シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は呼吸器内科の名医、関西医科大学呼吸器・感染症アレルギー科の宮下修行医師が、「マイコプラズマ肺炎」について徹底解説。10代20代の若年層に多く、頑固な咳が長く続くマイコプラズマ肺炎。オリンピック病とも言われる理由や風邪との違い、治療法や予防法について解説する。

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マイコプラズマ肺炎とは

マイコプラズマ肺炎は、主に若年者、10代、20代の方が罹患しやすい、いわゆる年齢差がある微生物として知られています。

細胞壁を持たない微生物なので通常私たちが使っているベータラクタム系の抗菌薬、例えばペニシリン系とかセフェム系は有効でないところが大きなポイントになります。

もう1点は、やはり若年者が罹患しやすいということで、小中高大学といった学校内で小集団の感染を起こすことが大きなポイントです。

3つ目は、非常に(せき)が強く飛沫感染をするので、容易に小集団の中で感染が広がりやすいのと、こういった微生物はコロナと同じで冬期に流行しやすいのが特徴です。

マイコプラズマの症状の最も大きな特徴は咳で、この咳が極めて頑固です。

頑固というのは、例えば咳で夜寝れない、寝たんだけど咳で起きてしまう、一日中咳をすることによって仕事に支障をきたしてしまうことです。

頑固な咳は、例えば百日咳でも同じようなことが起こりますが、こういった症状が最も特徴的です。

一方で、ライノウイルスを代表とするような風邪症候群との大きな違いは、いわゆる鼻汁、鼻閉といった鼻の症状が少ないことです。そのほか、咽頭痛や発熱、倦怠感などはあまり差がありません。

潜伏期間は、正確なデータはわかっていませんが、だいたい2週間から3週間、早いものでは1週間でも接触から感染する症例も出ています。

マイコプラズマは流行にあわせてコロナのように遺伝子変異を起こします。

どこに遺伝子変異を起こすかというと、アタッチメント、接着因子のP1というところの遺伝子に変異を起こしてきますので、株によって潜伏期間が異なります。

コロナ禍でのマイコプラズマ肺炎と致死率

マイコプラズマの大きな特徴は、オリンピック病、すなわち4年に1回の周期で感染が起きていたところがあります。ただ、2000年を境にこの流行がなくなりました。

しかし2012年に大流行し、ここから再び4年周期が始まりました。本来のオリンピックの年の2020年に広がる予定でしたが、コロナ禍においてみんながマスクをした、感染対策を徹底したことによって流行しなかったという経緯があります。

よって、今後4年周期がどうなるかは予測できません。

細菌性肺炎の代表である肺炎球菌性肺炎と比べると、診断さえ間違えなければほぼ亡くなることはありません。基本的にはセルフリミットのかかるような微生物なので、致死率はほぼ0%に近いと考えていただいて結構です。

ただし健康な方で、2~3%が重症化してICUに入室したり、人工呼吸器を装着するようなことがあるので、この点は要注意とお考えください。

マイコプラズマ肺炎の合併症

マイコプラズマに関しては、例えばリモートエフェクトといわれるように免疫応答が関与することによって全く異なった臓器、例えばとか、肝臓腎臓合併症を引き起こすことが小児期に多いといわれています。

有名なところでは、ギランバレー症候群や脳炎、皮膚の結節、スティーブンス・ジョンソン症候群ですが、頻度はさほど多いものではありません。

今回、コロナで検査方法がよく取り沙汰されましたが、PCR検査、抗原検査のいずれの方法もマイコプラズマで応用が可能です。ただし、PCR検査に関しては結果が出るのに少し時間がかかるので日常的によく汎用されているのが抗原検査です。だいたい15分~30分で回答が得られるためよく使われています。

ただし、遺伝子診断に比べると感度が落ちるので、抗原検査陰性だから陰性とは言えない点に注意しなければいけません。

マイコプラズマ肺炎の治療法

タンパク合成阻害薬、並びに、いわゆるDNA合成阻害といったような薬剤が非常に友好的です。例えば、タンパク合成阻害薬ならばテトラサイクリン系の抗菌薬やマクロライド系の抗菌薬。DNA合成阻害薬でしたらキノロン系の抗菌薬が極めて有効な薬剤となります。

ただし、現在の問題点は、マクロライドは特効薬と言いましたが、マクロライドの耐性株というものが約30%存在するということで、マクロライドが効かないわけではないが治癒が遅れてしまうような症例が目立っています。

従って、成人領域では、我々はガイドラインにおいて、テトラサイクリン系の抗菌薬を推奨しています。

風邪薬の治療効果は?

マイコプラズマは、菌が炎症を起こしているので菌をやっつけなければ炎症は治まりません。すなわち風邪薬を飲んでも症状は柔らぐが菌がいる限り症状は再燃します。

咳が長引く風邪に重要な微生物が3つあります。

マイコプラズマクラミジア百日咳は、適切な抗菌薬を使うことで症状を緩和させたり、症状の期間を短くすることができるので、診断をきちんとして治療することが重要になります。

呼吸器系の微生物に対しては、マスクが極めて有効です。

そして飛沫は、だいたい咳が2メートルといわれているので、マスクが無い場合は2メートル離れる。これが最も重要な予防ポイントになります。

宮下修行
宮下修行

1989年3月 川崎医科大学 卒業
1995年3月 川崎医科大学大学院 医学研究科修了 (博士号取得)
1997年4月 米国ワシントン大学 病原微生物学教室研究員
1998年4月 川崎医科大学 呼吸器内科 講師
2011年4月 川崎医科大学 総合内科学1 准教授 
2019年1月 関西医科大学内科学第一講座 呼吸器感染症・アレルギー科 教授 関西医科大学附属病院 感染制御部 部長
委 員 日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン」作成委員
日本呼吸器学会「咳嗽・喀痰診療のガイドライン」作成委員