ゴールデンウイークが始まり、神社仏閣めぐりをする人もいるだろう。いつもキャッシュレス払いで小銭を持たない人は、お賽銭がなくて困った経験があるのではないだろうか?
そんな人でも名古屋市の亀岳林「万松寺」なら問題なさそうだ。1540年に織田信長の父・信秀が建立したという歴史あるお寺なのだが、お賽銭に使えるコインのキャッシュレス自販機が設置されており、これを紹介した投稿がTwitterでも話題になっている。
自販機は現金が使えないキャッシュレス専用で、コインは万松寺の本尊である十一面観世音菩薩が描かれたオリジナルデザインの「Banshoji Coin」。
1枚500円で、賽銭箱に入れるのはもちろん、お守りなどを授かるときの通貨としても使え、記念品として持ち帰ることもできる。
自販機には、コイン1枚に加え、2枚入り、4枚入り、6枚入りのパッケージがあり、他に絵馬や交通安全ステッカーも並んでいる。
なお万松寺は昨年、QRコード決済によるキャッシュレス賽銭を導入しており、これに加えて3月10日から新たに独自コインの自販機を設置した。
このような新しい形の賽銭にTwitterでは様々な声が上がり、一部の人からは賽銭泥棒の対策にもなるという意見もあった。
そもそも万松寺はなぜキャッシュレスの導入に熱心なのか?はじめから賽銭泥棒対策にもなることを考えていたのか? 万松寺の広報担当者に聞いてみた。
支柱を引っこ抜いて賽銭箱を盗まれたことも…
――なぜ寺に自販機を導入することになった?
キャッシュレス化が進み、現金を持ち歩くことが少なくなった今、お賽銭を投げ入れて手を合わせるという仏教文化を伝承するために住職が考案し導入いたしました。
最近は余程の観光寺でない限り、コロナ禍や宗教離れで参拝者や檀家が減り、廃寺を考えているお寺もあると聞いています。そうした背景には、「お寺が伝統を守る=慣習を変えない」ことも原因のひとつではないかと思います。ですから住職は受け継がれてきた古き良き文化にあぐらをかくことなく根本をまもり、時代に合わせて変えられるところは変えていくことが大切だと考えています。キャッシュレス化への対応はそうしたことのひとつとして行いました。
――デジタル賽銭もあるのになぜ自販機を導入した?使い分けている?
「デジタル賽銭」も「BanshojiCoin」も世界中でキャッシュレス化が進む中で、「手を合わせる」という仏教文化に、国内外問わずより多くの方に触れていただくために導入しました。
BanshojiCoinのキャッシュレス自販機導入は5・6年前から構想を練っておりましたが、折しもコロナ禍に見舞われ、小銭などモノを介さない風潮がありましたので、先ず始めにスマホ決済アプリでの「デジタル賽銭」を導入しました。
しかし「お賽銭」という、祈祷されていない自分の持ち物に「気」を入れてご志納し、仏様の前で自ら願い事を伝えるという昔ながらの伝統についてご参拝される方が「小銭がなくてもお賽銭を入れる」ことをご選択いただけるように、コロナ禍が落ち着いてきたこの時期に、キャッシュレス決済のBanshojiCoin自販機を導入しました。
――賽銭泥棒の対策になることも考慮した?
はい。それがメインではありませんが、いままでも年に1度ほど、地面に埋まる支柱を引き抜いてまで賽銭箱を持ち去るといった事案が生じておりましたので、少しでも対策になればと思っています。皆様が思いを込めてご志納されたお賽銭が残念な形とならないよう今後も引き続き留意してまいります。
外国人観光客「仏教文化に触れられてよかった」
――500円というコインの額はどう決めた?
お賽銭としての金額としては高額だと思われる方もいらっしゃると思いますが、インバウンド観光客の方々のお土産としての需要を想定して、500円としました。
――賽銭箱に入れられたコインはどうなるの?
再利用はせず一時的に寺内で保管しております。願いと共にご志納いただいたコインですので、今後どの様にさせていただくのが良いのかについては十分に議論と検討を重ねていきたいと思います。
ご志納いただいたものをそのまま再利用していない理由は、お賽銭の場合はその方の願いを込めてご志納いただいておりますのでそのままの再利用ということには抵抗があります。また、お賽銭としてだけではなく記念品やお土産としてお持ち帰りいただくこともあるため、常に新しいものをお渡ししております。
――自販機を設置した後の反応は?
テレビやニュースサイト、Twitterを見てお求めになる方が多くいらっしゃいます。当寺の僧侶が描いた仏画の原案をもとにデザイン部が制作した、十一面観世音菩薩(万松寺の御本尊)のデザインについて、「美しい」「ご利益がありそう」などのお声をいただいております。
また、外国人の方からは、「高いとは思わない」「面白い体験ができた」「仏教文化に触れられて良かった」などのお声をいただきました。
今のままでやっていたら将来お寺は無くなる
――これからは他の神社仏閣でも同じような販売機を導入すると思う?
それは各神社仏閣の宮司の方や住職の方の考え方によると思います。現に他の神社仏閣でもキャッシュレス化を始められているところがあるとも聞いておりますので。
なお、当寺の住職はお寺を今のままでやっていたら将来お寺は無くなると考えています。ですから、受け継がれてきた古き良き文化を国内外問わず多くの方に伝えるためには、今回のようにキャッシュレス化など時代に合わせて変化をすることが必要だと考えています。
もちろんご批判をいただくであろうことは重々覚悟のうえで、これからのお寺に求められていることは何かを考え、確実なものを一つ一つ起案し、実施していきたいと思っております。
お賽銭コインの500円という価格設定はインバウンド需要を想定したもので、賽銭泥棒対策も兼ねたものだった。キャッシュレス時代は、お寺のあり方の変化も求められているのかもしれない。