大ベストセラーとなった「ビリギャル(※)」の主人公、ビリギャルこと小林さやかさんがニューヨークにあるコロンビア大学院に合格し、この夏に渡米することになった。

ビリギャルはなぜ大学院を目指したのか?「ビリギャルの学びの理由」をさやかさんに聞いた。

(※)「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40あげて慶應大学に現役合格した話」(坪田信貴著)

ビリギャルこと小林さやかさんになぜ大学院を目指したのか聞いた
ビリギャルこと小林さやかさんになぜ大学院を目指したのか聞いた
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「限界が見えてしまったのが大きいかな」

「この7年間講演をやってきて限界が見えてしまったのが一番大きいかな」

「なぜ大学院に行って学び続けるのですか」を聞くと、さやかさんはこう語り始めた。

「ある女の子が私にメッセージを送ってきたんですよ。『さやかさんはよかったですね。坪田先生に出会えて、信じてくれるお母さんがいて。私にはそういう人が誰もいない。そういう子どもがたくさん世の中にいることを忘れないでほしいです』って。それを見て私はすごく無力感に苛まれて。こうしたことがこの7年間で何度かありました」

小林さやかさんの講演活動は500回以上
小林さやかさんの講演活動は500回以上

さやかさんは「ビリギャル」本が2013年末に出版されて以来、講演活動を500回以上行い、聴いた人は25万人を超えたという。

「私、講演が大好きなんです。最初は『どうせこいつ元々頭がよかったんだろ』みたいに斜めな感じで聞いていた生徒たちに、『大人が何と言おうと別によくない?結局多くの人は結果からしか判断しない。だったらやったもの勝ちだし、人生はあなたたち自身が切り開いていくんだよ』と話すと、だんだん身を乗り出してくるのが壇上でわかるんです。有り難いことに口コミで広がり講演数は年々増えましたが、『私には信じてくれる人が誰もいないから、頑張りたくてもできない』と、環境のせいで『自分には無理』と信じ込んでいる子どもたちの多さを目の当たりにして、私が子ども達を直接励ましているだけではダメだと思ったんですよね」

「人生はあなたたち自身が切り開く」というと生徒が身を乗り出すという
「人生はあなたたち自身が切り開く」というと生徒が身を乗り出すという

大人が変わらないと子どもたちを救えない

そしてインターンとして働いた札幌新陽高校での体験が、さらに学びへの気持ちを強くした。

「昔は学校が大嫌いで、学校の先生は嫌な奴だと思っていたけれど、先生でも生徒でもない立場でまた学校に通うという経験をして、『学校の先生達ってこんなに子どもたちのことをずっと考えているんだ』と知りました。ここで、先生達が変わると子ども達の学びも変わって、学校全体が変わっていくのを見たので、これをいろんな学校で実現できるようサポートをしたいなと思いました」

札幌新陽高校で学びへの気持ちを強くした
札幌新陽高校で学びへの気持ちを強くした

そこでさやかさんは「まずは子どもたちの周りの大人が変わらないと、苦しんでいる子どもたちの数は減らない」と痛感。「大人を変えられるだけの知識とスキルを私自身が学ぼう」と聖心女子大学院に入学し、「学習科学」という学問に出会った。

「人の学びのメカニズムを学ぶ学問ですが、これを学んだときに坪田先生のやっていた指導が言語化されたと感じました。先生はよく『教育は情熱と科学の融合でバランスが大事』と言っていて、私は『教育を変えたい、この子たちを救いたい』という情熱はあったのですが、科学の部分が足りないなと思っていたんです。コロンビア大学院では認知科学を専攻して、教育者がどういう学習環境を提供すれば子ども達がより主体的に学習を楽しむことができるかを学ぼうと思っています」

聖心女子大学院で公立中学校と共同研究を行った
聖心女子大学院で公立中学校と共同研究を行った

世界一幸せな子どもが育つ国にしたい

今回コロンビア大学院のほかにも米西海岸の大学院に合格したが、さやかさんはなぜコロンビアを選んだのか。

「私の人生は、これまで人との出会いを転機に大きく変わってきました。だからこれからも、出会いに貪欲でありたいと思っています。コロンビア教育大学院は全世界から『教育を良くしたい』と思っているチェンジメーカーが集まる場所です。多様な価値観の中で教育や人の学びについて真剣に向き合って議論し自分自身の価値観をアップデートさせるには、コロンビアが次のステージとして最適だと思いました。学費は奨学金を頂いても足りないのですが、学びは一番の投資だと思っています」

日本が「世界一幸せな子どもが育つ国」になってほしい
日本が「世界一幸せな子どもが育つ国」になってほしい

最後にさやかさんに「卒業して帰国したら教育をどう変えたいですか」と聞いてみた。

「私はいつか日本が、『世界一幸せな子どもが育つ国』と言われるようになってほしい。そのためには教育が変わるしかないと思っています。教育の本質は”憧れ”です。子どもから憧れられる大人が増えることが、最高の英才教育だと信じています。まずは大人が、最終学歴ではなくて最新学習歴を更新しないといけない。『学ぶって楽しいし、最高の投資だな。最近俺はこんなことに挑戦したんだ!人生って最高だなぁ』なんて言いながら生きている大人がたった1人近くにいるだけで、子どもたちは勝手に学びます。私もそのうちの1人でありたいなと思っています」

筆者もさやかさんとの出会いが、走り続けるエネルギーになった。これを読んだ皆さんも、最新学習歴をどう更新するか考えてみませんか?

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。