2度の暴言問題で、ことし政治家を引退することになった兵庫県明石市の泉房穂市長。圧倒的な市民の支持を受ける一方で、“議会の多数派”とは、ハッキリ言って、嫌い合っているような関係になっている。 

泉市長を直撃取材

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新実キャスター:
泉さん、しゃべるのも早いけど、歩くのも早いですね

明石市 泉房穂市長:
私ね、欠点多いですけど、自動ドアにいつもぶつかる。自動ドアのタイミングに合わない

“人気者”市長が引退表明に至る

「やさしい街 明石」を掲げ、子供への5つの無料化など、独自の施策を連発し、10年連続の人口増加を実現した明石市。

「全国戻りたい街ランキング1位」にも選ばれ、「明石」の名は全国にとどろくまでになった。

しかし、その立役者・泉房穂市長はことし4月の任期満了で引退することを表明している。きっかけは2022年10月に起きた、小学校の記念式典での騒動だった。

明石市 泉房穂市長:
創立150周年、誠におめでとうございます

式典でこう挨拶した直前に、3人の議員と元議員に続けざまに暴言を浴びせていた。

暴言1人目:
公明党の絹川元市議は、「公明党 ええ加減にせえよ。選挙知らんぞ」と暴言があったと話す。「(その後に絹川元市議が)まあまあ来賓席へどうぞと言ったら、そのまま行かんと飯田議員のところに詰め寄ったわけや」

暴言2人目:
公明党の飯田市議は、「お前、問責決議案に賛成したら許さんからな」ともう私だけに向かって言うような声でした」と話す。

暴言3人目:
自民党の榎本市議会議長は、「問責なんか出しやがって、ふざけとんか。お前ら議員全部、落としてもうたるから」と暴言があったと話す。

2019年には、こんな暴言もあった。

泉房穂市長の音声データ:
きょう火つけて、捕まってこい。お前、燃やしてしまえ

暴言を受けたのは道路行政の幹部職員。交通事故が多かった幹線道路を広げるための立ち退き交渉が進んでいないことに泉市長は激高し、怒りをぶつけた。

職員への暴言が問題となり辞職した泉市長。アンガーマネジメントを学んで、自らの怒りと向き合い、二度としないと誓って、2019年3月の“出直し市長選”で再選されたはずだった。なぜまた暴言を放ってしまったのか?

2022年10月、暴言騒動の翌週、議会は問責決議案を可決した。泉市長はその場で意外な言葉を口にする。

明石市 泉房穂市長:
政治家を引退したいと考えております、11年半に及ぶ積もり積もった怒りが爆発したということでございます

引退表明につながる“積もり積もった怒り”とは一体何だったのか。

“圧倒的な市民の支持”

新実キャスターは明石市民の声を聞きに街に出た。

新実キャスター:
子供連れのお母さんをこんなに簡単に見つけられる街は最近そんなにないですよ。ほんま多いわ、ベビーカー

(Q.もともと明石市が地元ですか?)
子供を連れた母親:

そうなんです。ずっと明石で育って、一回神戸にも出たんですけど、やっぱり明石で子供が育てやすいので、こっちに帰ってきて

女性:
頭が良すぎて、周りの人と合わせていくのがまどろっこしいのかな

女性:
辞めはるのはもったいない

男性:
サポート券や3割お得券みたいなの出てたりとか、その辺はすごくありがたかった。コロナで人通りが少なくなって厳しいなあという時に出てくれた

明石市で取材した新実キャスターが感じたのは“圧倒的な市民の支持”。

「議会多数派」とは対立

しかし、泉市長が「議会多数派」と呼ぶ、自民党・公明党会派からの反発は強い。去年12月の市議会では、議員とやり合う場面があった。

明石市 泉房穂市長:
問題は今の“議会の多数派”が市民を向いて仕事をしているのか、そうでないのかという論点

自民党会派議員:
相反する意見を排除するというような、無理やりご自分の意見を通そうという姿勢が独裁になってませんか

自民党会派議員:
嫌がらせって何ですか

明石市 泉房穂市長:
嫌がらせは嫌がらせで嫌がらせです

自民党会派議員:
ではどういった具体的な事実に基づいて、それを嫌がらせと感じたんですか

明石市 泉房穂市長:
サポート券事業が再議をとられることなく、継続審議となったのは大変強いショックを受けたという経緯がございます

泉市長が「嫌がらせだ」と言った「サポート券事業」の議論とは何だったのか?

明石市 泉房穂市長:
コロナの状況で市民大変な状況です。加えて飲食店が、特に悲鳴が聞こえて参ります

新型コロナ第5波が迫っていた2021年8月。泉市長は全市民へ5000円のサポート券を配布すべく、臨時市議会に上程すると表明した。

明石市議会 2021年8月:
議会で議論もしていないことを決定したかのように会見し、そのように広報する手法はもうやめていただきたいと思っております

配布方法などを巡り異論が相次いだことから、議会は継続審査を決議し、2日間で閉会した。

その直後、泉市長は「専決処分」を下して、事業の実施に踏み切る。「専決」は緊急の場合などに首長に認められる権限。しかし明石市議会史上かつてない根回しなしの執行は、甚だしい議会軽視だと問責決議の一因となった。

臨時市議会で自民党会派の代表として質問に立った千住啓介議員に話を聞いた。

自民党真誠会 千住啓介議員:
専決をしたということは、あれはやっぱり許しがたいですよね」「あなたの正義も分かるけど、こっちにも正義のある中で。私も市民から負託を受けたものとして、違うものは違うとやっぱりはっきり言わんとあかんのですから。それを嫌がらせっていうのは、間違ってると思いますね

感染拡大のタイミングで配布すべきなのか。コスト削減の余地があるのではないか。異論を受けた継続審査を「嫌がらせ」だと言われたことに、千住議員は納得できない。

対する泉市長にも話を聞くと…

新実キャスター:
サポート券への対応、特に自民会派ですね。そこがターニングポイント?

明石市 泉房穂市長:
やっぱそうでしょうね。溺れてる市民助けに行こうとしてるのを、羽交い絞めにして止める方がどうかしてると思うから。突き飛ばしてでも助けに行きますよ、という選択ですけどね

2つの正義は平行線のまま、泉市長と“議会多数派”の距離は遠ざかっていく。

ツイッターで発信を始める

専決処分から4カ月後、泉市長はツイッターを始める。フォロワー数はぐんぐん伸び、明石市の人口30万人を超えた。

明石市 泉房穂市長:
一気に発信したら一気に広がりましたから。私としてはフェーズが明石の中での段階から、明石から全国のフェーズへ変わったのがTwitter かな

明石市 泉房穂市長のツイッターより:
「市民全員5000円サポート券」の件。“市議会多数派”が嫌がらせで可決しなかったので、専決処分で実施し、大好評だった

明石市 泉房穂市長のツイッターより:
千住啓介議員は、自他ともに認める公共事業派で、公共事業費を今の3倍に増やすよう主張している

4年前の選挙でも、泉市長の暴言を問題にしてきた千住議員は、「公共事業派」と名指しされている。

自民党真誠会 千住啓介議員:
公共事業大好き派という印象操作をね、ずっとされてて。ましてや利権がらみだとかね

新実キャスター:
そうではないんだと…

自民党真誠会 千住啓介議員:
あの正直、公共事業大好き派です。 大好きですよ。ただ、それが違った意味で言われてるというのは、おかしいなあと思ってて。公共工事で100億投資したら、その100億が消えてなくなるみたいな話の論調なんですけど。「公共事業は悪だ」みたいなことをいうのは違うやん。その100億は地元に順繰り回っていく

泉市長が辞職を表明した後、ツイッターには泉市長を励ます多くのメッセージが寄せられた。

それと共に、議員たちへの批判の声も少なくはない。

ツイッター上の書き込み:
泉房穂かっこいい。
めっちゃ残念です。
問責決議案を提出した市議会議員の方々には落選していただきたい。

“議会多数派”議員は不安も

自民党会派議員:
市長の発言は嘘と悪意にまみれているのではないかと疑念を抱いております

泉市長との対立が続く自民党真誠会。市長を追及することが市民にどう映るのか、不安の声が漏れる。

自民党真誠会の議員:
周りから「お前一年生議員やろ、あんまりいちびんな」とかめちゃくちゃ言われるんです。「どうせお前が悪いんやろ」みたいな。ほんまね、しんどいですよ

自民党真誠会の議員:
しんどいで。政策もな、自分が全部当たり前や、正義や思ってる

自民党真誠会の議員:
市民もまさか市長が嘘つくと思ってないからね

泉市長と同じ中学の先輩で、自民党真誠会の穐原成人議員。ツイッターを始めてから、泉市長は変わったという。

自民党真誠会 穐原成人議員:
ツイッターでは、思ったことを発信できる。それに対して賛同者ですかね、かなり増えてきた。ということで、恐らくですけども、市長は今の自分の考えが正しいんだという一点張りになってしまったような気がしますね

自民党の議員らとの関係について泉市長はどう考えているのか。

新実キャスター:
(自民党)真誠会の人に聞くと、昔はうまくいってた時期もあったのに、最近泉さんが変わってしまったと

明石市 泉房穂市長:
それ違います。全く違います。ほぼ12年間基本的には敵対でしたからずっと

(Q.そうなんですか?)
明石市 泉房穂市長:

そうなんです。私どの政党も支持しないし、どの政党からも市長選挙で応援されたこともないし、頼んだこともないし、頼む気もないし、今もないです

「12年間敵対」だったのか?

自民党真誠会 穐原成人議員:
(4年)前の出直し選挙の時は、(自民党系会派)10名の中で7人が泉を推薦して、もう一度復活当選させようと動いた方ですから

自民党会派の議員の大半が市長を応援する立場だったという穐原議員の話について聞くと、泉市長はこう答えた。

明石市 泉房穂市長:
してない、してない。してないです。誰がそんなこと言っとるんですか?してない、してない

2019年の出直し市長選では、穐原議員が応援演説する姿があった。

穐原成人議員:
この度の市長選、いろんな誹謗、また中傷も飛んでます。圧倒的な数字で泉を押していただきたい。そのようにお願い申し上げます

いつの日からか積もった「怒り」は、共に歩んだ過去の記憶さえも塗り潰してしまったのか。

自民党真誠会 穐原成人議員:
ずっと泉市長に言っていたのは、「(市長という存在は)白に近いグレーで進めてほしい」と。白か黒かはっきりすれば、どちらかはいいにしても、どちらかの人は不利益を被ってしまうでしょと

(Q.今はもう真っ白か真っ黒を選ぶ泉さんになった?) 
自民党真誠会 穐原成人議員:

そうです。なってしまったから

泉市長は自らが代表を務める政治団体「明石市民の会」を立ち上げ、2022年12月に、統一地方選挙で推薦する市議会議員候補5人を発表した。

明石市 泉房穂市長:
残念ながら“議会の多数派”は反対ばかりです

気になる市民の声は?

新実キャスターには気になる市民の声があった。

子供を連れた母親:
すごいやさしく接してくださったので

(Q.なんでこじれるんやろうって、 暴言とかってことですか?)
何か理由があったんだろうなと、すごくお会いした時に思いました

(Q.泉さんが暴言しちゃうぐらいのなんか事情があったんだろうなって?)
しっかりした理由があったんだろうなという風に感じました。そこまでさせたんちゃうんとかなあ。分からんけど。そんなん理由もなくするん?みたいな

新実キャスター:
泉さんがポロっとレッテルを貼った相手というのは地に落ちます。実態以上に場合によっては批判の対象になることもあるんだろうなと今回実感したんですね。なんかこう敵味方の二元論者のように見えてしまうのは、残念な気がするんですけど

明石市 泉房穂市長:
んー。今の民意を反映した議会になるためには、一定程度、判断材料いりますから。そこで何もしなければトラブルは起こらないけど、街を変えられたかと。申し訳ないけどもっと上手にできたのか?と言われると、すいません、精一杯やってきたけど自分の限界です、というのが正直かなあ。ちゃんと街を作りたい、街をやさしくしたいと思ってるだけですから

新実キャスター:
その過程で「泉さん、やさしくねえな」と思う人が一定数出てしまうのは、しょうがないですか

明石市 泉房穂市長:
あーそれ言われるんですよ。近しい友達からも言われる。「お前、やさしい社会と言うけど、お前一番冷たいんちゃうか」と。冷たいとは思いませんけど、街をやさしくするためには、市民を救うためには、時に鬼になったり、時に嫌われ者になることは、自分の役割使命の一つと思っているので。嫌われたくないと思ったことはないです

(関西テレビ「報道ランナー」2023年1月5日放送)

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