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今回は血液内科の名医、日本赤十字社医療センター 血液内科部長 骨髄腫アミロイドーシスセンター長の石田禎夫(ただお)医師が、「アミロイドーシス」について徹底解説。
アミロイドが心臓・腎臓・肝臓・消化器などさまざまな臓器に沈着して症状が出るアミロイドーシスは、原因がわからないまま進行することも。新たに保険適用になった治療薬についても解説する。
アミロイドーシスとは
アミロイドというのは、皆さんの体にあるタンパク質が、普通は正常に折りたたまれてるところが、うまく折りたたまれないとくっついて繊維化しまうんですね。その繊維化したものをアミロイドというのですが、それが血中にあるだけでは特に問題ないんですが、それが色んな臓器にくっつき始めるんですね。
この病気は、心臓の症状も、腎臓の症状も、肝臓の症状も、消化器の症状も出るということで、症状からだけでは、原因が「アミロイド」というところになかなかつながらない。そこが診断するのに非常に難しいところです。
ある報告だと、症状が出てから診断されるまでに平均で2年かかるというような論文もあります。その間に色んな病院を転々として、平均で3人のドクターに診てもらってから診断されるという報告もあります。
分かりにくくて診断が遅くなって、進行してから見つかってしまうということになるわけです。
アミロイドの種類は、色んなタンパクがアミロイドになるので、40種類以上あると報告されています。
私の専門は「ALアミロイドーシス」という、「免疫グロブリン」が異常なタンパクになって沈着する病気です。
それ以外に有名なのは、「トランスサイレチン」というものがアミロイドになる場合があって、これは遺伝性が主に研究されていて、熊本県や長野県に多くの患者さんがおり、そこの大学の先生方が一生懸命研究しています。これはトランスサイレチンのアミノ酸の配列が、遺伝的に普通のアミノ酸配列と異なっているタンパクを持っていて、アミロイドになりやすいということです。
正常なトランスサイレチンは全ての人が持っているのですが、高齢化してくると、特に80歳以上になると、この正常なトランサイレチンがアミロイドになってくっついてしまうという、「老人性アミロイドーシス」が最近になって注目されております。
これに対する薬も最近開発され、これは主に循環器の先生が診ています。
アミロイドーシスの検査・診断方法
なかなか診断がつかないということですが、まず“この人はアミロイドーシスかもしれない”と疑うことが重要です。
アミロイドーシスを疑った場合は、ALアミロイドーシスに関しては、血中または尿中にアミロイドの“もと”のタンパクがありますので、その“もと”のタンパクがあるかどうかを検査します。
このタンパクを、M蛋白(=モノクローナル蛋白)と呼ぶのですが、これは「免疫グロブリン」です。
それを調べる方法としては、血中であれば「免疫固定法」という検査で、異常なタンパクのバンドが出てきます。これは尿中でも検査ができて、尿中の免疫固定法で異常なタンパクのバンドが出たら、これは“この人は異常なタンパクを持っている”ということがわかります。
このバンドでは、どれぐらいたくさん持っているかはわからなかったのですが、最近は、このアミロイドの“もと”になる免疫グロブリンの検査を直接測る「フリーライトチェーン」という検査ができるようになりました。
そうすると、アミロイドのもとのタンパクがどれだけあるかが数字として出てくるようになったので、非常に診断にも有効ですし、治療効果を見る意味でも重要になってきました。
まず異常なタンパクが出ただけでは、アミロイドーシスとはなりません。
こういうようなタンパクを持っている人は意外と多いです。60歳以上だと、3~4%の人がこうした異常なタンパクを持っているとも言われているので、これが本当にアミロイドになって沈着してるかどうかは、それぞれの臓器にアミロイドが沈着してるかどうかを調べる必要があります。
ただ、肝臓や心臓などはなかなか生検が難しいので、他の部位にアミロイドが沈着していることがわかれば、その障害されている臓器で証明しなくてもいいということになります。
そこで一番よく行われているのが「腹壁脂肪生検」です。お腹の脂肪を取って検査する。または骨髄に針を刺す「骨髄生検」で、アミロイドが沈着してるかどうかをみます。
もしここで証明されなかったら、例えば、心臓が悪い人は「心筋生検」、腎臓が悪い人は「腎生検」を行うと、そこにアミロイドが沈着しているかどうかが分かります。
そしてアミロイドが沈着しているというだけではなくて、どのアミロイドのタイプか。
「ALアミロイドーシス」であれば「κ(カッパ)」か「λ(ラムダ)」というタンパクが沈着しているんですが、そのタンパクが本当に沈着しているかどうかで判別をします。
問題なのは、心臓にだけ沈着していた場合は、先述しました「トランスサイレチン」のアミロイドーシスとの鑑別が重要になります。
その中の一つとして、最近は「ピロリン酸シンチ」という検査で調べると、ALアミロイドーシスの心アミロイドーシスでは集積しないけれども、トランスサイレチンのアミロイドーシスは心臓に集積するということで、鑑別ができます。
最終的には生検して鑑別できれば一番いいのですが、なかなか良い抗体がなくて、必ずしも染色だけでは診断がつかないこともあります。
そういう場合は、沈着しているアミロイドがどんなタンパクでできているかを専門的に検査している信州大学や熊本大学に組織を送ると、診断が難しかった症例も確実に診断をつけられます。
そうしてALアミロイドーシスだと診断がついたら、ALアミロイドーシスの治療をすることになります。
あと、例えば心臓がどれぐらい悪いかが予測できる「心不全のマーカー」となる検査があります。
NT-proBNPやBNPが高くなってきていると、心不全のマーカーですから、これは心アミロイドーシスを疑う参考になります。
腎臓についた場合はどういう検査をするか。
アミロイドが腎臓に沈着すると、尿中に蛋白質が検出されます。タンパク尿が検出される場合は、「ネフローゼ症候群」との鑑別が重要になりますが、一応タンパク尿が出ていた時にもアミロイドーシスを疑うことになります。
肝臓に沈着すると、肝臓が腫大してきます。そして肝臓の酵素の「アルカリフォスファクターゼ」というのが上がってきますので、これが上がっている場合も、肝臓にアミロイドがついている可能性を疑います。
あと、下痢や便秘、難治性のそういう症状が出た場合には、大腸内視鏡検査で大腸の粘膜を生検し、アミロイドの沈着の有無を診断します。
アミロイドーシスの治療・治療薬
ALアミロイドーシスのアミロイドを産生している細胞は、異常な形質細胞です。これはグロブリンを産生します。グロブリンというのは、抗体です。
皆さん、新型コロナのワクチンを打って抗体が上がったとか、よく聞きますよね。これは、形質細胞がウイルスをやっつける、免疫グロブリン(抗体)を産生しているんです。
普段は体を感染から守る良い細胞なのですが、この細胞が悪性化してしまうと、変な抗体を産生します。そうすると、その抗体がアミロイドになってしまうのです。
普通のALアミロイドーシスの人は、この異常な細胞が少ないのですが、この細胞がどんどん増えてしまうと、「多発性骨髄腫」というがんになってしまいます。この患者さんは結構多いので、多発性骨髄腫に対する治療薬として保険適用となっている薬剤がたくさんあります。
一方、アミロイドーシスは、100万人あたり1年間に4~5人程度発症すると言われていて、患者数が非常に少ないので、しばらく保険適用になる薬がほとんどありませんでした。
2年前にある製薬会社が、新しい薬をALアミロイドーシスの人に使おうと、全世界で治験をやりました。それが非常に有効だったということで、4剤併用の治療が承認されました。「ベルケイド」「ダラツムマブ」「シクロホスファミド」「デキサメタゾン」です。
この4剤は非常に効きます。“完全奏功”といって、異常なタンパクが消える率は、自家移植をしても4割ぐらいだったのが、この治療すると6割近くになる。このように非常に有効な治療が、2年前から保険適用になっています。
ですから、できるだけ早く診断されれば、かなり効果が期待できると考えております。
最寄りの大きな病院へ
主治医の先生に、「アミロイドーシスの可能性はありませんか」と言っていただく。
アミロイドーシスが疑われた場合は、ALアミロイドーシスを中心に診ているのは血液内科、トランスサイレチンは循環器内科ですので、大きな病院の血液内科または循環器内科に行ってアミロイドの検査をしてくださいと言うと、スクリーニング検査をしてもらうことができます。
アミロイドーシスを疑う症状のある患者さんはちょっと聞いてみていただければ、早期診断につながって、早期治療ができれば予後が改善しますので、そのようなことをしていただければと思います。