2022年2月24日に始まったロシアによる軍事侵攻。ウクライナでは多くの民間人が犠牲となっている。国連によると2月21日時点で、死者は少なくとも8006人にのぼり、1万3287人が負傷したということだ。

侵攻開始から1年となった24日、ロシア軍の大規模攻撃の可能性や経済制裁の効果など、今後の戦争の行方について、国際政治が専門でロシアの歴史や政治を研究されている慶應義塾大学の廣瀬陽子教授にこの1年のこれまでの振り返りと今後について聞いた。

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東部で一進一退の状況が続く

まずは現在の戦況ですが…ロシアは2022年9月に東部のルガンスク州、ドネツク州、南部のザポロジエ州、ヘルソン州の併合を一方的に宣言しましたがウクライナ側が反撃するなど一進一退の状況だ。

慶應義塾大学 廣瀬陽子教授:
ロシアは春季大攻勢ということで、1月末から3月末くらいの時期に大規模な攻勢をかけることはまず間違いないとみられていました。2022年9月に部分的動員ということで、30万人強の動員をしているわけですけども、そのうちおそらく半数くらいはほとんど訓練を受けないままに戦場に投入されて“人間の盾”のように亡くなった人も多かったわけです。逆に、その半数くらいの人はずっと訓練を施されていて、そろそろ十分に訓練が整うということで…この春に投入されていくであろうと言われていました。

慶應義塾大学 廣瀬陽子教授:
ただ、ウクライナ兵の話だと、今、入ってきている(ロシア軍の)人たちはまだ、重要な戦力になっていないということです。アメリカなども、まだ準備が整ってはいないのではないか?という見方が大勢を占めています。ロシアとしては本来は、大規模攻勢を大胆にやりたいところなのでしょうけど、なかなかそうもいかない…そうであれば、ミサイルでキーウに威嚇をかけてくる可能性というのが極めて高いと思います

そうした中、戦争の本格化が春以降という指摘もされている。

春以降の戦局はどうなるのか?近く、ウクライナにアメリカなど西側が供与を決めた戦車が配備されます。これを恐れているプーチン大統領は大規模攻撃の時期を早める動機になるということで、廣瀬教授は「(大規模攻撃は)3月半ば以降ではないか」とみている。西側の戦車配備はロシアにとって痛いものなのか?

関西テレビ 神崎博デスク:
戦場で使用されているロシアの旧式の戦車と比べると、かなり性能が高い。大量に投入されると、戦局が変わると予想されます。訓練には3カ月から半年くらいかかるとされています。3月末か4月のはじめに14両は現地に供与できると言われていますが、それでは戦局は変わらないので、今後、数を揃えるには5月、6月、7月そのあたりまでかかると言われています

慶應義塾大学 廣瀬陽子教授:
ロシアとしては、ウクライナが戦車による攻撃を始める前にウクライナの出鼻をくじきたいというところ、ロシアの国内事情を考えても3月ぐらいに“ひと段落”何かしておきたい。そういうこともあって「3月中にドネツクなどを押さえろ」という命令をプーチン大統領が出しているということもあって、3月後半は大きな節目になりうると思います

ロシア国内に目を転じてみると…日本時間22日夜、モスクワで行われた集会。第二次世界大戦で、ロシアがドイツ軍に勝利した記念日にあたる2月23日を前に開かれた。現地報道によると、およそ20万人が集まったとされているが、実は参加者は招待客で、日本円でおよそ900円から2800円を受け取って集まっているということだ。そこまで戦意が高く、自発的に集まってということではないのかな?という部分もみえてくる。

一方で、独立系の世論調査機関が調べたプーチン大統領の支持率をみてみると…1月時点で82%が支持となっていて相変わらず高い数字となっています。戦争は大賛成というわけではないが、支持率は高い…どう見たらいいのでしょうか?

慶應義塾大学 廣瀬陽子教授:
プーチン人気がかなり盤石だと言えます。ソ連の解体、その後の国際社会の中で弱体化したロシアの姿は”大国”を好むロシア人にとってはとても屈辱的なものだったんですが、プーチン大統領となり、石油化学の高騰も手伝ってもらった形でロシアが順調に経済大国として復活していくのは、人々にとっては非常にうれしいことであり、強いロシアを支えてくれるのはプーチン大統領という意識があります。

今回の戦争についても、かなりの多くの国民は欧米による陰謀のためにロシアは戦争せざるを得なくなったという理解で戦争を見ているので、戦争がイヤだということがプーチン大統領の反発ということにはならないわけなんです。プーチン大統領は「良くやっている」というような評価にむしろつながってしまっていることもあって、ずっとプーチン大統領の評価が高いままということになっています

さらに、西側が期待していた経済制裁もあまり効いていないという見方となっています。廣瀬教授によると「侵攻当初はモノがなかったが、今は並行輸入で支障なく普通の生活をしている」ということだ。

並行輸入というのは、欧米各国から第三国を経由して様々な物資が入っているということだ。経済制裁が効いていれば、本来入ってこないモノがこの第三国を通じて入ってきてしまうということだ。

慶應義塾大学 廣瀬陽子教授:
いろんな方に聞きましたが、侵攻が始まった直後というのはスーパーにあった欧米のモノが全て中国産に置き換わるなどしたということですが、2・3か月すると今までのものが戻ってきたということです。一時期なくなったiPhoneなども買えている。以前よりちょっとだけ高いお金を出せばほぼ何でも手に入るということです

大阪にあるロシア向けの貿易会社に話を聞いたところ、日本や欧米企業が撤退した工場跡地に中国企業が入り始めているそうだ。中古車市場はむしろ活況になっていて、自社(大阪の貿易会社)からの車部品の輸出も増えているということだ。

慶應義塾大学 廣瀬陽子教授:
欧米も意見が多様。たとえば正義派と言われているイギリス、ポーランド、バルト3国などはウクライナに「最後まで戦え」と言っている。ほかの国の中には、だんだん戦争が長引くと自分の国も大変で、特にエネルギーなんか非常に高いですから、自国内で「戦争やめさせてほしい」とか「ウクライナ支援を止めた方がいい」みたいな意見が出ているところもある。
そういう国ではウクライナに譲歩してもらって、領土をあきらめて和平でも結んだらいい…と言っている人もヨーロッパの中では増えています

中国の介入という「ウルトラC」にも期待せざるを得ないくらい、厳しい状況のウクライナ情勢。終わりなき戦争をどう終わらせるか、国際社会がいま問われている。

(関西テレビ「報道ランナー」2月23日放送)

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