江戸時代から170年以上も続く、愛媛・西予市野村町の伝統行事「乙亥大相撲」。
地元の人たちにとって年に一度の晴れ舞台にかける意地とプライド、そして、土俵に向かう男たちの思いを見つめた。

20年ぶりの土俵…激しい稽古にも笑み

江戸時代の大火をきっかけに始まった奉納相撲が起源とされる乙亥大相撲。以来170年間一度も途絶えることなく、脈々と受け継がれてきた野村の伝統行事だ。2022年はコロナ禍で規模を縮小しての開催だったが、地区対抗の団体戦に加え、3年ぶりに個人戦も復活した。

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高井直也さん:
野村の男としては絶対に通っていく道だと思います。これを機に乙亥大相撲を頑張っていきたい

2022年、一般青年の部にデビューした34歳の高井直也さん(※高井さんの「高」ははしご高が正式表記)は、職場の同僚でチームを組み団体戦と個人戦にエントリーした。相撲を取るのは中学生以来、実に20年ぶりだ。

高井さんが乙亥大相撲に出ることになったきっかけは、今の職場に誘ってくれた同じ地区出身の大先輩だった。

高井さんを乙亥大相撲に誘った岡田久さん:
この会社に誘った時に、同じ地元なのに付き合いが全然なかったので、ちょうどいい機会なんで相撲でもやってみんかと。やってくれたら地域ともつながりができるし、友達も増えるし、人としても一回り大きくなるんやなかろうかと思って誘いました

真新しいまわし。34歳、新たな挑戦が始まった。20年ぶりの土俵、なかなか思うように体が動かない。

監督:
親指の内側が滑るくらいの感じイメージ的に。頭が逃げとる。頭が完全に逃げとるけん、押せん。押す練習になってない

激しい稽古にも笑顔がこぼれる高井さん。さすが野村に生まれた男だ。

高井直也さん:
久々でもう本当に右も左も分からん状態なんで。取りあえず頑張ってみようと思います

“相撲は人生の一部”30年出場の「ミスター乙亥」

町の中心部にある川東地区。ここにも並々ならぬ思いで相撲をとる人がいる。
乙亥に出場すること30年。団体戦や個人戦で優勝経験もある乙亥には欠かせない存在で地元では「ミスター乙亥」とも呼ばれている山田信二さん(51)だ。

しかし、6年前の山田さんは…。

6年前の山田信二さん:
何回か、けがして仕事場にも迷惑かけたんで、もうそろそろ…。2回ぐらい迷惑かけとるんで、相撲でけがして

過酷な取り組みに度重なるけが。これで最後と決意して土俵に上がったが…。

山田信二さん:
一時離れよう思ったけど離れられなかったんですけど、相撲があって自分がここまできとるんで、もうやめてもいい年ですけど、若い子も入ってきとる中で、仲間もおる中で、一緒にやれる。ここから離れたくないんかもしれんです

一度は引退を決断したものの、山田さんにとって相撲は切っても切り離せない人生の一部なのだ。

野村・東 那須重昭監督:
本当にレジェンドというか、生ける伝説っていうんですかね。やっぱり50を過ぎてでも相撲を取る。やったらやったで勝てる。これからもまだまだやってもらわないといけない

しかし、膝の十字靱帯(じんたい)を断裂するなど、幾度となく大けがに泣かされてきた体は満身創痍(そうい)。それでも山田さん、2022年はある秘策があった。

山田信二さん:
右足から出よったんですけど、右足が出たらすぐこけてしまうんで、踏ん張りがきかんので、左足から出て踏ん張ってっていう感じでやっていこうかと。負けるつもりで出てないんで、勝つつもりでいきます

立ち合いを左足から出るスタイルに変えた山田さん、手応えは上々のようだ。

「ミスター乙亥」決勝へ 34歳男性は悔しいデビュー戦に

そして、迎えた乙亥大相撲当日。
山田さんは、無差別級の個人戦にエントリー。1回戦は2021年に負けている因縁の相手。
豪快な投げ技で見事、2021年の借りを返した。

個人戦は準々決勝で敗退したが、山田さんの見せ場は3人制で行われた団体戦にあった。チームは順調に勝ち上がり、決勝進出を果たす。

決勝戦は1勝1敗となり、勝敗は大将戦に持ち込まれた。チームのリーダー的存在でもある大将は、もちろん「ミスター乙亥」こと山田さんだ。

勝てば優勝だが、相手は現役バリバリの24歳。親子ほど年の違う強敵に緊張感が漂う。

勝負は一瞬、叩き込みで敗れてしまった。

優勝こそ逃したが、会場からは惜しみない拍手が送られた。

山田信二さん:
最後、いい場面まで回してもろたんで、よかったです。また、できたらやってみたいですね。この土俵に立ちたいと思います。もう、やめるやめるは言いません。やれるところまでいってみます

一方、中学生以来20年ぶりにまわしをつけて、34歳にして一般青年の部でデビューを飾った高井さん。果敢に攻めの相撲を見せたが、力及ばす5戦全敗。ほろ苦いデビューとなってしまったが、その目はしっかりと次を見据えていた。

高井直也さん:
悔しいです。もうちょっと自分の相撲ができたなって思って。これからも乙亥大相撲を頑張っていきたいと思うので、その糧にできたらなと思います

さまざまな思いを胸に乙亥の土俵に立つ男たち。そこには地元を思い、仲間を思い、そして相撲を愛してやまない野村の伝統が息づいている。

(テレビ愛媛)

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