12月、広島市で手作りの小さなファッションショーが開催された。モデルを務めたのは全員、ダウン症の女の子。ファッションを通して成長する彼女たちを、保護者や同世代の女性がさまざまな思いで受け止めた。
自分に似合う”色”を見つける
参加者:
夢はモデルさんになることです

参加者:
私の夢はデザイナーになることです

広島市の東区地域福祉センターでダウン症のある女性を対象にした講習会が開かれた。
広島文化学園短期大学・高橋佑子 講師:
パーソナルカラーって聞いたことありますか?

4回にわたる講習会で参加者はファッションについて学び、最終的にモデルとしてファッションショーに出演する。それをサポートするのは、大学生のボランティアだ。

この日のテーマは「パーソナルカラー=自分に似合う色を見つけよう」。

例えば、ピンク系の色でも濃淡さまざま。何色もの布を参加者の胸元にあてて、似合う色を探していく。
広島文化学園短期大学・高橋佑子 講師:
これも似合うと思います
参加者:
この色のほうが好き

講習会を企画したのは、NPO法人ニコループ。「えがおをみらいへつなげる」を理念とした団体は、広島県内のダウン症のある人の保護者や支援者によって構成されている。
NPO法人ニコループ・池田幸恵 副理事長:
この講習会の中で、自分らしさを表現することの楽しさを学んでほしいなと思っています

講習会の間、保護者は別の部屋で待機。そばで支えてきたからこそ、心配と期待でそわそわ落ち着かない。
保護者:
自分で服を選んでもらいたい。人に言われるままじゃなくて自立してほしい

保護者:
自分で服を選んだという経験がほぼないので、どんな服を選ぶのか楽しみですね

「自立させるにはどうしよう」
参加者の1人、真倉鈴果さん(18)の自宅を訪ねた。

鈴果さんは、この春に特別支援学校の高等部を卒業。今は週4日、就労支援の事業所で働いている。
真倉鈴果さん:
普段は寝る時に音楽を聞いたり、ジャニーズだけど

母・貴子さん:
女の子なので、やっぱりかわいくしてほしい。服装選びが難しいので、そこはお互いに悩みどころですね。いつもケンカになります

真倉鈴果さん:
朝からね
母・貴子さん:
朝からケンカするね
ダウン症のある人は、多くの場合、知的な発達に遅れがある。鈴果さんにダウン症があると分かったのは出産して1週間後だった。

母・貴子さん:
ショックだったのは覚えています。娘がダウン症だと受け入れるまでに、時間がかかったように思います

育児をしながら、常に「健常の子だったらどうだったんだろう?」と感じていた貴子さん。しかし、その思いは次第に消えていったという。

母・貴子さん:
自立させるにはどうしようとを考えているうちに、しょうがないと言ったら言葉が悪いんですけど「ああ、もういいや」って
今、ファッションやメイクに興味があるという鈴果さんに、貴子さんは成長を感じている。「ファッションショーが楽しみですね。ウォーキングやポージングはどうするのかなと思いながら楽しみにしています」と話す。
“かわいい”を共有 距離が縮まる
ファッションショーに向けて準備が進む。この日は、サポーターの大学生が付き添って洋服を選んだ。

大学生:
こっちの服にする?
真倉鈴果さん:
着てみる
大学生:
なんかすぐ決まりそうだね

自分が着たい服を自分で選ぶ鈴果さん。他の参加者も「これにする!」「真っ白な感じにしたい」などと積極的に自分の思いを伝えた。また、講習会を重ねることで、大学生と参加者の関係にも変化があった。選んだ服を身にまとう参加者に…
大学生:
かわいい!
参加者:
2人のほうがかわいいです

「ほめ上手〜」と笑い合う同世代の女性たち。”かわいい”を共有することで、お互いの距離が縮まっていく。その笑顔には健常とダウン症の垣根など見当たらない。
(Q:ダウン症の人と関わるのは?)
大学生:
初めてです。こんなにしゃべったりコミュニケーションが取れると思っていませんでした。いっぱい話せると気づけたので良かったです

大学生:
最初はめっちゃ不安だったんですけど、関わってみたらみんな本当に普通の子で。楽しくていい経験になりました

”自分で決める”って楽しい
迎えたファッションショー当日。参加者のヘアメイクを大学生が担当し、本番へ向けて気持ちを一つにした。

大学生:
かわいい!できた!
いよいよファッションショーが始まった。参加者が入場する前に、大学生がそれぞれのファッションを紹介する。

大学生:
パーソナルカラーが「春」だったので、一緒に春の色を探しました。それではどうぞ

次は鈴果さんの出番だ。
大学生:
鈴果ちゃんは絶対にスカートをはきたいという強い思いがあったので、初めにスカートを決めて、スカートを中心に服を決めていきました。それではどうぞ

ちょっぴり大人の雰囲気を意識したコーディネート。明るい表情から楽しさが伝わってくる。
真倉鈴果さん:
最初は緊張していたんですけど、曲が流れたらほぐれました

母・貴子さん:
こういうのが着たいんだなと知るいい機会になったので、親も大変勉強になりました

ファッションショーを通して、参加者は自分で考えて行動する楽しさを知った。保護者は子どもたちの可能性を見つけた。そして、大学生たちはダウン症の人々と触れ合うことでその垣根がなくなった。

この小さなファッションショーには”共に生きる社会”へのヒントが隠されている。
(テレビ新広島)