福岡市内の高校に通う1年生の女子生徒が、部活動の顧問からの暴力や暴言を理由に、自ら命を絶った。なぜ愛するわが子を失わなければいけなかったのか。母親がその苦しい胸の内をカメラの前で明かした。

“真面目な努力家” 娘がなぜ…

中学校の卒業式で、友人たちと一緒にピースサインをする女の子。2020年の夏に亡くなった侑夏さん。当時、まだ15歳だった。

この記事の画像(14枚)

活発で、明るくて、人を喜ばせることが大好き。その一方、母親の影響で小学1年生から始めた剣道に対しては、人一倍、真面目に取り組む努力家だった。

侑夏さんの母親:
(娘があんなことになったのは)私が、剣道をしていたせいでって思いが、最初あって…

ふり絞るように「後悔の念」を口にしたのは、侑夏さんの母親だ。

侑夏さんの母親:
本当に優しくて良い子だったんですよ。剣道と一緒に育ったような子なので…。悪いのは剣道じゃなくて、博多高校の部活の場が悪い

剣道では“ありえない”あざのでき方も

2020年8月。福岡市東区にある博多高校の1年生だった侑夏さんを死に追いやったのは、剣道部の顧問2人による指導という名の「暴言」や「暴力」だった。

中学時代に地区大会で何度も優秀な成績を残し、特待生として博多高校に入学した侑夏さん。男性顧問は侑夏さんに「貴様やる気あんのか!」、「特待生としての責任がある!」と執拗に暴言を浴びせ、竹刀で何度も「突き」をしたり、体当たりをしたりしていたという。

侑夏さんの母親:
剣道では、ありえないあざのでき方があって…。娘から練習に来てと言われて、行ってみたら聞いたことないような暴言…。「これは(学校側に)一言、言っとかんと」と思って…

「指導のあり方をどうにかしてほしい」と、母親は剣道部の顧問に相談した。しかし対応はなく、その4日後、侑夏さんは自ら命を絶ってしまったのだ。侑夏さんのSNSには、悲痛な心の叫びがつづられていた。

「死ぬために部活休んだ」
「部活ていう存在が死にたい原因なのにね」
「誰が悪いって心が弱い私が多分悪い」
「迷惑かけてわがままばっかでごめんなさい」

侑夏さんの死から約半年後、2人の顧問は離職した。

侑夏さんの母親:
娘は、真面目で、責任感もあって、本気でやってきたからこそ続けていけなかった。はっきり言って、異常だと思う

侑夏さんの母親は2022年3月、代理人弁護士とともに損害賠償を求め、提訴することを決意。博多高校に対し、法廷で争う意向を伝えた。

すると学校側は、顧問の不適切指導があったことを全面的に認め、示談を申し入れてきたのだ。

侑夏さんの母親:
和解だから許したのかと言われると許すことは出来ない。ただ…、娘に「校長先生は責任を取ってくれたよ」というふうには(言いたい)ですね…

母親は学校側が謝罪し、再発防止策を約束することなどを条件に、示談に合意。再発防止策のなかには、事件を風化させることなく今回の教訓を最大限活かすこと、部活動の指導方法を年に1回検証することなどが盛り込まれた。

一連の問題について、博多高校側がTNCの取材に応じた。

博多高校 肥後忠俊教頭:
当時、顧問の指導方法を十分に把握できておらず、本当に申し訳ない。二度と起こらないよう全力を尽くしたい

子どもたちの将来摘み取る「指導死」

中学時代の発表会の動画で、侑夏さんは将来の夢を語っていた。

「私は、将来、柔道整復師になりたいです。そう思うようになったきっかけは、私が小さいとき、祖母が脳溢血で倒れ、右半身麻痺という後遺症が残ったことです」

子どもの将来を教育者が「指導」の名のもとで摘み取ってしまったいわゆる「指導死」。2012年には、大阪の高校のバスケットボール部の男子部員。2018年には岩手の高校のバレーボール部の男子部員が自ら命を絶った。

全国で度々問題化するこの「指導死」をどうすれば根絶できるのか。侑夏さんの母親は、悲劇を決して繰り返してほしくないと訴える。

侑夏さんの母親:
子どもたちには、自分が置かれている環境が異常なのかもしれないと考えるきっかけになってくれればと思います。厳しくて当たり前とか、きつくて当たり前みたいなのが、もしかしたら異常な環境なのかもっていう。保護者の方にとっても、どこかの誰かじゃなくて、身近な問題として大丈夫かなと思うきっかけになったらいい

指導と体罰の境界線が“グレイ”という難しさもあるが、亡くなった侑夏さんの母親は「この指導の方法で本当に大丈夫なのか」という視点を持ち続けてほしいと訴えている。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
テレビ西日本

山口・福岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。