画を分かっていて監視役をしたのか、何も知らずに大久保被告に言われるがままに行動したのか、今後の争点となります。また殺人計画を主導していたのが大久保被告だと見られていますが、大久保被告の裁判の日程はまだ決まっていません

日本ALS協会会長は「“支援に頼ることは悪いことではない”と皆さんが思えば、息苦しさを感じている人も救われる」とコメント

自らALS の当事者として発信を続けている日本ALS協会の恩田会長は、事件を通じて感じたことを、次のように話している。

日本ALS協会 恩田聖敬会長:
SOSを出せない人が、病気の有無にかかわらず、社会に生きづらさを感じています。「支援に頼ることは悪いことではない」と皆さんが思えば、息苦しさを感じている人も救われる気がします

社会のさまざまな問題がこの事件の背景にあると考えられる。今後の裁判で事件の真相が明らかになることが待たれる。

(関西テレビ「newsランナー」2023年5月29日放送)

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