医療の正しい知識を有する名医たちが、健康に関するお悩みを解説。今回は小児科の専門医、京都大学附属病院 小児科の八角高裕(やすみ・たかひろ)准教授が、風邪の原因となる「RSウイルス」について徹底解説。

多くは軽症ながら、無呼吸発作や喘息を引き起こすことも。子供だけでなく大人も感染し、特に高齢者では重症化の恐れもあるRSウイルスの注意点について解説する。

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RSウイルスとは

まずRSウイルスは一般的な風邪のウイルスの1つです。1歳までに過半数、2歳までにほぼ全員が感染するウイルスであり、生涯にわたって感染を繰り返す可能性があります。

RSウイルスの症状

まずRSウイルスに感染すると、大体2~8日間多くは5日間前後の潜伏期の後、鼻水やせきといった、軽い風邪の症状が出てきます。発熱することもありますが、高熱になることは多くありません。せきや鼻水は長引く傾向がありますが、多くの場合は普通の風邪で済みます。

しかし一部の症例では気管支炎肺炎を引き起こし、そうなると、呼吸そのものが苦しくなるぜんそくのような症状が出て、入院が必要になる場合があります。

このほか、まれではありますが「無呼吸発作」といって、赤ちゃん自身が呼吸を止めてしまう状態になったり、脳炎を合併することもあります。

RSウイルスによるもう一つの問題に、風邪が治った後の後遺症があります。

RSウイルスに罹患すると、その後ぜんそくを合併するリスクが高くなることがわかっています。特に、最初の感染で、肺炎や気管支炎を発症した患者では、その傾向が強いことが知られています。

RSウイルスの感染経路

RSウイルスの感染は、せきやくしゃみなどのしぶきに含まれる、ウイルスを吸い込むことによって起こります。専門的な言葉では「飛沫(ひまつ)感染」と呼ばれるものです。

この飛沫が付着したものを触り、口や鼻に運ぶことによって間接的な感染も起こり得ます。ドアノブや手すり、イスやおもちゃなど、赤ちゃんは何でも口に含む機会が多いので、そのようなものを触って、口に含んで感染する場合もあります。

RSウイルスの治療法

RSウイルスに直接効果のある薬は存在しません

ですので、引き起こされた症状に対する対症療法を行うことになります。痰を出しやすくする薬を使ったり、乾燥を防ぐために加湿を促したり、脱水を防ぐために水分を多く取らせたりすることになります。

ぜんそくのような症状が強くなって入院した場合には、呼吸の苦しさを取るような治療を行いますが、残念ながら、非常に効果がある・効果が証明された治療というのはまだ存在していません。

RSウイルスの予防法

RSウイルスの予防は、いわゆるかぜの予防、ということになります。手をよく洗い、うがいをして、ウイルスが付着している可能性があるものを清潔にすることが中心になります。

早産や、体重が軽くて小さく産まれた赤ちゃん、肺や心臓に問題がある赤ちゃんなど、RSウイルスに感染すると肺炎や気管支炎を起こしやすくなるリスクが高い赤ちゃんに対しては、RSウイルスに対する抗体を注射できます。

ご自分のお子さんがこの治療の適応になるかどうかは、かかりつけの先生に質問していただければと思います。

また最近は、RSウイルスに対するワクチンの開発が進んでいます。近い将来、RSウイルスに対するワクチンが使えるようになる日がやってくるかもしれません。

家庭でできる対応

お子さんがRSウイルスにかかってしまった場合、お家では、脱水を防ぐために水分を多めに与えたり、呼吸が楽になるように痰や鼻水を吸ってあげるなどしてあげてください。

またRSウイルスは、お父さん・お母さん、おじいちゃん・おばあちゃんにも感染が広がり、時には重症化することも知られていますので、感染が広がらないように、うがいや手洗いなどを行ってください。

またお子さんが回復した後、保育園や幼稚園に行かれることもあると思いますが、数日間は感染を広げる可能性がありますので、その点にも注意して登園することをお勧めします。

RSウイルスの診断法

RSウイルスの診断では、いわゆる「抗原検査」が行われます。

鼻から綿棒を喉まで差し込んで液を取り出し、その中にウイルスが含まれているかを検査することが可能です。検査結果は10分程度で出ますので、それによって感染を証明することができます。

他のウイルスとの違い

RSウイルスは先述の通り、一般的な風邪のウイルスです。風邪にはほかに、インフルエンザや、最近流行しているコロナウイルスも含まれます。

熱やせき、鼻水が出る点では一緒ですが、コロナウイルスは小さなお子さんで強い症状を呈することはまれだとされています。インフルエンザは、せき・鼻水も出ますが、どちらかというと高熱が出ることが特徴的です。

一方RSウイルスは、高熱が出ることはあまり多くなく、呼吸・咳き込みが特にひどいことが特徴として挙げられると思います。

重症化リスクについて

ここまでは主に赤ちゃんやお子さんについて述べてきましたが、RSウイルスは、大人にも感染するウイルスです。

多くは非常に軽い風邪で終わるのですが、中には結構咳き込みが大変だったというお母さんの話を聞くこともあります。

また、特に、高齢の体調が悪いおじいちゃん・おばあちゃんが罹患すると、それによって亡くなることもあると言われているので、特にご家庭に高齢の方がおられる場合は、注意されることをお勧めします。

症状がひどい場合は早めの診断を

今回はRSウイルスについてご説明しました。

普通の風邪ですので必要以上に怖がる必要はありませんが、特に、呼吸が苦しい・あまりにも咳き込みが激しいなどといった場合には、早めにかかりつけの先生に相談されることをお勧めします。

八角高裕
八角高裕

学歴:
昭和62年04月 ~ 京都大学医学部医学科
平成10年04月 ~ 京都大学大学院医学研究科

職歴:
平成05年06月 ~ 京都大学医学部附属病院、その他関連病院
平成17年09月 ~ ボストン小児病院免疫部門リサーチフェロー
平成20年03月 ~ 京都大学医学部附属病院 特定病院助教
平成23年10月 ~ 京都大学大学院医学研究科 発達小児科学 講師
平成31年04月 ~ 京都大学大学院医学研究科 発達小児科学 准教授

専門領域:(小児)免疫異常症全般
[原発性免疫不全症、小児リウマチ・膠原病疾患、アレルギー疾患]