12月22日(木)から始まる全日本フィギュアスケート選手権。
羽生結弦がプロへと転向し、「シン・フィギュア」時代に突入したフィギュア界。
次なる主役はどんな選手か。さまざまな思いや目標を抱えて全日本選手権に挑む選手たちを紹介する。
今回は“どん底”も味わい、苦難の道を歩いてきた山本草太(22)、そして“脱・代打の神様”を掲げる友野一希(24)の2人。
勢いが止まらない山本と全日本の次、世界選手権の代表をつかみとりたい友野の全日本にかける思いに迫る。
僕からフィギュアをひいたら、なにもない
6年連続9回目の全日本出場となる山本。

シーズン前には「変わった山本草太を見せられるように、そんなシーズンに出来たらなと思っています」と意気込みを語っていた。
その言葉通り山本は、今シーズンに劇的な進化を遂げた。
そんな彼が大きな注目を浴びたのは15歳のとき。2015年、ジュニアの世界選手権で宇野昌磨とともに表彰台に上がる。さらに4回転ジャンプも成功させた。
破竹の勢いで成長していく山本に2016年、悪夢が襲った。ハンガリーで開催される世界ジュニア選手権に出発する直前の練習中にジャンプで転倒。右足首を骨折してしまう。

このけがにより氷上から離れることを余儀なくされた。約半年間で2度の骨折、3度の手術を経験し、順調だった競技人生に大きなゆがみが生じた。
2017年、氷上に復帰した山本だったが、万全とは言えなかった。
中部選手権に出場した山本は「今のところ、順調という感じは正直言えなくて、まだまだこの足のことを考えて日々、生活しなければいけない」と肩を落とした。
それでも山本は必死に前を向く。
1回転ジャンプから始まった復帰の道のりだったが、どんなときもフィギュアスケートへの情熱を失うことはなかった。

当時のことを振り返りながら山本は「僕からフィギュアスケートをひいたら、本当になにもなくて」と苦笑いする。
再び高みを目指して、努力を重ね、スケートと向き合い続けると徐々にトップフォームへ。
2021年、全日本のショートでは4位に入る大躍進。しかしフリーではミスが続き、8位に。自身が思い描いた結果は出なかった。
普段の苦しい練習が本番で力を発揮させる
悔しい思いを何度もしてきた山本だが、今シーズンからフィジカル面では新たなトレーニングを取り入れ、頭の中のすべてはスケートのために費やした。

「氷に乗る前から『どういったアップをしたら動きやすくなるんだろう』とか『どういった靴ひもの締め方だったら、どう力が加わって跳べるんだろう』とか、本当にスケートのためにいろいろなことを考えながら日々生活できています。練習が苦しいというよりか、毎日の練習を楽しんでいるという純粋な気持ちです」
その愚直なまでの姿勢に対して、NHK杯直後の会見でジュニア時代から苦楽を共にしてきた宇野は「間近で見ているからこそ、練習で素晴らしい演技をしているのを見ているからこそ、試合でも良い演技をして欲しいと強く思っています」と語っている。
そんな山本の努力は、ついに今シーズン、結果として表れる。
去年より4回転ジャンプを1本増やしたプログラムで跳んだグランプリシリーズでは自身初となる表彰台に上った。
さらにグランプリファイナルでは、初出場ながら宇野に次ぐ2位の快挙を達成した。

12月13日に帰国した際の会見で山本は「(グランプリファイナルで)メダルが取れてすごくうれしいですけど、次の試合、全日本が迫っているので気持ちは切り替わっている」とすでに全日本を見据えていた。

常に日々の「練習」に重きを置き、大事にしてきた山本は、その積み重ねが実っていることも実感しているという。
「今シーズンはいろいろな試合に出て、試合前に構えることがなくなった。全日本も特別な舞台ですが、一つの試合としてベストを尽くすだけ。しっかり練習を積んで、練習通りの成果を本番で出せたら。すごく落ち着いて試合を楽しめるようになってきた。楽しめるのは普段の苦しい練習を積んでいるから、“本番でできる”という自信があるため、楽しめている」

その全日本に向けて「力を出し切れれば可能性が見えている位置にはつけていると自分でも思えている。全日本の、特にフリーで、リベンジできたらなと思っています」と雪辱を誓う山本。
「(グランプリファイナルでは)ショートもフリーもノーミスでそろえることができた。ファイナルでの演技を全日本でも出来たらと思います」と意気込みを語った。
そんな山本に対して「彼がいないと僕はここまで頑張れていない」と語るのは、友野一希だ。
脱・代打!次は“代表”の座をつかみとる
「彼の存在に引っ張られすぎているところもある。ずっと苦しんでいた分、今シーズンは『もう草太、今年来るな』って。ガチで強い草太と戦うのは初めてなので、僕もしっかり集中して僕らしい演技で互いに切磋琢磨し合えたら」
今季、GPシリーズで戦い、着実に点数を伸ばしている友野。

そんな彼は過去に5つの国際大会で“代打”で出場。
世界ジュニア選手権、NHK杯、世界選手権、四大陸選手権、2022年3月の世界選手権に代打派遣され、“代打の神様”とまで呼ばれるように。
その3月の世界選手権では6位に入賞した。

しかし、表彰台に立てなかった友野は、今シーズンに「自分の足りなかった部分を補おうという気持ちで練習してきた」と語り、「昨シーズンよりもよく集中できている」と話し、成長を実感しているという。
今年出場したグランプリシリーズ2大会を経て、プログラムの出来は4回転にかかっているとも語る。
「今シーズンはすごく自信がある。昨シーズンはすごくいい点数が出せたけど『本当に点数が出るのかな』『どれくらい自分が評価されているだろう』という不安があった。今シーズンはそれがなくて、“ちゃんとしっかり自分の演技ができれば評価される”という自信はすごくついた」と手応えをつかんだという。

そんな友野も日本のフィギュア界ではベテランの域に入った。ここ最近は鍵山優真(19)や佐藤駿(18)、三浦佳生(17)と若手も台頭している。
盛り上がりを感じながらも、友野は若手の勢いはあまり脅威と考えていないという。
「フィギュアは自分自身との戦いなので。みんな良い演技をして戦えたら、努力が報われれば良いなと思いますし、その中で勝てれば良いなと。本当にみんなやったもん勝ちだと思います。しっかり僕は僕の戦い方で、総合力で勝てたら」
その友野は「今年こそは代表!」と“脱・代打の神様”を目標に掲げている。
「一番大事」だと語る目前に迫る全日本について「そこで勝たないと始まらない。もちろんそれ以降の目標もありますが、全日本がないと始まらないので、良い演技ができるようにしたい」と前を向く。

友野が示す「それ以降」は、2023年3月に日本で行われる世界選手権だ。
「昨シーズンから“次は代表”と言っていますし、有言実行ができるように。去年の世界選手権のインタビューで『次は代表』と言ったのを覚えているので、それが叶うようにひたすら頑張るだけ。本当にちゃんと代表になれるように、そこのステージに上がりたい」
そのためには世界選手権代表選考会でもある、全日本で結果を出さなければならない。
その全日本に向けて友野は「とにかく自分のベストを尽くすこと。それだけ。今までショートがダメでフリーが良い、ショートが良くてフリーがダメとか、そういうことがすごく多かった。どっちも安定した演技ができるように、今シーズン頑張って良かったと思える演技が、一番納得のいく演技をして、代表をつかみとれるようにしたい」と意気込む。
自分の弱さではなく強さに目を向ける
こうした中、今シーズンの友野は「試合を重ねていて、この友野一希というスケーターがすごく受け入れられているのを感じる」と明かす。

「1日1日大切に練習をしたい」と山本同様、練習の大事さを語る友野は、自分を磨き、今シーズンは“自分らしい”2つのプログラムで勝負してきた。
「自分のスケートは自分のスケートだから、それを磨ききったら点数がしっかり出ることを自分なりに分析して感じた。そこが評価されてきて、僕のスケートが認められてきて点数に表れているのは本当にうれしいし、今シーズンはそう思う。
だからこそ、どんな演技でもどんなプログラムでも、僕というスケーターとして見てくれると思うし、友野一希というスケーターの完成にふさわしい2つのプログラムだと思う」

フィギュアスケートと向き合い、より自信をつけた友野はNHK杯後に気づいたことがあるという。それは「自分の強さに目を向けること」だ。
「今まで自分の弱さに目を向けていたけれど、だいぶ克服しつつあって、次は自分の強さに目を向ける努力をしたいけれど、意外とそれも難しい。
自分の強さをしっかり認めて目を向ける努力をしようとNHK杯で感じた。それが僕に足りないところ。しっかり今後は“強さ”に目を向けて、今シーズンの全日本はできたらいいなと思います」
着々と階段を上ってきた山本と友野。全日本で2人がどんな演技を見せてくれるのか、期待したい。
全日本フィギュアスケート選手権2022
フジテレビ系列で12月22日(木)から4夜連続生中継(一部地域を除く)
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/japan/
全日本までの道の詳しい概要はフジスケで!
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/figure/toJPN.html