12月22日(木)から大阪府門真市の東和薬品RACTABドームで開催される全日本フィギュアスケート選手権。

羽生結弦がプロへと転向し、「シン・フィギュア」時代に突入したフィギュア界。

次なる主役はどんな選手だろうか。さまざまな思いや目標を抱えて全日本選手権に挑む選手たちを紹介する。

2020年に全日本選手権で優勝した紀平梨花
2020年に全日本選手権で優勝した紀平梨花
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今回はシニアに転向してから初めての地方大会スタートを経験した紀平梨花だ。2019年、2020年と2度の全日本優勝の経験を持つ。

そんな彼女は、右足の距骨骨折疲労で昨シーズンを全休。北京オリンピックを目指しながらも、その代表選考会でもある全日本も欠場し、治療に専念していた。

2年ぶりに出場する全日本。

紀平はこの1年どんな思いを抱え、スケートと向き合ってきたのか。今シーズンは順調にステップアップしている紀平の全日本への思いと「今の夢」を聞いた。

「あの日々は地獄だったと思うんです」

かつてないほどの苦しみと戦い続けてきた紀平は「本当にこの先スケートができなくなるかもしれない」と思っていたと、この1年を振り返る。

2019年から全日本を2連覇、トリプルアクセルと4回転サルコウを武器に日本女子のエースとしてオリンピックのメダルも有力視されていた。

しかし2021年の北京オリンピック最終選考会に紀平の姿はなかった。

練習拠点のトロントで1年間のことを振り返る紀平梨花
練習拠点のトロントで1年間のことを振り返る紀平梨花

「もう、あの日々は地獄だったと思うんです。動いちゃいけないのに動いてしまって『ちょっと痛いのにな』って思いながら動いたり。

でも休んでいたら『オリンピックに間に合わない』みたいな。何にしても、どの選択肢にしても『ヤバすぎる』という。こうすればうまくいけるかなというプランをどれも選択してもはまらない感じで」

紀平の右足は高難度ジャンプで追い込み続けた影響か、限界に達していた。

それでも心機一転で迎えた今シーズン。525日ぶりに紀平は戦いのリンクに帰ってきた。

キスアンドクライで「ずっと願っていました」

右足はまだ完治していない中でも、全日本出場のためには必須となる予選会。

中部選手権で紀平梨花は全日本のチケットを手にする
中部選手権で紀平梨花は全日本のチケットを手にする

9月の中部選手権に出場した紀平の演技は、決してそこまでジャンプの難度は高くはないが美しいスケートは健在だった。

キスアンドクライでは祈るようにして待っていたという
キスアンドクライでは祈るようにして待っていたという

演技後、キスアンドクライで「ずっと願っていました。お願い!って」と祈るような気持ちで点数を待っていたという。結果は合計154.49点の6位。

次のステップである西日本選手権はグランプリシリーズへの派遣のため、免除されていた。つかんだ全日本へのチケットに、点数が出た後「良かった」とこぼした。

中部選手権を終えた紀平はインタビューに応じてくれた
中部選手権を終えた紀平はインタビューに応じてくれた

中部選手権を終えて紀平は「スケート人生に全然まだまだ満足できていない。それが原動力になったし、全日本選手権出場が決まってので、そこはすごくホッとしている。私からしても確かに“シン・紀平梨花”だと思っている」と前を向いた。

その後、10月にGPシリーズスケートカナダで合計184.33点の5位、11月のフィンランド大会は合計192.43点で4位と好調のようだ。本人もフィンランド大会を終えた後には「さらに上を目指したい」と意識が変わったという。

トロントで全日本に向けて追い込み練習をする紀平
トロントで全日本に向けて追い込み練習をする紀平

そんな彼女は12月上旬、練習拠点であるカナダ・トロントで全日本に向けて追い込み練習をしていた。

トロントでの練習は、紀平にとって去年の全日本や北京オリンピックにも出られない状況の中、支えになった場所だった。

「絶対できる」コーチ陣たちの存在も心の支えに

「ケガのことを考えすぎず、スケーティングとかを楽しく練習できた。現実と向き合うともうパニックだったので、そういうことを考えすぎないように練習できたと思っています。

ケガをして後ろ向きになりそうな状況でも、忘れられるような練習ができて、ここで練習ができてよかった」

そう振り返る紀平は、練習にも力が入る。

ケガをした右足のつま先を付いて跳ぶトリプルフリップを完ぺきに着氷。

全日本ではさらに高難度のトリプルルッツまで視野に入れているようだ。

練習後に今の調子について話してくれた紀平
練習後に今の調子について話してくれた紀平

「今のフリップみたいにあまり右足に負担をかけないようなトゥ(つま先)の付け方で跳べるようになったら、ルッツも同じだと思うので。

あとはダブルからルッツをたくさん練習して、感覚がよくなったら痛みも出にくいジャンプが跳べると思います」

紀平を指導するブライアン・オーサーコーチ
紀平を指導するブライアン・オーサーコーチ

驚異の回復を見せる紀平について、指導するブライアン・オーサーコーチはこう語る。

オーサーコーチは「いつも彼女のフィジカルに驚いている。ケガが回復するにつれて“紀平梨花は特別”と言われる理由がわかった。彼女は今の女子フィギュアで必要なすべてを兼ね備えています」と絶賛した。

こうしたオーサーコーチや他のコーチ陣の存在が、落ちていた彼女の心を上へと向かせてくれた。

「あなたなら絶対できる」や彼女の可能性を信じ続け「4年後がある」「4年後に向けて頑張ろう」と声をかけ続けてくれたコーチ陣の言葉が、背中を押してくれたという。

紀平はケガをしたことで「ポジティブな思い」も手にしたという
紀平はケガをしたことで「ポジティブな思い」も手にしたという

これまで日本のエースとして常にプレッシャーと戦い続けてきた紀平。

ケガをしたことはツラい経験だったが、それによって手にした「ポジティブな思い」もあった。

今の夢は「オリンピックと世界選手権のメダル」

「(ケガをする)前までは、すごく義務というか、『勝たなきゃいけない』みたいな思いで。でも今は『やりたい』とか『頑張って成績を取りたい』という思いがある」

全日本への意気込みを語る紀平
全日本への意気込みを語る紀平

目前に迫る2年ぶりの全日本に向けて紀平は「全日本に出るからにはしっかり成績を残したい。自分でもやり切ったと思える演技をして、表彰台に上がりたいという思いもすごくあるので、表彰台を狙っていける状態にして、ノーミスの演技を目指したい」と意気込みを語った。

紀平の全日本に対する思いは、その先にある世界選手権や四大陸選手権を見据えているからでもある。

まだ「完全復活」とは言えない状況でも、紀平は「オリンピックと世界選手権でメダルはもちろん獲りたい…です。獲りたいなぁ」と望みを口にする。

すると徐々に思いが強くなったのか、「メダルを獲りたい」という表現に変わっていった。

「今の夢」について明かしてくれた紀平
「今の夢」について明かしてくれた紀平

「ここまで頑張ってきて、成績が届かずに終わるのはちょっと嫌。頑張ってきた分はしっかりと世界選手権とオリンピックで、メダルは獲りたいです」

何度も強さを見せてきた全日本の舞台で、“シン・紀平梨花”は新たな輝きを放とうとしている。

「日常の当たり前を最近、噛み締めています。しっかりと全日本選手権でも、大きく成長した自分を演技でお見せできたらいいなと思います。

ケガをしても待ってくださっていたファンはすごくいて、全く表に出ない時期でもメッセージやお手紙をくださったり。すごく力になって支えになった。それをしっかりと感じて、みなさんが笑顔になれるような演技をしたいとも思っています」

全日本フィギュアスケート選手権2022
フジテレビ系列で12月22日(木)から4夜連続生中継(一部地域を除く)

https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/japan/

全日本までの道の詳しい概要はフジスケで!
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/figure/toJPN.html

フィギュアスケート取材班
フィギュアスケート取材班