葉に触ったりすると、素早く葉を折りたたむオジギソウ。不思議な動きをするこの植物に触って遊んだ経験がある人もいるのではないだろうか。その様子はお辞儀しているようにも見えるが、何のために葉を動かすのかはこれまでわかっていなかった。

そうした中、埼玉大学の豊田正嗣教授らの研究チームは、葉が動くのは、草食性の昆虫から身を守る役割があることを解明した。

オジギソウ
オジギソウ
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研究チームがオジギソウの謎を解き明かすために、注目したのが葉の中にあるカルシウムだ。動物では、筋肉の収縮や神経伝達など様々な生理学的役割を果たすことが知られている。

このカルシウムを光らせるオジギソウを作り出し、オジギソウの葉の部分をハサミで傷つけた。その際、傷つけられた部位からカルシウムシグナルと電気シグナルが発生し、このシグナルが運動器官である葉沈に到達すると、わずか0.1秒後に葉の運動が起こることがわかった。

オジギソウ3種類の葉沈(画像提供:埼玉大学 豊田正嗣教授)
オジギソウ3種類の葉沈(画像提供:埼玉大学 豊田正嗣教授)

※オジギソウには3種類の葉枕があり、葉の高速運動に関わっているのは主葉枕と小葉枕で、副葉枕はあまり動かない。研究では、主に小葉枕に着目した。

オジギソウを傷つけた時に発生するシグナルを可視化したもの(画像提供:埼玉大学 豊田正嗣教授)
オジギソウを傷つけた時に発生するシグナルを可視化したもの(画像提供:埼玉大学 豊田正嗣教授)

次に、研究チームはゲノム編集技術などを用いて、葉沈をなくしたお辞儀しないオジギソウを
作り出した。そして、お辞儀する野生のオジギソウとお辞儀しないオジギソウの葉をバッタなどの草食性の昆虫に食べさせて比較したところ、お辞儀しない葉のほうが、昆虫に食べられる量が2倍増えたことがわかった。

バッタの食害によって起こるシグナルと葉の高速運動(画像提供:埼玉大学 豊田正嗣教授)
バッタの食害によって起こるシグナルと葉の高速運動(画像提供:埼玉大学 豊田正嗣教授)

こうした実験により、オジギソウの葉の動きが草食性の昆虫から身を守る役割があることが明らかとなった。

オジギソウの虫害防御高速運動モデル(画像提供:埼玉大学 豊田正嗣教授)
オジギソウの虫害防御高速運動モデル(画像提供:埼玉大学 豊田正嗣教授)

オジギソウの研究はチャールズ・ダーウィンの時代からされていたようだが、葉が動く役割は長らく明らかになっていなかった。今回、ようやくそれが解明されたことになる。

では、今回の研究結果発表後、反響はどうだったのか?
また、今後この研究はどう活かされていくのか?
研究チームの一人である埼玉大学の豊田正嗣教授に詳しく話を聞いてみた。

「動かないオジギソウの方が昆虫に食べられやすい」というデータに驚いた

――なぜオジギソウの研究を始めた?

オジギソウの葉の運動は、古くから研究されてきたのですが、そのメカニズムに関しては、不明な点が多く残っていました。最近、私たちの研究によって、植物にも動物の“神経系“のような長距離カルシウム信号伝達の仕組みがあることがわかってきましたので、刺激を感じて、葉を順々に動かしていくオジギソウにも同じような信号伝達の仕組みがあるのではないか、と考えたことがきっかけです。


――これまでお辞儀するのは、どんなことだと考えられていた?

我々が文献を調べた限りでは、高速運動は「葉の上の昆虫を驚かせる」「葉を閉じることで茎などについたトゲを見せる」「葉を閉じることで食べ応えの少ない葉だと思わせる」「過剰な雨から身を守る」ためなどの説があります。今回の研究によって、オジギソウを傷つけるとカルシウム信号が伝わることが明らかになったので、「昆虫の攻撃から身を守る」ためという仮説を立てて、研究を進めました。


――今回、こうした研究結果が出たことをどう思う?

過去に、オジギソウの運動は「昆虫から身を守る」ためではないか、という説はありましたが、科学的な証拠はありませんでした。今回、動かないオジギソウが動くオジギソウよりも昆虫に食べられやすい、というデータを見た時は驚きました。オジギソウは馴染みのある植物ですが、実はわかっていないことがまだまだあって、そこが科学の最先端なのです。


――葉が元に戻るタイミングについては、わかっていることはある?

葉が閉じるのも、開くのも、運動器官の葉枕の細胞での水の出入りが重要であると考えられています。葉が閉じる時には、収縮側の葉枕細胞から水が出ていき、開く時には水が入ってきます。葉が閉じるのは一瞬ですが、開くのには15~30分くらいかかります。

オジギシウ
オジギシウ

子ども向けメディアからの取材依頼殺到

――最近オジギソウを身の回りで見なくなったと思うのですが、何か理由はある?

オジギソウは熱帯アメリカ原産の植物で、日本に帰化して自生している地域もあります。温かい地域の植物ですので、沖縄などでは自生していますが、寒くなると枯れてしまいます。


――研究結果を発表してから、反響はあった?

国内のみならず、アメリカやオランダなどの様々な国から問い合わせがありますが、子ども向けのメディアからの質問や取材依頼が多いことに驚いています。オジギソウは子どもたちに人気があるのですね。


――研究は今後どんなことに活かされる?

私たちは「自然の不思議を探求する」基礎研究を行っていますので、応用はあまり重要視しておりません。ただ、オジギソウの高速運動のメカニズムが明らかになれば、より敏感なオジギソウを作り出せるかもしれませんし、普段動かない植物も動かせるかもしれません。もし、このような植物ができれば、虫に食べられにくくなるはずですので、食糧問題や環境問題に貢献できるかもしれません。


――この先はどんな研究をしていく?

我々の研究は、カルシウム信号が高速運動に関与していることを示していますが、どのような仕組みで運動を起こしているのかはわかっていません。
今後は、カルシウムイオンの下流に存在する因子、例えば、葉枕から水を流出させるタンパク質などを探していくことが重要だと考えています。



オジギソウは子どもに人気があり、今後は葉が動く理由についても学べるということになる。そして、オジキソウの運動のメカニズムがより明らかになれば、食糧問題や環境問題の貢献にもつながるかもしれないということだ。この先の研究にも期待したい。