「いい子にしないと注射してもらうよ!」

親が子どもにこんな声かけする場面を見たことはあるだろうか。これ、実はしてはいけないという。

小児科からお願いがあります
「いい子にしないと注射してもらうよ」
 とお子さんに言わないでください
血液検査や予防接種をするときに余計に怖くなってしまいます
注射は罰ではないので、
「いい子にしないと注射してもらうよ」
と言わないでください

Twitterでお願いをしたのは、新潟大学医学部小児科学教室のアカウント(@Niigata_u_ped)。
しつけのために、怖いイメージのある注射を持ち出してしまう親もいるかもしれないが、冗談半分であっても、子どもが注射を“罰”と捉えるため、恐怖心を感じやすくなり、似た処置や医療機関を嫌がるようになる可能性もあるというのだ。

(画像はイメージ)
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病院を嫌がる理由はそうした“刷り込み”が影響しているのだろうか。そして、病院や注射は怖いものと思っている子どもも多いと思うが、そう思わせないためにはどうすればいいのだろうか。

新潟大学所属で「チャイルド・ライフ・スペシャリスト」(医療環境にある子どもや家族を支援する専門職。略称:CLS)の田村まどかさんに聞いた。

子ども自身が「僕は、私はいい子じゃないのかな」と感じてしまう

――「いい子にしないと注射してもらうよ」と言わないでほしいとお願いしたのはなぜ?

毎年3月がCLSの活動を知ってもらう月間であることから、CLSの周知につなげようと活動を投稿していて、追加情報として今回のお願いも投稿しました。大人には日頃の何気ない言葉が、病院やそこでの体験へのイメージを作り出してしまうことを念頭に置いて、子どもと接してほしいと願います。


――注射を怖がる子どもたちに、親から今回の投稿のような言葉はかけられている?

現場で注射を怖がる子どもやその親に「いい子にしないと~」と言った、言われたことがあるかどうかを聞いたことがないので、正確にはわかりません。他の理由(針が苦手、何度も注射や点滴などをされた経験がある、親と離れ離れになることが嫌など)であることも多いと思います。

ただ、子どもたちは“いい子”にしていても、予防接種や病気の治療などで、注射などの痛みを伴う処置を経験しなければならないことがあります。

子ども自身の誤解につながってしまう(画像はイメージ)
子ども自身の誤解につながってしまう(画像はイメージ)

その際に親から「いい子にしないと~」と声掛けをされたり、注射が必要な理由を知らされないまま処置に臨む場合、その子は「いい子にしているのにどうして?」「僕は、私はいい子じゃないのかな?」と感じる誤解につながります。それ以降に同様の経験をした際の捉え方でしたり、自己肯定感にも影響を及ぼすものになると思います。


――親はなぜ注射を“脅し文句”にしてしまう?

みなさん、注射と聞いて想像するのは、長い針や注射時の痛みだと思います。恐怖心をもたらすと知っているからこそ“いい子になってほしい”という希望で言ってしまうのだと思います。また、親御さんご自身の記憶・経験の影響もあるでしょう。

子どもの恐怖心は和らげることができる

では、こうした言葉をかけていなくても、病院や注射を怖がる子どもに親はどう接したらいいのか。

田村さんが勧めているのが“プリパレーション”という行為。これは「病院での処置や検査、手術のことを、事前に子どもが受け止めやすい言葉や方法で内容を伝え、子どもの役割や過ごし方を一緒に考えること」で、恐怖心を和らげる効果があるという。

好きなおもちゃの準備などもプリパレーションにあたる(画像はイメージ)
好きなおもちゃの準備などもプリパレーションにあたる(画像はイメージ)

例えば、病院に行く目的や日時、処置の内容を分かりやすく伝えたり、病院に持っていく、子どもが安心できるアイテム(好きなおもちゃ、絵本など)を一緒に準備することなどが、プリパレーションにあたるとのことだ。

プリパレーションの概要(提供:田村さん)
プリパレーションの概要(提供:田村さん)

子どもの理解度などは発達段階で変わることもあるが、プリパレーションのタイミングは、子どもが0~2歳半なら直前もしくは前日、2歳半~5歳なら5日~7日前、6歳~11歳なら遅くても7日前、12歳以上はいつでもが目安だという。

さまざまな状況で役立ちそうだが、注射が想定される場合はどう伝えればいいのだろう。

優しい表現で処置の目的に意識を向けてもらう

こちらも田村さんにポイントを伺った。

――プリパレーションを行う上での注意点は?

言葉の選び方ですね。注射の針を「刺す」という言葉はとても強く子どもの印象に残ります。これを「刺す」ではなく「入れる」に変えるだけで、同じ動作ですが印象が違うと思います。優しい表現のほうがいいでしょう。また、処置の目的に意識を向いてもらったほうがいいですね。例えば、手術でお腹を切らなければならない場合は「お腹のばい菌さんをとってもらう」などでしょうか。

子どもが抱く恐怖心の種類(提供:田村さん)
子どもが抱く恐怖心の種類(提供:田村さん)

――病院で注射が想定される場合はどうすべき?

子どもが小さい頃(2歳後半くらいから)はお医者さんごっこをしながらお伝えしたり、一緒に頑張るための“応援団”として、お気に入りのぬいぐるみなどを選ぶことを提案すると良いでしょう。大きくなってから(小学生くらいから)なら、好きな物を食べる、DVDを見るといった“ご褒美”を用意するのもいいです。過去に似た処置を経験したことがあるなら、当時の振り返りをするのもいいでしょう。受診の流れが分からない場合は、病院に行くことを伝えるだけでも十分だと思います。

「泣いてもいいよ」と伝えることも必要

――注射や診察を終えた子どもへの接し方は?

注射や診察の直後は興奮状態で、気持ちを言葉にすることが難しいことがあります。様子を伺いながら少し時間をおいて、褒めてあげたりしてください。痛みに焦点を当てるのではなく、「どうだった?」などと、体験したこと全体を振り返るような声掛けが大切だと思います。


――泣いた場合のフォローはどうすればいい?

泣くことは感情表現で、ストレスへの対処方法の1つです。泣いていても「動かないで、じっとできてたね」と褒めてあげると良いと思います。泣くことを我慢している子もいるので、(処置した後)振り返ったときに「泣いてもいいよ」と伝えることも必要かもしれません。

日常を感じられるものがあると、恐怖心を和らげるクッションになる(画像はイメージ)
日常を感じられるものがあると、恐怖心を和らげるクッションになる(画像はイメージ)

――病院への恐怖心と向き合うポイントを教えて。

病院という環境やそこでの経験は、日常とはかけ離れたものです。そんな非日常で日常を感じられるような事柄やもの(お家で事前に準備してきたという体験や準備)があると、恐怖心を和らげる“クッション”となり、安心につながる材料になります。

お家に帰ったらどうするか?などを一緒に考えてもいい

――病院が苦手な子どもにプリパレーションを行うためのポイントは?

病院に行くと伝えると「何しに?」と聞く子もいるでしょう。その時には、明らかな症状(熱など)があるなら治すために診てもらうことを伝えること。以前に受診したことがあるなら、当時の頑張りをねぎらってあげてください。お家に帰ってきたらどうするか?などの見通しも一緒に立てられると良いですね。

病院が嫌な気持ちも受け止めてあげよう(画像はイメージ)
病院が嫌な気持ちも受け止めてあげよう(画像はイメージ)

病院が嫌だ!という反応があった場合は、何が嫌なのかを聞いて、気持ちを受け止めてください。その上で一緒に乗り越えるにはどうしたらよいか、考える時間が持てるといいでしょう。


――病院と子どもに関連して、親に伝えたいことは?

病院において、子どものことを一番よく知っているのはその子の親でありご家族です。そんな親御さんからの情報は、その子の安心につながる対処方法を考えるためにとても大切なものになります。(病院側にも)教えていただきたいですし、一緒に考えて“みんなで一緒にできたね”と達成感を共有できたらと思います。

親の何気ない一言で、子どもの恐怖心が増したり、自己肯定感を傷つけてしまうようだ。病院や注射が苦手という家庭は、子どもがどうすれば怖くないと思えるのか、プリパレーションを意識して備えるといいかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。