自分自身の経験をきっかけに性教育の普及活動に力を入れている大学生を取材。そして人間関係から考える“包括的”性教育…“性の新常識” SRHRを日本の代表理事の産婦人科医に聞いてみた。

中絶経験した大学生が伝える

2月、横浜市内の中学校…

講師の新橋みゆ さん(22):
膣外射精「外出し」、射精する直前に膣からペニスを抜いて射精する方法なんですけども、これで避妊できる〇か×か?

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卒業を控え、中学3年生が聞いていたのは「性教育」の特別授業。講師を務めたのは、学校の先生などではなく、大学生だ。

講師の新橋みゆ さん(22):
私自身は高校生の時に初期中絶を経験していて、それでもやっぱり手術なので体に負担はたくさんありましたし、それによってやっぱり精神的に落ち込むこともすごくあって…

新橋みゆさん(22)は、高校3年生の時、予期せぬ妊娠で、「中絶」を選択した。

講師の新橋みゆ さん(22):
一番許せなかったことは、なんかやっぱ中絶直後っていうのは、もうパートナーに対する恨みつらみ怒りみたいなのが多いんですけど、でもやっぱりそれをいろいろ考えていくと、パートナーも学ぶことが出来ていなかったし

講師の新橋みゆ さん(22):
多分本質的に悪いのそこじゃないなって。今の性教育の捉えられ方って…それを求められてる、その年になったら自動的に避妊の大切さ知ってるでしょ?とか、なんか善悪の判断できるでしょとか。なんかちょっとぶっ飛んでしまっているところがあるので…(性)教育というのは絶対必要だなというふうに思います

自身の経験から、早い時期から正しく「性」について学んで欲しいと、意欲的に活動している。みゆさんは、妊娠のみならず、中絶についても教える。特に心がけているのが、「中絶」の選択が必ずしも“悪”という印象にならないようにすること。なぜ、あえてそこまで踏み込むのか?

講師の新橋みゆ さん(22):
子供をいつ産むかとか、子供を絶対産まなきゃいけないっていうわけではなくて、産まないっていう選択肢ももちろんあるし、妊娠した人が自分の体のことを自分で決められる権利があります 

この考え方こそが今、世界的に注目されている「性」にまつわる権利、「SRHR」(Sexual and Reproductive Health and Rights*性と生殖に関する健康と権利)だ。

SRHRジャパン代表理事で産婦人科医の池田裕美枝さん:
SRHRとは、1人1人がいつ子供を産むかとか、何人産むかとか産むか、産まないかとか、そもそも誰とセックスするかとか、それを自分で決めていいよねっていう概念のことなんですよね。誰との間の子供を作るか?いつ子供を産むかみたいな話って、男性にとっても女性にとっても何のお仕事に就くかと同じぐらい結構人生に影響しますよね

講師の新橋みゆ さん(22):
選択肢を広げる。教えて、その選択肢がたくさんあるっていう状態まで私は持っていきたいなっていうところがあって、中絶はあなたのためにしていいことなんだよっていう立場から話そうと考えてます

新橋さんからの性教育を受けた学生たち:
実際に妊娠して中絶した人の話を聞いて他人ごとじゃないなって感じました

新橋さんからの性教育を受けた学生たち:
将来そういうことがあったら必要になる情報かなって。
自分の身を守るためには、知れたらいいなと思ってます。

体と心の声を聞き、ワタシの人生をワタシ自身の選択で歩んでいく…いま、知っておくべき言葉、新常識「SRHR」について産婦人科医で「SRHRジャパン」の池田裕美枝代表理事に話を聞いた。

まずはSRHRって何?と思われる方も多いと思うので、改めて「SRHR」とは…

SRHRとはSexual and Reproductive Health and Rights、性と生殖に関する健康と権利ということですが、言葉で聞くと難しい…と感じますが、池田さんによると要は「誰とセックスをするか、子どもを産むか産まないかを自分で決めていいんだよ」ということです。

産婦人科医でもある SRHRジャパン・池田裕美枝代表理事:
例えば、誰とセックスするかに関しても、「本当は怖いけど嫌われたくないから…」っていうのは自分で決めてるということにはならない。自分の人生をより豊かにするために、自分が楽しくて豊かになって、相手もそれが楽しくて豊かになって、その話し合いがきちんとできて「“いいセックス”ができるよね」というのが“誰とセックスするのか自分で決めていい”ということです。子どもを産むか産まないに関しても、何歳だから、少子化だから…ということではなく、「この人との子どもを私、今ほしいわ」と思ったり「この人に自分の子どもを産んでもらいたい」って思ったりというのが、自分で決めているということなんだと思います

大学生の新橋みゆさんも取材で「日本では性教育が男女ともに足りていない」と話していましたが、日本ではSRHRの概念が広まっていないと池田さんは話す。

産婦人科医でもある SRHRジャパン・池田裕美枝代表理事:
SRHRの根幹が、自分自身とどう付き合うか?という観点があり、自分が大切に思っている人とどう付き合っていくか?ということなんですけども、それらを教えることが、“包括的”性教育なんです。セックスや妊娠の仕組みを教える事だけが性教育だけではなくて、その前提として人権とか性の多様性とか、男性・女性・LGBTQの人も含めて“自分で決めていく”ための根本的な人間関係作りからスタートするのが“包括的”性教育です

ここで日本の人工妊娠中絶について考えます。日本では年間、約14万件の人工妊娠中絶があります(2022年 厚労省)。妊娠の6~7件のうち1件が中絶ということになるが、日本で人工妊娠中絶が合法化されたのは、障害者への強制不妊手術など問題があった旧「優生保護法」(1948~1996年)が実は最初の根拠だった。

産婦人科医でもある SRHRジャパン・池田裕美枝代表理事:
戦後すぐに、不良な子孫を残してはいけないとした「優生保護法」で、最初、人工妊娠中絶が合法化されたというのが日本の実情です。女性を守るというより人権とは逆の方向を向いた形での法律でした

日本での人工妊娠中絶の特徴についてみていくと…

▼掻爬(そうは)法・吸引法などの手術のみ
▼妊娠中の女性が薬物や他の方法により堕胎する堕胎罪に問われる
▼(手術などが)高額

さらに…
▼中絶には“配偶者の同意”が必要(G7では日本だけ)

産婦人科医でもある SRHRジャパン・池田裕美枝代表理事:
赤ちゃんを亡くならせるのが罪ですよ…というのが刑法の堕胎罪なんですけども、それの除外規定として今の「母体保護法」で人工妊娠中絶がいちおう合法になっていますが、医師の中でも母体保護指定医という特別の認可を受けた医師が行ったときのみ認められます。ですから、中絶が女性の人生を守るためにとか、(妊娠した)女性の命を守るためだ、という立て付けにはなっていないんです

配偶者の同意が必要というのも異例でおかしいと池田さんは話します。

産婦人科医でもある SRHRジャパン・池田裕美枝代表理事:
もともと「優生保護法」が始まりだったので、父親も赤ちゃんの権利があり、「赤ちゃんを亡くなることをお父さんはどう思うか?」ということが昔はすごく重んじられていましたが、今は「母体保護法」なので配偶者の同意は必要ないのではないか、と諸外国から多くの勧告を受けています。もちろん両者の話し合いが大事ですが、中には配偶者との連絡が取れないため同意を取るのが難しいケースもあるのに、配偶者の同意がないと医師は中絶手術ができない法律になっていて、おかしいと思います

女性の権利の拡大という意味では、注目されているのが「中絶薬」だ。3月にも承認されるのではと言われているが、ここまで承認が遅れたことなどについて池田さんは…

産婦人科医でもある SRHRジャパン・池田裕美枝代表理事:
ひとつは日本ではあまりこれまで声が上がらなかったからだと思います。国内では医師からも女性からも議論をこれまでしていたわけでなく、水面下に潜ってしまう問題でした。今回、申請をした「ラインファーマ」社は、いろんなことを乗り越えて申請した形となります

体への負担ついては…

産婦人科医でもある SRHRジャパン・池田裕美枝代表理事:
自分で飲んで、自分のお腹が痛くなって、自分の体から出血してくる…という流産を起こさせる薬になります。飲む場所や個人差で負担は変わってくると思いますが、(手術とは別の)選択肢が増えることは好ましいと思います

また、価格については…

産婦人科医でもある SRHRジャパン・池田裕美枝代表理事:
ピル(経口避妊薬)もですけど、人工妊娠中絶も全額自費となっています。病院で行われることはたいてい保険がきくのに、SRHRに関してのことは全部自費なんです。日本は薬の安全性を重視する国だから認可のための薬が高くなってしまうんですが、それも全部自費で払わないといけないのは問題です

広がりつつも、まだまだ足りない部分が多いと言える日本のSRHRの現状がある。

(関西テレビ「報道ランナー」2023年3月7日放送)

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