「Z世代」は恋愛や結婚に関しては、どのような考えを持っているのだろうか?
「SHIBUYA109 lab.」の調査では、「恋愛は必ずしも必要ではない」と考え、「絶対に結婚したいは少数派」…。このような実態が浮かび上がった。
若者マーケティング機関「SHIBUYA109 lab.」は、昨年11月~12月にかけて、15~24歳のZ世代400人を対象に「恋愛・結婚観に関する意識調査」を行い、結果を1月24日に公表した。
この調査でZ世代に恋人の有無を聞くと、「現在、恋人がいる」と回答したのは20%、「これまで一度も交際経験がない」のは49.5%となった。
また、恋愛に対して「必要不可欠である」と考えるのは12.8%だった。
60.3%のZ世代が「恋人の有無はステータスに関わらない(恋人がいることはステータスである、ということではない)」、57.5%が「恋人の存在は自分の人生に必ずしも必要ではない」と回答している。
このような結果から、Z世代は、友人関係や趣味も恋愛と同等に楽しみ、「人生において恋愛はすべきもの」という意識から「人生において大事なものが恋愛である必要がない」という意識に変化している傾向がある、と分析している。
また結婚願望については、「絶対に結婚したい」と回答したのが16.3%、「結婚願望はない」と回答したのが18.8%となった。
グループインタビューでも「結婚はしたい人がすればいい。今は誰かと結婚したいとは思わない。何歳までに結婚したいというのもない」「結婚は大変そう。結婚では自分は幸せになれなさそう」という意見も聞かれた。
また、結婚に関しても「すべき」という価値観から、「人生のゴールは結婚じゃなくてもいい」という価値観があるように見える、としている。
「恋愛以外にも時間やお金をかけたい選択肢が増えている」
Z世代は、恋愛、結婚ともに、あまり興味を抱いていないという印象を受ける調査結果だが、どのように考えているのか? また、この調査結果を少子化という観点でみた場合、どのような対策が必要なのか?
「SHIBUYA109 lab.」の担当者に“Z世代の恋愛観・結婚観”と”必要な対策”を聞いた。
――「Z世代の恋愛や結婚観」に注目し、調査を行った理由は?
昨今、「少子化」や「若者の恋愛離れ」「デートをしない若者などの報道が相次いでいるなか、若者の恋愛の捉え方や、結婚観のリアルを正しく伝えることを目的に実施いたしました。
年明けには「異次元の少子化対策」も発表されましたが、少子化以前にそもそもの恋愛や結婚に対する捉え方が変化していることを伝えたいという気持ちで調査を実施しています。また、バレンタインなど、恋愛をテーマにした企画が増える時期であることも、理由の1つです。
――「これまで一度も交際経験がない」は49.5%、恋愛が「必要不可欠である」と考えるのは12.8%。これらの結果は、どのように受け止めている?
2000年代の中盤頃までは「リア充、爆発しろ」など、恋人がいる人=リアルが充実しているとされ、恋愛をしている人、していない人での優劣が付く構図が多くみられていました。しかし、今の若者に聞くと、恋人の有無での優劣がついている、という感覚が薄くなっていると感じています。もちろん、ゼロではないですが。
その背景には、恋愛以外にも、時間やお金をかけたい選択肢が増えていることが挙げられます。
推しがいたり、打ち込む趣味があるなど、恋愛と並列に大事にしたいことが増え、恋愛以外にも人生の楽しみ方が多様になっているため、自分が価値を感じるもの・コトに対して、各々が楽しめばいいよね、それを他人に押し付ける必要はないよね、という感覚を持っています。
また、そのような時間を共有する相手についても、必ずしも、恋人である必要はなく、同じ熱量で共感し合える友達の方が、お互いに気兼ねなく楽しめるという理由もあるようです。今回の調査でも、日常の中で大事にしている時間は「友達との遊びや付き合い」でした。
――Z世代は「恋愛」について、どのように考えている?
「カップルインフルエンサー」や「恋愛リアリティーショー」など、恋愛をテーマにしたコンテンツは人気ですし、恋愛したいのかどうかを聞くと、できれば恋愛したいという人が多くみられます。恋愛の重視度を聴取する設問でも、34%は「できればしたい」と回答しています。
ただ、差し迫ったものではなく、それこそ、人生において絶対に必要なことではないよね、という感覚で恋愛を捉えています。推しの存在や「カップルインフルエンサー」の日常を見ることで、疑似恋愛的な体験はできるので、満たされていることも考えられます。
恋愛の重視度によって異なりますが、「推しがいればそれだけでいい」「恋愛になるといいことだけじゃないし、面倒くさい」という声も聞いたことがあるので、自分の時間やお金の使い道の優先度をつけたうえで、バランスよく楽しみたいという意識が強いのかもしれません。
――Z世代は、「人生において恋愛はすべきもの」という意識から「人生において大事なものが恋愛である必要がない」という意識に変化している。これはなぜ?
上の回答と重複してしますが、恋愛以外にも時間やお金をかけたい選択肢が増えていることが挙げられます。推しがいたり、打ち込む趣味があるなど、恋愛以外にも人生の楽しみ方が多様になっています。
自分が価値を感じるもの・コトに対して各々が楽しめばいいよね、それを他人に押し付ける必要はないよね、という感覚を持っています。
これまで通り、恋愛が最優先の人もいれば、それ以外の人もいる。ただ、恋愛だけがとびぬけて大事なことなのではなく、恋愛も推しも趣味も同列に捉えられる世界線に生きているというのが最大の理由だと考えます。
「絶対に結婚しなくてはいけないという感覚はない」
――Z世代は「結婚」については、どのように考えている?
まだ、10代、20代なので、結婚は選択肢としてはあるけれど、「絶対にしなくてはいけない」とは考えていないようです。全体的に、恋愛と同じく、絶対に結婚しなくてはいけない、という感覚はないようです。
結婚に対する、多様な意見をオープンに話せる環境になっており、これまでの「結婚していないことに焦る」「結婚すべき」などの固定観念を強制される必要はない、と考えているようです。
――「絶対に結婚したい」という回答は16.3%。この結果は、どのように受け止めている?
「絶対に結婚しなくてはいけない」という感覚がないことは感じていたので、想定内ではありますが、これだけ、結婚の意向が低いとは思いませんでした。社会環境に不安を感じていることが、この調査結果に繋がっていると分析しています。
常に予測不可能な時代に生まれ育っているため、長期的なプランを考えるよりも、2年後、3年後などの短期的な視点でのプランを立てる傾向にあります。こちらは、いつでも方向転換できるようにリスクヘッジする意図です。
結婚以外のキャリアなどについても、5年、10年のスパンで考えるというよりも、2~3年でどうなりたいか、を感じているようです。
社会環境の不安に関しては、今回の調査でも明らかになっています。8割が結婚に対して、何かしらのハードルを感じていて、一番は「金銭面」、次いで、「相手方の家族との付き合い」「出産・子育て」と続いています。
現状の社会環境が、結婚・子育てをするにも、お金も時間も気持ちもバランスを取りにくい状況であることも、理由の1つです。
収入においては、増税や物価高など、働いても収入が上がらない状況も重なり、個人で生きていくにも大変な世の中なのに、結婚して子供を産んで、と、出費と収入を考えると、不安に感じざるを得ない。
そして、「個」を尊重する姿勢を持つ彼らは、結婚した後も個としての人生に対する視点も意識しています。
しかし、家庭と個人の人生、個人の人生と子育ての両立が難しい現状を感じており、人生プランが不均衡になってしまうことに対する不安が、結婚に踏み出せない要因とも考えられます。
2019年に理想の結婚相手に関して調査した際も、どちらかに頼るのではなく、お互いが自立し、協力し合える関係を築きたいという声が多く聞かれています。
彼らの親世代も共働きが当たり前であり、家庭と仕事の両立が前提になっているけれど、特に女性に関しては、産休育休などにより個人のキャリアに空白ができてしまう。男性の産休育休も推進されていますが、理解を得られない環境も、まだまだ、あります。
このような現状は、SNSで実際に経験している人たちの体験談としても共有されているため、不安が募り、結婚に対して消極的になることは当然のようにも感じられます。
「恋愛じゃなくてもいい 結婚じゃなくてもいい」という温度感
――今回の調査結果を踏まえると、Z世代は「恋愛離れ」「結婚離れ」をしていると捉えてよい?
離れているというよりも、位置づけが変わり、楽しみ方、向き合い方が変わり、選択肢が増えていると捉えています。
「恋愛じゃなくてもいいよね、結婚じゃなくてもいいよね」という温度感です。
恋愛に関しては、今の若者はコンテンツ過多の中で生きていることもあり、恋愛と横並びになる楽しみが増えていて、全てに全力で向き合うには時間もお金も足りないので、優先順位をつけて楽しむ必要が出てきています。
結婚に関しては、今の結婚制度では選択肢が狭く、生活にフィットしない人も出てくるし、窮屈に感じることもあるので、現状の結婚制度側が若者から離れているのでは、とも思います。
「若者の○○離れ」の文脈は、実態を見ていると、離れているのは若者ではなく、「○○」に入るカテゴリのほうです。
――今回の結果を踏まえ、どのような少子化対策が必要だと思う?
専門家ではないので、難しいですが、今の若者が求める「個の人生」と「家族・子育て」の両立を実現するための国のサポート体制が必要だと考えています。
ポイントは4つ、あります。
1つ目は「子どもは家族ではなく、社会全体で育てよう、という環境作りを強化し、出産・育児後の“個”の時間を確保するサポートを行う」。
今の社会において、結婚する、子育てをすることは「個」の人生を後回しにする以外の選択肢がないように感じます。これが、今の子育て世代の負担を大きくしていて、その下の世代から見るとハードルが高く感じる要因にも思えます。そのため、個人の人生を国が支援することが、少子化対策に繋がるのでは、と考えています。
たとえば、「仕事のキャリアを途絶えさせず、産休育休から早期復帰を希望する人を支援するために、シッターさんや預かりの時間を延ばす」、「地域の横のつながりを作り、預かりあうなど子育て連携ができる仕組みを作る」などです。
――2つ目は?
「金銭的な不安を払しょくする支援」です。
ポイントの1つ目を実現しようとすると、高収入の人しか実現できない状況(収入がある程度ある人しか選択できない選択肢になっている)なので、収入にかかわらず、選択できるような金銭的な支援が必要だと思います。たとえば、月5000円とかではなく、無料にする、など異次元の少子化対策をしてほしいです。
――3つ目は?
「子育て世帯が罪悪感を持たない社会環境を作る」です。
公園で遊ぶ子どもの声に苦情が入ったり、産休育休の取得に対しても、罪悪感を覚えなくてはいけないという声も散見されます。仕事に家庭に忙しい、子育て世帯が肩身の狭い気持ちにならなくてはいけない環境がなくなることが、出産・育児に対する不安の払しょくに繋がると思います。
――最後の4つ目は?
「今の子育て世代だけでなく、今後、子どもを産みたい意向のある人たちの現状の把握・支援」です。
すでに子供がいる世帯と、これから、子どもを産むかもしれない人たちの抱える課題は全く異なります。子どもがすでにいる世帯に対する支援だけでなく、子どもを産みたい世帯の現状の課題の把握や支援も、少子化対策に繋がると思います。
今回の調査の結果から分かるように、若者の恋愛観・結婚観、家族の在り方が時代に合わせて変化しているのに対し、国の捉え方はあまり変化しておらず、実態と乖離(かいり)があるように感じます。今の価値観に合わせた対策を検討していただけると良いなと感じます。
Z世代の恋愛・結婚観について、今回の調査では「恋愛は必ずしも必要ではない」と考え、「絶対に結婚したいは少数派」という実態が浮かび上がった。「恋愛じゃなくてもいい、結婚じゃなくてもいい」という温度感であることが分かっている。
恋愛・結婚以外の選択肢が増えたことが背景にあるということだが、このままでは、さらに少子化が進む可能性がある。少子化を食い止めるためには、今の若者が求める「個の人生」と「家族・子育て」の両立を実現するための国のサポート体制が必要なのかもしれない。