入学シーズンで新調した人も多い学生服の問題。入学式が迫る中、学生服が希望通りの納期に届かない事態が相次いだ。背景にはいったい何が？
リボンでもネクタイでも 多様化する制服
2023年4月7日、福岡県内の公立高校で入学式が行われ、このうち筑紫野市の筑紫高校では男女400人の新入生が出席した。
吹奏楽の演奏とともに始まった入学式。新入生が、真新しい制服に身を包み、体育館に入場する。式では、コロナ禍で中止されていた在校生による伝統の校歌合唱も4年ぶりに披露された。
男子：
新しい環境でちゃんと頑張れるか不安ですけど、3年間頑張りたいと思います
女子：
中学校よりも、制服がかわいい。だから高校生になったなって実感しました。リボンが大きくなったとこがお気に入りです
高校生活のスタートを実感したという真新しい制服。よく見ると、リボンを付けている生徒もいれば、ネクタイをしている生徒もいる。
実はこの学校、2023年度から女子の制服をリニューアルしたのだ。
筑紫高校・高橋洋一教頭：
業者に何点か仕立てを頼んで、作ってもらったものから良いのをいくつか出してもらって、実際にその三つを生徒に着させて、その中から1番人気だったものが、今の制服になりました。着るのは生徒ですので、生徒のことを考えてそのようにしております
在校生の投票により決まったという新しい制服。リボンかネクタイかを選べるほか、パンツスタイルも選択できるようになっている。
独自性の重視や性的少数者、LGBTへの配慮などを背景に、学生服は近年、全国的に多様化している。2023年度、全国の中学、高校で制服をモデルチェンジしたのは748校。2年前よりも3倍以上増えている。
多様化が生産の負担にも
こうした中、福岡県内の学生服専門店ではある問題が発生していた。
筑紫高校の制服のほか、福岡市内の中学65校の制服の販売を行っている学生服専門店で話を聞いた。
学生服専門店もりしま・森島弘社長：
今までは、男子の学生服は、詰め襟、女子はセーラー服だったのが、自治体単位の制服がどんどん出来上がって、要は制服が、こと細かになったものですから、工場も生産が大変だったんだろうと思います。やっぱり制服のお渡し日にお渡しできなくてご迷惑かけることがありました
例えば、この専門店で受注した筑紫高校の制服のうち、スカートは72件、スラックスは3件。制服のバリエーションが増え、サイズも含めて多種多様な要望をもとにメーカーに発注をかけるため、指定日どおりの納品ができないケースが出てきているのだ。
入学式には何とか納品を間に合わせることができたが、こうした状況は、今後も続くのではないかと危惧されている。
学生服専門店もりしま・森島弘社長：
私の聞いている範囲では2年から3年くらいかかると。制服が新しく多様になってくると、その分、時間はかかるんじゃないかと思われます
これまで多くの学校で導入されていたいわゆる「学ラン」は、基本的な形や色はほぼ同じなので、仮にA中学で学ランの在庫がなくなってもB中学のボタンや校章を換えるだけでA中学の制服として使えた。ところが各学校が特色のあるブレザーを作り出したことで、学校間で交換可能な在庫をキープしにくくなったのだ。
世界情勢が生地の入荷に影響
大手学生服メーカー、カンコー学生服で話を聞くと。
カンコー学生服・岡本篤さん：
生地の入荷遅れっていうのが、一番の要因じゃないかなと感じております。ウクライナ・ロシア関係のですね、ポリエステルの材料の高騰、あとはゼロコロナの関係で中国での生産が遅れていたと、いうところ。ちょっと過去にないくらいのレベルで、生地が遅れてきたという認識ですね
学生服の生地は、例年7月に発注すれば11月には届いていたが、2023年は2月にようやく届くこともあったという。制服を作り始めるのが例年よりも4カ月ほど遅れてしまう中、工場のラインを組み替えるなどして、何とか対応してきた。
カンコー学生服・岡本篤さん：
生地遅れがなければ、余裕を持って商品がお渡しできたのかなと思います。一部の生徒さんに本当に迷惑をかけてしまったこともあったかと思います。これからまた夏物がありますので、夏物をしっかりと納品できるように準備していきたいと思います
経営難に陥る業者が増加している
制服業者の経営は厳しさを増している。全国の制服販売業者の休業・廃業の数は、2015年からの7年間で105件。倒産の理由としては、少子化や制服の多様化に加え、入学式までギリギリの合格発表スケジュールがある。期日までの納品が困難で受注をストップせざるを得ず、経営難に陥る業者が年々増えているのだ。
今は全国の学生服がLGBT対応に入れ替わる「過渡期」。数年後には納品遅れが落ち着く可能性もあるが、それまでは業者の方々に何とかストックを増やすというかたちで対応してもらうしかないのかもしれない。
（テレビ西日本）
