2024年のアメリカ大統領選挙に向け、最後の大物とも呼ぶべきフロリダ州のデサンティス知事(共和党)が5月24日、出馬を正式表明した。
動画の投稿など従来の方法に加えて、ツイッターのイーロン・マスク氏とツイッターのリアルタイム配信機能「スペース」で行われるという異例の形だった。その配信はアクセス数が一時50万人を超え、回線がパンクして中断されるハプニングも起きた。

80歳のバイデン大統領、76歳のトランプ前大統領に比べ、デサンティス氏は1978年生まれの44歳と年齢も圧倒的に若い。保守強硬派としても知られ、知事として銃を持つ権利の拡大、人工妊娠中絶規制の強化、教室でセクシュアリティや性自認について議論することを禁じるなど、全米から注目集める政策を行ってきた。
ただ、「保守界の寵児」と絶賛する声もある一方で、彼が署名した「妊娠6週以降の中絶禁止」の州法には保守穏健派からも否定的な声も挙がるほか、ディズニーと長期に渡る対立を繰り広げるなど不安要素もある。世論調査では共和党内で、一時はトランプ氏を上回る支持を集めたものの、現在はトランプ氏に大きく差をつけられ、2位が定位置となっている。現時点では共和党の指名争いはトランプ氏が優勢との見方も強いが、デサンティス氏が候補者指名を勝ち取る可能性はあるのか?世論調査や彼を取り巻く環境などから考察する。

中流家庭出身から保守界の寵児に
デサンティス氏は、1978年にフロリダ州で中流階級の家庭に生まれたイタリア系アメリカ人だ。名門イェール大学で野球部の主将として活躍後、ハーバード大学ロースクールに進学。米海軍で弁護士として勤務した際にはイラクへの赴任も経験した。2012年に下院議員、2018年からフロリダ州知事を務めている。

妻のケイシー氏はテレビ番組の元司会者でもあり、選挙中はケイシー氏の視点で語られるデサンティス氏の動画などでアピールもする。

2018年の知事選時は、トランプ氏との連携を全面に打ち出し、当時計画が進められていた、メキシコとの国境の壁にちなみ、娘と一緒におもちゃのブロックで壁を作る姿を描いた動画なども公開するなど、トランプ氏を絶賛していた。
転機が訪れたのは新型コロナウイルスへの対応で、バイデン政権と猛烈に対立したことで名を上げたことだ。マスク着用の義務化、自宅での待機命令、ワクチン接種の義務化などの制限に反対し、経済活動の迅速な再開を主導したことで、保守派を中心に瞬く間に人気者へとなっていった。
強硬保守的な主張の一方で、政治経験の豊富さとトランプ氏ほど中間層から反発を受けていないこともあり、「賢いトランプ」などとメディアからも呼ばれている。2020年の知事選で再選を果たし、共和党内で大統領候補として名前が挙がりはじめると、かつてはじっこんだったトランプ氏からは執拗に攻撃を受けるなど、目下最大のライバルと見られる状況だ。

ディズニーと対立、保守的政策で賛否二分
デサンティス氏は、一時はトランプ氏をしのぐほどの人気を共和党内で集め、「次の大統領候補」として支持率が1位になることも珍しくなかった。また、銃規制の緩和や教室でセクシュアリティや性自認について議論することを禁じる「教育における親の権利法」も法制化。アメリカのリベラル派に徹底的に対抗したことは「文化戦争」とも称されている。批判の声も強い一方で、保守派から見て「行き過ぎた多様性」などへの対抗姿勢は、根強い支持を得ていた。

ただ、雲行きが怪しくなったのは、前述した学校での「性的指向や性同一性」について議論したり授業で指導したりすることを禁止することに端を発したディズニーとの対立や、「妊娠6週以降の中絶禁止」の州法は、世論との乖離が激しく保守穏健派からも疑問の声が挙がり始めたからだ。
また、ロシアによるウクライナ侵攻は「領土紛争」でありアメリカの「重大な国益」ではないと発言したことなどは、身内の共和党内からも批判を浴びた。こうした結果、直近の世論調査の支持率を「リアル・クリア・ポリティクス」がまとめた結果、トランプ氏が平均56.3%の一方で、デサンティス氏は19.4%と大きく水をあけられてしまった。

デサンティスの勝利の可能性は?
支持率でトランプ氏との差が大きくなってしまった、デサンティス氏だが今後、トランプ氏に勝利し、バイデン大統領への対抗馬として共和党の指名レースを勝ち残れるのか。アメリカメディアや専門家の分析なども元に、注目すべきポイントを考察してみたい。

1つ目に、共和党内の幅広い支持を得ることが出来るかである。トランプ氏の熱烈な支持者は、「MAGA(マガ)」と呼ばれる、「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」の頭文字からとった政治運動を基盤としていて、共和党支持者の3割程度を占めるとの分析もある。一方で、共和党内にはビジネスを最優先する穏健派や、「ティーパーティー(茶会運動)」にルーツを持つ保守派なども存在し、デサンティス氏がトランプ氏を上回り、幅広い支持を得られるかが重要だ。
特に、トランプ氏に比べて、郊外に住む女性からの支持が高い点は有利に働く可能性もあるほか、2020年に大統領選挙に敗れて以降は政治的な実績が積めていないトランプ氏に対して、州知事としての実績をどう差別化し、浸透を図れるかもカギになる。ポイントは「共和党全体の支持」を得られるかだ。
また取材の経験上、トランプ氏を支持するMAGAはデサンティス氏に対して好印象を持っていることが多い。この点も幅広い支持に浸透を図りつつ、トランプ氏の支持層にどう食い込めるかでも情勢に変化は見えそうだ。

2つ目に、中間層の支持拡大と「バイデンvsトランプ」への飽きだ。2022年の中間選挙でも明らかになったが、トランプ氏は保守層に根強い支持層を持つ一方で、中間層と呼ばれる無党派層には逆に根強い反発ももたれている。これが大統領選挙など、全米を挙げての選挙では大きな足かせになる可能性がある。共和党内の指名争いとは言え、最終目的はバイデン大統領を倒して大統領の座を勝ち取ることにあり、「勝てる候補」としてデサンティス氏がどう支持を全体に広げられるのかがポイントだ。

また、バイデン大統領とトランプ前大統領の対決は、2020年と同様の構図となり国民に「飽き」も広がっているほか、80歳と76歳の対決という点でも、44歳のデサンティス氏が新星として、世代交代を狙う意味でも選挙戦の戦い方が注目される。バイデン氏、トランプ氏がともに大統領になったとしても残される任期は1期(4年間)で、「就任早々にレームダックになる」との声もあり、デサンティス氏が勝利すれば、2期8年を狙える点も大きい。

3つ目は、アメリカメディアも注目しているが、予備選が早く行われる州でデサンティス氏が勝利できるのかどうだか。スタートダッシュで勝利を掴むことで、トランプ氏の支持が不安定であるのか、岩盤なのかを露呈させ、過去の大統領候補者のように予備選挙を優位に進めていくことができるからだ。
トランプ氏の“自滅”を待つ方法も?
4つ目に挙げられるのが、「トランプ氏と直接組み合わないこと」だ。専門家やアメリカメディアからも指摘されるが、知事選挙などでトランプ氏がこれまで支援したデサンティス氏が、大統領選挙に出馬することを「裏切り」とみる共和党支持者もいる。この層の反発を最小限に収めるため、「トランプ氏を攻撃せず」に「トランプ氏のような政治メッセージを出す」ことが重要になるとの見方だ。様々な問題で裁判を抱えるトランプ氏はアキレス腱が多いだけに、成功すればデサンティス氏の方がよりふさわしい候補として見られる可能性があるということだ。

そして、最後の5つ目が「トランプ氏の自滅」だ。多くの裁判を抱えるトランプ氏が、最終的に選挙戦では戦えなくなってくるとの見方で、かなり他力本願ではあるものの、すでに立候補を表明している共和党の候補者からもそのような期待が漏れているという。
特に現在、不動とも言える2位の位置にいるデサンティス氏に比べて、他の候補は支持率が1桁台に止まっている。仮にトランプ氏が失速すれば、デサンティス氏が1強とも言える状況に躍り出る可能性がある。ただ、この場合、逆に裁判などによって、トランプ氏の支持率基板が強固になり、支持が拡大する可能性も指摘されている。

トランプ氏の最大のライバルと言われる、デサンティス氏の出馬により共和党の指名争いが今後どのような推移をたどっていくのか。候補者達の行動により、世論に今後どのような変化が生まれ、誰が指名争いを制することになるのか。そしてその先にある、大統領選挙は一体どんな構図となっていくのか、注目が集まっている。
(FNNワシントン支局 中西孝介)