愛媛・新居浜市の砕石会社が、有機農業で使う「堆肥」の本格生産に乗り出した。原料となるのは全て廃棄物。ものづくりの街で知られる新居浜からSDGsの新たな取り組みが始まっている。

ニンジンを甘くする「堆肥」の秘密

ニンジンを食べた男性:
甘いですね。おいしいです

ニンジンを食べた女性:
全然臭くないです。青臭くないです、本当に

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四国中央市の産直市場で買い物客たちが試食していたニンジンは、有機農法で育てられたもの。

フジ・リテイリング マルシェ事業運営部:寄川豊和部長:
無農薬で今作られていて、お客さまの反応として、ものすごく甘い食べやすいニンジンという評判で、すぐに売り切れてしまうくらいの勢いで売れております

大人気のニンジンは、新居浜市の「耕力農園」で作られている。

――ニンジンのできは?

西日本砕石・岡寛社長:
ちょうどいいぐらいの大きさで、今、寒くなって糖度が上がってて、おいしい時季かなと思ってます

ニンジンをおいしくする秘密、それが「堆肥」だ。

西日本砕石・岡寛社長:
これが当社で作っている「クリンカ」と、お茶殻からできた「耕力堆肥」です。新居浜の我々の砕石技術が生み出した農業に役立つ新しい堆肥だと思ってます

作っているのは新居浜市の西日本砕石。もともと石炭火力発電で出る「クリンカアッシュ」と呼ばれる石炭灰を使って道路資材やゴルフ場、サッカー場などの芝生の生育を良くする「目土」の砂を生産していた。

西日本砕石・岡寛社長:
よく見ていただいたら分かると思うんですけど「多孔質」になっています

自慢の堆肥は、細かい無数の穴を持つ「クリンカアッシュ」と、西条市の大手飲料メーカーの工場でペットボトルのお茶を作る際に排出されるお茶殻などを混ぜ、発酵させて生産する。

きっかけは「コンクリートから人へ」

西日本砕石が堆肥を作ろうと思ったきっかけは14年前、当時の政権を取った民主党のスローガン「コンクリートから人へ」だった。

西日本砕石・岡寛社長:
2009年に民主党政権の時に「コンクリートから人へ」と言われた時代がありまして、その時にすごく出荷量が落ちましてですね、砕石業自体を何とかしないといけない。(道路舗装の資材の)路盤材に使っていたクリンカが本当は安全な農業用資材であるということを聞いてまして、農業用に使えないかということから始まりました

そこで岡社長は、愛媛大学の土壌の専門家・上野秀人教授に相談を持ちかけた。

愛媛大学農学研究科・上野秀人教授:
クリンカは多孔質でして表面積が大きいんですね。ですから、そこに土壌微生物が住みつきますし、たくさんの養分がそこから放出される可能性が高いと。たまたま西条市の工場から大量の茶殻が出るという話がありまして、茶殻は水分を多く含んでますし、養分もたくさんあるんですけど、早く腐ってしまって堆肥にしにくいという問題がありました。そこにクリンカのような通気性の高い資材を入れることによって堆肥化が早く効率よく行われ、良い堆肥ができるんじゃないかと考えたわけです

うまい具合に構想はまとまったものの、上野教授はクリンカアッシュの安全性に少し懸念があった。

愛媛大学農学研究科・上野秀人教授:
クリンカアッシュの原料は石炭です。石炭も材料によって重金属を多く含むものと、ほとんど含まないもの、いろいろあるわけですね。ほとんど含まないものだけを使ったクリンカアッシュ。それなら使っていいというふうに判断しました

大学独自の検査でも環境基準に適合していることが確認され、安全性の問題も無事クリアした。
ケイ素やカルシウムなど様々な養分を含むクリンカアッシュと、窒素を多量に持つ茶殻。2つの廃棄物を有効活用した良質な堆肥は、有機農産物の生産に使用できる肥料として国が認める「有機JAS資材リスト」に登録されたほか、愛媛県の優良リサイクル製品にも認定された。

新居浜から広がるSDGsな取り組み

2022年1月、耕作放棄地にこの堆肥を使った有機農法で野菜を作る実証農園を造成。2022年8月には1日5トンの堆肥が作れる専用プラントも完成させて、本格的な事業化を目指している。

耕力農園・大西良一農場長:
指を入れてもスッと入るような柔らかい土ができております。ここのほ場は1年目のほ場で、なかなか土づくりが難しかったんですが、1年目であるにもかかわらず、こういったおいしい野菜ができておりますので、すごく(堆肥の)力を発揮してもらってると思います

新居浜市大島地区 地域おこし協力隊・森野嘉丈さん:
うん、甘い

この日、農園の見学に来ていた地元の地域おこし協力隊のメンバーも、特産の白いもづくりに使いたいと考えている。

新居浜市大島地区 地域おこし協力隊・森野嘉丈さん:
ニンジンってこんなに甘いとは、きょうビックリしましたね。ここの「耕力堆肥」を使用させてもらって、僕も(白いもで)実証実験してみたいなと思ってます

ものづくりのまち・新居浜で廃棄物と廃棄物が出会い、生まれた新たな堆肥は、SDGsへの取り組みを広げる。

西日本砕石・岡寛社長:
お茶殻も日本中にありますし、採石場も日本中にあって、まだ石炭火力発電所も日本中にありますので、安いコストで農業生産ができるようになれば私の本望だと思っています。新居浜から「耕力砂」、「耕力堆肥」を発信します

(テレビ愛媛)

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