首相は同性婚に「慎重」?

首相秘書官による性的少数者(LGBT)への差別発言をきっかけに、国会では2年前に提出を見送られたLGBT理解増進法案の議論が再開されたが、同性婚や夫婦別姓制度の導入を求める声も上がっている。

「いつまでに結論を出せという問題ではない」期限設定に難色を示した岸田首相(15日・衆院予算委)
「いつまでに結論を出せという問題ではない」期限設定に難色を示した岸田首相(15日・衆院予算委)
この記事の画像(4枚)

これらについて岸田文雄首相は15日の国会答弁で、「いつまでに結論を出せという問題ではない」と述べて、期限設定には難色を示した。

そもそも秘書官の発言は岸田氏の「(同性婚の導入は)家族観や、価値観、社会が変わってしまう課題だ」という発言に対する記者の質問への答えだったのだが、その後岸田氏は同性婚について「ネガティブなことを言ってるのではない」と釈明している。

ただ岸田氏が同性婚について「慎重」なことは明らかだ。

改憲しないと慎重派も納得しない

同性婚については高市早苗経済安保相が国会で「憲法24条の解釈も含めて難しい問題だ」と述べて慎重姿勢を示した。

憲法24条は「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と規定しており、日本政府は「憲法は同性婚を想定していない」という立場だ。

これに対して与党公明党の北側一雄副代表が「(同性婚は)憲法改正しないとだめだという趣旨ではない」と述べ、憲法審査会でその解釈を議論することを提案した。

会見で「(同性婚は)憲法改正しないとだめだという趣旨ではない」と述べた公明・北側副代表(9日)
会見で「(同性婚は)憲法改正しないとだめだという趣旨ではない」と述べた公明・北側副代表(9日)

「憲法を改正しなくても同性婚制度は作れる」と言う人は憲法学者をはじめ野党にも大勢いる。だが僕はあの条文を読んで、憲法が同性婚を認めているとはとても思えないのだ。

と言うかあの条文がある限り、反対派や慎重派は同性婚を認めないので、日本では永遠に同性婚は認められないと思う。つまり憲法24条は同性婚反対派にとって「錦の御旗」になってしまっている。

同じように憲法9条を読む限り、僕は自衛隊の存在は憲法違反だと思う。ただもうすでに「存在する」自衛隊はたとえ憲法違反と言う人がいても、じゃあつぶしましょうというわけにはいかない。解釈の仕方でごまかして存続しているわけだが、まだ日本に「存在しない」ことになっている同性婚は、憲法がこのままでは「存在」に至らないのではないか。これが自衛隊と同性婚の違いだ。

僕は時々憲法を通しで読むのだが、思ったより短くて、40分くらいで読める。世界で6番目の短さ、だそうだ。抽象的な表現が多く、「詳しくは別に法律で決めます」というくだりがしょっちゅう出てくる。だから解釈を変更すれば何とでもなるということで一度も改正されなかったのだろう。この調子だと今後もされないかもしれない。

立憲は同性婚を改憲項目に挙げろ

だがさすがに現実と合わない部分が出てきている。たとえば自民が主張する改憲項目のうち、自衛隊の明記、緊急事態対応、参院の合区解消はそれにあたるだろう。明らかに不具合が生じているのだ。

同性婚についても、日本で認められていない現状では、パートナーが亡くなっても遺産相続できなかったり、入院の際に家族として扱われないなどの「不具合」が実際に出ている。

さて立憲民主党は憲法審査会の開催について予算審議が終わるまでは応じられないと主張し、国会で「共闘」している日本維新の会の馬場伸幸代表から「またサボリ癖が出た」と揶揄された。

国会で「共闘」している立憲民主党と日本維新の会だが…
国会で「共闘」している立憲民主党と日本維新の会だが…

結局衆院の予算審議が終わった後の3/2に開催されることになったのだが馬場氏から「2日以降もいろいろなへ理屈をおっしゃって、憲法改正の議論が妨害されることになれば、協調関係を見直さざるを得ない」とクギを刺された。

立憲の人が「いや、サボってません。へ理屈も言いません」と言うのなら、憲法審査会に出てきて、たとえば同性婚を改憲項目として提案したらどうだろう。自民党も「それはダメ」と言わずに同性婚も自衛隊も憲法改正するかどうか議論したらどうか。

いずれにしても同性婚は憲法24条を改正しない限り日本では実現しないと思う。

【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。