アメリカ・ニューヨーク州の大陪審は3月30日、トランプ前大統領が2016年の大統領選中、かつて不倫関係にあったとされるポルノ女優に支払ったとされる「口止め料」が、州法で禁じている一定額以上の寄付にあたる可能性があるとして審理を進めてきたが、歴史上初めて大統領経験者を起訴する判断を下した。起訴の判断は延期に次ぐ延期となり、4月下旬まで審理が行われないとの見方も強まる中での電撃的な起訴となった。一方で、この決断に怒り心頭のトランプ氏は「歴史上最高レベルの政治的迫害と選挙妨害」との声明を発表。共和党議員からは、この事件の捜査を行ってきた検事の責任を今後、追及する声が挙がっているほか、「国家総力戦」として徹底抗戦に入ると宣言する支持者も出てきている。

トランプ氏の支持者と反対派が口論(21日ニューヨーク)
トランプ氏の支持者と反対派が口論(21日ニューヨーク)
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起訴の判断にトランプ氏は怒り心頭
起訴の判断にトランプ氏は怒り心頭

共和党の下院議長は「検事の責任を追及」

トランプ氏の起訴に反対の声を挙げた1人は、マッカーシー下院議長だ。ツイッターに「アルビン・ブラッグは、大統領選挙を妨害しようとして、私たちの国に取り返しのつかない損害を与えた」と投稿し、この捜査を担当する検事を名指しして批判した。「我々の神聖な司法制度を武器化した。アメリカ国民はこの不正を許さず、権力の乱用」だとも強調し、今後、連邦議会でブラッグ検事の責任を追及すると表明した。もはや、立法と司法の全面対決の様相を呈してきた。また、トランプ氏に近い議員からも次々の反発の声が挙がった。

マッカーシー下院議長は「検事を議会で追及する」と表明
マッカーシー下院議長は「検事を議会で追及する」と表明

「アルビン・ブラッグの魔女狩りが政治的な動機による起訴であることは、アメリカ人の大多数が知っている。私はトランプ大統領が常に私たちの味方であったように、トランプ大統領に寄り添い続ける」

熱烈なトランプ支持者として知られる、マット・ゲイツ下院議員は、トランプ氏も度々発言してきた「魔女狩り」というワードを使って検事を批判。また、同じくトランプ氏に近い、グリーン下院議員は「トランプ氏とともに立つ」と述べた上で、この捜査がバイデン大統領と民主党によって画策されたとの自身の考えを強調し、「バイデンを弾劾する」と宣言した。今後、議会も大混乱に陥る可能性もある。

トランプ氏に近い共和党下院議員の2人も検事を猛烈に批判
トランプ氏に近い共和党下院議員の2人も検事を猛烈に批判
グリーン議員は「バイデンを弾劾する」と政権も批判した
グリーン議員は「バイデンを弾劾する」と政権も批判した

ライバルの知事も支援「身柄は渡さない」

“ライバル”のデサンティス知事も支援を表明
“ライバル”のデサンティス知事も支援を表明

一方で、大統領選挙での共和党の有力候補の1人で、トランプ氏の最大のライバルとして注目されている、フロリダ州のデサンティス知事も注目の発言をした。普段は、トランプ氏から激しい攻撃を受けていることもあり、どのような反応をするのか分からなかったからだ。しかし、デサンティス氏もトランプ氏を全面的に支援していく考えを表明した。

「法制度を武器化することは、法の支配を根底から覆すものだ。それはアメリカ的ではない」

とした上で、「フロリダはトランプ氏の身柄は引き渡さない」と明言。これについては、ニューヨークで起訴された場合には、トランプ氏は出頭しなければいけないが、仮にニューヨークに行くことを拒んだ場合、フロリダ州としてトランプ氏を守ると宣言したのだ。ニューヨークの司法に対して、フロリダ州知事として対決姿勢を鮮明にした。

支持者からは「国家総力戦」として報復の声も

「21日に逮捕される」とトランプ氏がSNSで主張し、支持者らに抗議を呼びかけたことに反応し、20日にマンハッタンで抗議集会を行ったトランプ支持者らも声明を発表した。

20日に行われた抗議集会にはメディアも大勢集結した
20日に行われた抗議集会にはメディアも大勢集結した

「今、我々の国は前例のないスピードで専制政治に突入している。過激派の不謹慎な連中が、すべての礼儀を放棄し、ドナルド・J・トランプ大統領を執拗に攻撃している。私たちの国の運命の主導権が私たちの手から引き離されたことを、率直に認めなければなりません」

とした上で、「エリート、国際主義者の陰謀に従う急進的な左翼の利益団体は、2024年の大統領選挙の有力候補であるトランプ大統領を起訴するという前例のない措置をとった」とした上で、バイデン政権について「民主主義の仮面を脱ぎ捨て、その真の醜い顔をさらけ出した」と痛烈に批判。一方で、「抗議集会などは行わない」とも述べ、今は沈黙を貫く構えを示した。ただ、その理由として、「トランプこそ我々の報復だ」と強調し、来年に控える大統領選挙でトランプ氏を勝利に導き、国を奪い返すとして、「これは国家総力戦だ」と宣言した。

トランプ氏は全面対決の構え

トランプ氏は起訴を受け声明を発表したほか、SNSでも次々と批判を繰り広げた。

トランプ氏はSNSに次々と投稿し「起訴」の判断を批判している
トランプ氏はSNSに次々と投稿し「起訴」の判断を批判している

「これは歴史上最高レベルの政治的迫害と選挙妨害だ」

「全く無実の人物を露骨な選挙干渉行為で起訴するという、考えられないことをやった。」

「有力な共和党の大統領候補である政敵を罰するため司法制度を武器にすることは、これまでになかったことだ」

トランプ氏はこのように強調した上で、「私たちの運動と党は、まずアルビン・ブラッグを倒し、次にバイデン大統領を倒し、私たちは民主党を一人残らずオフィスから追い出して、アメリカを再び偉大な国にする!」とした。トランプ氏の起訴をめぐり、これまで分断が表面化してきたアメリカ社会にさらに深刻な対立が生じる可能性が高まってきた。「内戦状態」と恐れる声も挙がっている。トランプ氏の支持者らと警察、それに反対派との衝突や、暴動なども起きかねない懸念も強まる中で、「トランプ前大統領起訴」の反動がどのような形になっていくのか非常に注目される。

(FNNワシントン支局 中西孝介)

中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。