ロシアによる軍事侵攻で、ウクライナから日本に避難した大学生のエリザベータ・ペトロヴァさん(22)。エリザベータさんは昨年3月キーウから日本に逃れ、現在福岡にある日本経済大学で最後の学生生活を送っている。
筆者は昨年6月エリザベータさんにインタビューをしていた。侵攻から1年、いま彼女は何を思うのかあらためて聞いた。
この記事の画像(8枚)「この戦争はたぶん早く終わらない」
「この戦争はたぶん早く終わらないと思います」
いまのウクライナの状況を聞くと、エリザベータさんは「私は普通の人だから」と前置きしてこう答えた。
「ウクライナはアメリカやヨーロッパの武器で頑張っていますが、やはりロシアに比べてすごく小さい国なので、なかなか戦争は終わらないと思います。ロシアが戦争を止めるわけがないですし、ウクライナも諦めるわけがないですね。この戦争は去年じゃなくて2014年に始まったので、どちらかが勝つまで続いていくと思います」
エリザベータさんは首都キーウ出身で、キーウ国立言語大学で日本語を学んでいた。ロシアの軍事侵攻とともに母・兄と一緒にリビウまで避難し、その後エリザベータさんはポーランドを経由して3月に日本に逃れ、母と兄はキーウに戻った。小さなころからジブリを見ていたエリザベータさんは、日本への留学が夢だった。日本に発つ際、家族は「行ってらっしゃい」と言って送り出したという。
(関連記事 「小さな頃からジブリとか見ていて日本への留学は私の夢だった」ウクライナ人留学生がいま日本で思うことは
「少しずつ日常生活が戻ってきた感じ」
キーウにいる家族とはよく連絡を取り合っているという。「家族は大丈夫ですか」と尋ねると、「大丈夫です。ありがとうございます」と答え、こう続けた。
「たまにミサイルが飛んでくることがあるようですが、仕方ないというか精神的に慣れてきて。仕事が無いと収入もないので仕事に戻っていて、少しずつ日常生活が戻ってきた感じです。皆が出来る限り頑張っています」
去年の夏、エリザベータさんは、全国各地の高校生と平和について語り合う「ウクライナ平和サミット(※)」というプロジェクトに参加した。
「高校生からは『NATOって役に立っているんですか』といった質問もありました。私は2014年のウクライナの地図を出して、『この戦争は去年始まったのではありません。2014年のクリミア半島占領から戦争は始まっていて、いまも続いているのです』と伝えました」
(※)福岡にあるリンデンホールスクールの生徒有志が立ち上げた、ウクライナから避難してきた学生の体験を聞くイベント
「日本から武器をもらいたいわけじゃない」
エリザベータさんは沖縄を訪れた際、ひめゆりの塔を見た。また冬休みはウクライナの友人と広島に行ったという。あらためていまの日本の立場をどう思うか聞くと、「日本は戦争のできない国だと知っています」と答えた。
「だから日本から武器をもらいたいわけじゃないんです。避難民の受け入れをとてもやって頂いていると思います。日本経済大学の先生たちにも感謝しています」
前回インタビューした際、筆者はエリザベータさんが流ちょうな日本語を話すのに驚いた。しかしそれから約半年で、エリザベータさんは日本語能力試験で最高レベルのN1に合格していた。「凄いですね」と言うと、エリザベータさんは「ギリギリ合格しました」とはにかみながら答えた。
「日本での就職を両親も応援してくれた」
エリザベータさんは昨年夏、日系企業でインターンをしながら貿易について学び、この春から八千代エンジニアリングの海外部門で働く。
「就職活動をする中で、自分の英語と日本語を使ってグローバルに働きたいという気持ちが出てきました。エンジニアリングのことはまだわからないことが多いですが、やりがいのある仕事だと思っています」
日本での就職を家族も応援していると、エリザベータさんはいう。
「私は(キーウの)大学に入学したころから『日本で働きたい』と思っていて、両親も応援してくれました。家族と一緒にいられなくなるのが寂しいですが、いまは仕事を優先しようと思っています」
多くの犠牲者を出しながら、いまだ止む気配のないロシアによる軍事侵攻。ウクライナの人々に一刻も早く平和で安全な日々が訪れることを祈るしかない。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】